鮮やかな殺人

祈雨 凱

鮮やかな殺人

「やさしくしたい」
この言葉は、許された人にとっては高潔で、尊く、清いものなのだけれど、さんざん言葉をナイフのように扱ってきた僕が言って仕舞えば、下劣で、醜く、汚い。
傷つけるとは、言葉をナイフのように扱うとは、なにも、暴力を振るうことじゃない。口汚く罵ることじゃない。傷つけないための嘘も、何一つ高潔なんかじゃなくて、それは確かに誰かにとって簡易的なベッドにはなるものだと思うけれど、しばらくすればその正体に気づかれてしまうものだと思うんだ。

「やさしさ」という嘘。
それが僕にとってのナイフだった。
それはどんな暴言よりも鮮やかに、よく目を凝らさなければ見えない、いくつもの傷をつけていった。「傷つけないため」という防御で、その肌を鮮やかに切り裂いていった。
「こわかった」は、理由にならない。だって、僕は確かに傷をつけたんだ。噴き出す血液を、開く傷口を、この目で、確かに見たんだ。でも彼らは気づかなかった。血飛沫の中で笑っていた。僕はだから、これでいいんだと思った。

鮮やかな殺人。
きみが笑ってた。
僕のつけた傷に、きみは気がつかなかった。

僕はやさしくできないんだ。
なぜなら、きみを殺すことになってしまうから。
だからせめて、そのナイフの切先を自分に向けることにしたんだ。
きみにやさしくするために、僕は僕を殺すことにしたんだよ。

鮮やかな殺人

鮮やかな殺人

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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