追憶の融点
わたしはそれが愛だとはわかりませんでした
わたしの心は疲弊の果てに
鈍麻になってしまいましたから
わたしに向けられる善意や悪意を
最初から分類することもなければ
識別することもしないのでした
ただふとした時 ふとした瞬間に
影とも光とも似つかぬ何かがわたしの心を捕え
わたしを無理矢理に凍らせようとしたり
裏返そうとしたりするのでした
凍らされることも裏返されることも
わたしの意思に依らない結果です
ただ成り行きに身を任せ
しずかに朽ち果てていくことが
わたしの切なる願いなのでしたけれど
こうして誤認や 誤解や 誤謬のもとに晒されると
いささかなりとも やはりうら悲しいものですね
地に両の手のひらを添えて
左耳をあてがって
あるはずのない地球の血管と
脈を眼裏に描きます
起き抜けに目を擦った時
羊水が すこし目に沁みるのでした
追憶の融点