ヨスガ

あおい はる

 ヨスガのことが、ちゃんと好きなのに、たまに、きらいだった。
 夜、街灯が、青白くて、なんだかこわいのに、ヨスガは、夜のさんぽを好んだ。理由は、くうきがきれいだから、このあたりは、住人も、車も少ないから、夜のさんぽには適しているのだといって、ぼくの手をとり、アパートのへやを出るのだった。ヨスガは、でも、しかたない、にんげんのかたちをした、にんげんではないもので、ヨスガにとって、昼間は、雑音と、悪臭にみちた、おぞましい地獄なのだと訴えるくらいなので、この、ちいさな町の、十九時を過ぎれば、ほとんどシャッターがおりる繁華街も、がらがらの電車も、店員がひまそうにおおきなあくびをしているコンビニも、ヨスガには、ちょうどいいものであることを、ぼくはわかっていた。ヨスガは、だから、ときどき、町はずれのホテルで休憩して、まだ、新聞配達のひともいない、まもなく夜明けという頃に、アパートのへやに帰る、ということを、して、ぼくは、つまりは、いつも、ヨスガにつきあわされていた。ねむくても。つかれていても。ホテルでは、仮眠しかできなくて、でも、ヨスガが、深夜のホテルでは、ことをいたしたがらないのが、幸いだった。ヨスガと行為におよぶのは、だいたい、昼間で、それは、ヨスガが昼間、一歩も外に出ないからで、ぼくの学校やアルバイトが休みのときなどは、当然、ぼくは、ヨスガの思うがまま、であった。ヨスガは、オレンジジュースが好きで、ファミレスのより、喫茶店のが好きで、自動販売機の缶より、お店で売っているパックのものが好きだった。ぼくは、ヨスガが週に一度、きまぐれに吸うたばこのにおいが、ひそかに好きだった。週に一度、一本しか吸わないのは、健康のためだと、まじめくさった表情(かお)でいうヨスガは、ふしぎとかわいかった。ヨスガのからだは年がら年中つめたくて、冬は、おなじ布団にはいるのが苦痛で、アパートのへやでは湯たんぽをつかうようになった。夏は、いつまでも、ヨスガから離れたくなかった。

ヨスガ

ヨスガ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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