追憶の融点

わたしはそれが愛だとはわかりませんでした

わたしの心は疲弊の果てに

鈍麻になってしまいましたから

わたしに向けられる善意や悪意を

最初から分類することもなければ

識別することもしないのでした

ただふとした時 ふとした瞬間に

影とも光とも似つかぬ何かがわたしの心を捕え

わたしを無理矢理に凍らせようとしたり

裏返そうとしたりするのでした

凍らされることも裏返されることも

わたしの意思に依らない結果です

ただ成り行きに身を任せ

しずかに朽ち果てていくことが

わたしの切なる願いなのでしたけれど

こうして誤認や 誤解や 誤謬のもとに晒されると

いささかなりとも やはりうら悲しいものですね

地に両の手のひらを添えて

左耳をあてがって

あるはずのない地球の血管と

脈を眼裏に描きます

起き抜けに目を擦った時

羊水が すこし目に沁みるのでした

追憶の融点

追憶の融点

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-02-16

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