屋上から

あおい はる

 わすれたいことだけ、ほうりなげたい。学校の屋上から、湖がみえる。ぼくの家も、となりの家の犬小屋も、さいきんできた大型ショッピングモールも、みえる。だれかを好きになるっていいよね、と言っていたひとが、だれかを好きになることを強要してくるとき、ぼくはすこしだけ、うんざりする。好きなひと、とは、自発的につくるものではなく、自然現象的に、できるものではないかという、十四才の思想。さいきん、やたらめったらに、死にたい、などとかんたんにつぶやく友だちが、けっこういて、みんな、深い意味はない、本気じゃないやつで、やっぱりそういうのは、ちょっとダサい、とぼくは思うだけれど、だまっている。たぶん、彼らはほんとうに、死にそうになったとき、死にたくないとわんわん泣くのだろうし、神さまにもひっしに祈る気がしている。きっと、跪いて、ひたいをこすりつけて、にんげん、というものの尊厳を、うしなったとしても。このちいさい町が、さいきんにぎわっているのは、あの大型ショッピングモールのおかげで、でも、ぼくは、この屋上からの眺め、町の景観を、あれが損ねているのだと、ひそかににらみつけている。静かでいいのに。おだやかに、ひと、なんて、そんなにいなくていいし、車も、すくないのがいい。森と、湖があって、山があって、学校よりも高い建物なんて、なくていいのに。ふべんだったとしても、いいのに。

屋上から

屋上から

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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