凧を揚げた日のこと
閲覧ありがとうございます。
日記みたいな文章ですが内容はすべてフィクションです。
これは随筆になるのか小説になるのか、嘘日記というようなものになるのか、よくわかりませんが、もしよければ最後までおつきあいください。
その日は天気がよく、いい風が吹いていたので、家の近くの土手へ凧を揚げにいく事にした。
凧は竹ひごとビニールと、糸と、プラスチックの糸巻き、それと少しの接着剤やテープで出来ている。
10年くらい前にテレビで紹介されているのを見かけて、思わず作ってみたのだ。
この凧は鳥を模した形をしていて、とてもよく揚がる。
凧は無造作に洋服屋のビニール袋につっこみ、私は真っ黒のジャンパーを羽織り、靴下を二枚はき、サンダルをつっかけて玄関をでる。
玄関の鍵は556をスプレーしてあるので滑らかに動く。
鍵をかけて、帽子を思い出したが、今日は風が強いのでやめておこう。それにあの帽子はもうきたないし、実はあんまり似合わないのだ。
家の前に停めてある、サドルがずるずる下がった、タイヤがくたびれた自転車に跨がった。
自転車に乗ると、私はいつも少年だ。
漫画とかテレビとかゲームとかの、主人公であった少年の頃の自分だ。
どんどんたんつくつかつくたんつく。
自転車をしゃかしゃかこぎながら、舌を擦ってリズムを刻む。
あれ。なんで自転車をこぐとアーメンブレイクをつぶやいてしまうんだろう。
途中アスファルトの継ぎ目で自転車の前輪が跳ね、前かごに乗せていた凧が飛び出してしまった。
線路沿いの道をしばらくまっすぐ行き、踏切を渡る。
踏切の脇にはいつもどおリ花が手向けてある。
ハッピーターンもある、飴も置いてある。10年以上つづく「いつもどおり」
茶色く染み付いたような純喫茶を横切ると、もう土手が迫る。
土手を息を荒くしながら登る。
自転車を押して、土手の急斜面を登る。
こんな時自分の年齢を思う。もう若くないのだ。
子供ではない、少年でもない、青年と、壮年の、おそらく間に位置する。
熟した、老いたと言えるまでにはまだ幾分余裕があるが、青春のただ中にいてはおかしいくらいの。
私は老いてもいい、そのかわり完成されていきたい。熟し、達し、練られた何かになりたい。
いやそれにしても坂がつらい。若い、というか子供の頃から、私は、坂なんか、大嫌い、だった、のだ。
土手の上に自転車を停めたが、おそらくこれでは風で倒されてしまうだろう。
どうせ倒されるならと、はじめから倒しておく事にした。
凧のビニールを手に提げ、土手の階段を探して川辺に下る。
川沿いのベンチの横、雑草で埋まって遺跡みたいになっているテニスコートに陣取った。
さぁ揚げよう。
風を待って、そよそよから、ふぅーっと吹き付けるような風を待った。
特別退屈する間もなく風が吹く。
両手で捧げるように凧を持ち、風を当ててやる。
自作の軽い、この凧は驚くほどの優れもので、あっという間に風をとらえ、ふわふわと揚力を得ていく。
急いで手をはなし、糸をたっぷりくれてやると、それをもぐもぐ食べるように、どんどん空に揚がってゆく。
私が子供の頃の凧揚げは、もっと汗や土の匂いがした。
重い、大きなカイトを父を一緒に揚げにいったものだ。
そのときは本当に大変で。一人が凧を持ち、もう一人が走り、凧に風をとらえさせて揚げていた。
寒い頃なのに(お正月だったと思うけれど)、父も私も汗をかきながら埃まみれになってやったものだった。
なんの苦労もなく凧はするする揚がる。
遥か上空の風が、糸を通して右手の糸巻きに伝わってくる。
糸が張れば張りすぎないように糸をくれてやり、糸がたるんでくると巻き取って凧をひっぱった。
上空の凧を左や右に操作する事も出来るらしいが、それは私にはできない。
もしかしたら何か改造したりもう少し構造を複雑にしてやる必要があるのかもしれなかった。
凧を上下に操作しながら、仕事の具合のこと、読むべき本のこと、お金のこと、飼い猫がさっぱりなつかないこと、
などなどをとりとめとなく考えた。
何事もこの凧のように、素晴らしく簡単に操作できたらいいのになあ。
そのぐらい凧はよくあがる。本当にいいものだ。
それでも何度か、凧は墜落した。
墜落してもこいつは構造が簡単で、別に壊れたりはしない。
2回ほど揚げ直したりしながら、2時間弱遊んだ。
その後は、土手の手前の純喫茶でやきめしを食べた。
かまぼこが入っているのだ。
昔冒険心でドライカレーを頼んでみたら、それにもかまぼこが入っていた。
本屋さんによって帰ろうかな、でも凧持ってるし家に置いてまたこようかな、いやそれはめんどうくさいな、
等と考えながら食べたので、美味しかったのかどうかよくわからない。
結局本屋にはしっかり寄って帰って、多分読まないだろうなと思うような本を一冊買った。
凧を揚げた日のこと
この文章を読んで、何か不愉快になった人等いらっしゃいましたら申し訳ありません。
気に入ってくださった方がいらっしゃいましたら、是非何か感想などいただけるとうれしいです。
どうもありがとうございました。