水源地より
はぐれてしまった、さっきまで
手を繋いでいたのに────誰の?
その手の温度を 感触を
思いだす事ができない、その手は
僕の熱で 解かされてしまったのだろうか
あるいは僕の熱がみせた 幻だったのだろうか
(それは簡単に砕ける 砂糖菓子のような脆さだった
孔より罅を恐れた────どうして?
痣に耐えうるだけの力が無かったから
早く貫いて欲しかったんだ
(僕は急かした でもきみは応じてくれなかった
(もしきみに急かされたら 僕はすぐに応じたのに
僕は平穏が怖かったんだ
最初はあんなに 憧れていたものだったのに
(憧憬の機能不全は 僕だけを不感症にさせた
いつからか僕は 追われる側になっていた
印象だけの亡霊たちから 逃げ惑うようになっていた
(僕が欲していたのは それらだったのに
(なぜこんなに怯えているんだ?
僕は幸福な時ほど死にたがっていた
これが終る前に終らせてしまいたかったんだ、みずからの手で
────水源地から聞こえる叫びは
ひとりではなかった
僕は はぐれてしまったわけではなかった
平穏という眩しい地獄の中で
きみは僕の影を踏みつづけていた
水源地より