冬の心中
みんなという集合体が歪み夜は泣いているひとを隠すために存在することを思い出して知らない二人が海の見える場所で目を閉じている。誰も信じられないと思ったときに聴こえる声は澱んだ空気を一瞬で透明にするけれどそれが果たして神さまのものなのかきみのものなのか判然としないままぼくは腐乱した繁華街の片隅に揺れる花を見た。こわいという感情に蝕まれて麻痺する四肢と精神にやさしかったのは夜色の暗幕と星の照明と無人の最終電車とファストフード店のテーブル席に置き忘れられた映画のパンフレットと肉体を失ったきみだけだ。手を繋ぐという行為は神聖で口づけという儀式は厳かで情交という手段は愚かなのだと囁くひとの胸で愛なんて廃れて。氷点下。
冬の心中