一目惚れ

「一目惚れしたんだ、俺と付き合ってください。」


「一目惚れしたんだ。俺と付き合ってください。」


私は、今何を言われたんだろう?
頭の中が真っ白になり、フリーズ。


だって目の前に座っているのは、雑誌のモデルと言われても全く違和感のない、長身細身のイケメン。
これはきっと夢なんだ。
頭の中で1人葛藤。


先週から新しくファミレスでアルバイトを始めた。
覚える仕事はたくさんあって、なかなか大変だけど、前にも接客業はやったことがあったから、逃げ出したくなるほど大変ってわけでもない。

今はそんなバイトの休憩中。
休憩室でご飯を食べていた時だった。


同じくホール担当の先輩であるイケメンの彼、水島さんも休憩の時間らしく、休憩室にやってきた。
休憩室はそんなに広くないから、4人掛けのテーブルとイスが一組あるだけ。
水島さんは、私の斜め前に座り、いきなり言った。


「一目惚れしたんだ。俺と付き合ってください。」って。


私の葛藤をよそに水島さんは涼しい顔をしている。

「おーい、宮間チャン?
大丈夫?起きてる??」

水島さんの呼びかけではっと我にかえる。

「あ、はい。ダイジョブです。あのえと、さっきのは…?」


どうやら、何度か私に呼びかけていたらしく、「良かった、生きてた」などと笑いながら、
水島さんはテーブルに頬杖をつく。


「え?聞こえなかった?
もう一回言おうか?
一目ぼ「良いです!聞こえてましたっ!」

もう一回言われたら卒倒してしまうだろうそのセリフを必死に遮る。

今まで極力地味に生きてきた私に、先輩が、とかあり得ない。

どうしよう。どうしよう。


先輩のことは、バイト初日からかっこいいとは思っていた。

見た目がかっこいいだけでなく、仕事もすごくできて、周囲からの信頼もあって、ミスを連発する私をさらっとフォローしてくれる。
こんな先輩をかっこいいと思わない人はきっといないだろう。

でも。
だからこそ、そんな先輩が突然そんなことを言い出すなんて信じられない。



なんてことを考えていたら、どうやら私は1人で百面相をしていたらしい。


「ちょっと、宮間チャン。そんなに真剣に考えないでよー。
とりあえず、俺は宮間チャンがどう思ったかを聞きたいんだけど?」


先輩が必死に笑いをこらえながら言う。


いや、でも、これは真剣に考えるべきことなんじゃないのかな?
先輩はこういうの慣れてるかもしれないけど、こんな経験ほとんど無いに等しい私には難しい。


でも、
この距離で、いつまでも黙ってたら先輩にも申し訳ないよね。


「あ、あの。
お気持ちはすごい嬉しいんですけど、
わ、私はまだ先輩と知り合って日が浅いですし、先輩のことを良く知りませんし、
付き合うとかは難しいかな、と…」

語尾の方は小さくなりながらも必死に先輩にいう。


「だよねー
良かった。俺、間違ってなかったー」


先輩はそうやって、ばんざい。


…え?
なんか話がかみ合ってませんよね?


「えっと、間違ってなかったっていうのは、どういう…?」


恐る恐る聞いてみる。


「え?あぁ。
なんかびっくりさせちゃってごめんね。

一昨日、良く来てくれるお客さんに同じセリフを言われたんだけど、俺、断ったんだよね―。
で、偶然そこを見てた田中にもったいないって散々言われて。

で、俺は間違ったことしたのかなーってなんとなく引っかかってたから、今日偶然1人でいた宮間チャンに同じ心境になって頂いたってわけ。」


あぁ。私は1人で何を真剣に考えていたのだろう。
一気に力が抜け、ため息が出る。

まぁ、やっぱり先輩が私なんかに告白するわけ無いよね。
私って馬鹿だなー


「先輩。もしかして、私で遊んでます?」

からかわれてると思い、そう聞く。


「いや、違うって。
俺の選択が間違ってなかったのかがちょっと知りたくて、同じ心境になってもらっただけだよ。
宮間チャンはまじめそうだから真剣に考えてくれるって思ったから、宮間チャンにいっただけだよ。」


そう言って、さわやかに笑う。


あぁ、私は、こんな先輩にこれから振り回されるのかと思うと、複雑な気持ちになる。

だけど、
きっとイケメンな水島さんのことは嫌いになれないんだろうなって内心苦笑いするのだった。

一目惚れ

イケメンな先輩がどっかずれてる人だったら、と思って書きましたー

一目惚れ

短編です。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-24

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