キミ想う明日が消えるまで。〜AfterStory〜
『キミ想う明日が消えるまで。』のAfterStoryです。
今後の蒼空と楓叶を描いた物語。
少しずつチャプター事に更新していきます。
【2021年1月24日】
僕は今日、風邪を引いた。きっと、ストレス性のものだろう。
昨日は、一番大切な人が恋人の実家へ赴き、両親へ結婚のあいさつをした日だった。
あの子の横にいるべき存在は僕ではない。情けないことに、そのことが分かりやすく僕の身体を蝕んだ。
その風邪は12日間にも及び、その間は仕事を休んで自宅療養をしていた。
27日には職場からの指示で病院へいき、昨年から世界的に流行っている新型コロナウイルスやインフルエンザの検査等を行った。
幸いただの風邪とのことだったが、ずっと体調は変わらず悪いままだ。熱はさほど高くなく、数日間微熱が続いた。
身体にうまく力が入らず、自分では元気なつもりでも、周りからは空元気のようにみえたらしい。
そして、12日後の2月5日。僕は約二週間ぶりに職場へ向かった。
昨日は元々休みで、秋美も休みだったことから、二人で映画を観にいっていた。その際に札幌駅内をぐるぐると周り、おかげで足は筋肉痛になっていた。家へ帰ると時刻は夜の8時をまわっていた。昼食を遅く済ませた僕らは、晩御飯を食べずに疲れた身体を癒すためすぐ眠りについた。
眠い目をこすりながら数日ぶりに職場へ向かう足は、相変わらず重かった。
多くの周知事項を頭に入れ、約二週間空いたことで仕事にも多少の影響があった。僕が出勤していない間にいくつか運用が変わったらしく、比較的仲のいい上司に呼ばれては変更点を学んだ。多くのことが一気に頭に入ってきたことや、一日パソコンに向かって仕事をしていることもあり、仕事が終わる間際には頭はぼーっとし、頭痛が酷くなっていた。
そう、今日も体調が万全ではなかったのだ。朝から多少の頭痛はあったものの、もういい加減仕事に復帰しないととの思いから無理やり出勤した。
仕事が終わり家に帰ると、職から開放されたことからアドレナリンが分泌され、一時的に疲れは飛んでいたのだが、さすがにそれも長くは続かなかった。
僕が早番で仕事に出たときは、僕の方が先に秋美宅に帰ってくる。そこから一時間弱で秋美が帰宅する。その秋美が帰ってくるまでの間、僕は今後の在宅での職を探すためパソコンを開いては、結局体調がよくないためあまり触らず、秋美の帰りを待っていた。
秋美が帰ると、僕は何事もなかったかのように振る舞い、頭が痛いことを表に出さなかった。パソコンで再び在宅ワークについて調べては、今日は二人ともやる気がなく空腹感が強かったため、出前をとった。
家に届くやいなや、テレビを見ながらご飯を食べる。食べ終わり少し休憩すると、僕はホットアイマスクを電子レンジで二十秒熱し、それを使用するために寝室で横になった。
リビングからはテレビの音が流れている。今日は金曜日のため、夜の9時から某アニメの映画が地上波で流れていた。探偵ものの「真実はいつも一つ」とか言っているあのアニメだ。この映画は第一作目らしい。観たい気持ちもあったのだが、疲労感には勝てなかった。
久々の出勤を終えた翌日、今日も変わらず仕事だ。昨日からずっと左の足裏が痛む。映画を観た日、久しぶりに長く歩いたからだろうか。筋肉痛とは別に、嫌な違和感が僕を襲った。歩く度にズキズキと痛みが走り、多少びっこを引いて歩いていた。今日もその痛みは変わらない。ましてや、昨日よりも少し痛くなっている気がする。
そんな痛みを我慢しながら職場へ向かう。相変わらず頭痛は残ったままだ。薬は飲んでいるのに、中々治ってくれない。いろんな痛みを抑えながら仕事をする。
でも、映画を観た後、ずっと頭から離れないことがあった。
楓叶のことだ。
その映画の内容は、大学生の男女二人の話。恋愛もので、生々しい描写があり、人生というものをリアルに表現していた。学校帰りの女子高生も館内で見かけたが、これは学生が見ていいものかと思うほどだった。
映画の中でさまざまなワードが僕の脳裏をよぎった。「浮気」「結婚」「別れ」。それらの言葉は、僕にはホットワードすぎた。映画を観ているはずなのに、楓叶のことを思い出し、時には無意識に拳を握りしめ、下唇を噛んでいた。
数日間風邪を引いていたこともあり、楓叶のことを考える時間が減っていたのに。またこの日々が続くのかと、そして、今楓叶は何をして何を感じているのかなと、そんなことを考えてしまう。
仕事をしていても、時折思い出すのだ。これはもう重症なのかもしれない。また熱を出しそうだ。結局頭痛は酷くなり、仕事にも支障が出てきている。体調が万全のときの結果を残すことが出来ずにいる。
「だめだ、はやく忘れないと」
君への想いは『あの場所』へ置いてきたはずなのに。封じ込めたはずなのに。ここまでくると、忘れるなと言われているかのようだ。
でも、忘れることなんて出来ないよ。いくら忘れようとしても、一番大切な人を忘れるなんて、そんなことは出来ない。
だからきっと、この物語は半永久的に続くのだろう。いつか僕が老いてこの世を去るまで。ずっと。ただ、華々しくもドロドロとした関係は、きっとあそこで終わったんだ。それに関しては終わりを迎えた。この先、もう何もないのだろう。
だからこれからは、何でもない日をずっと過ごしていく。
対して死ぬ勇気もない僕には、こんな平凡な毎日の方がよく似合っている。
これからの長い人生の中で、僕に新しく大切な何かが出来ることはあるのだろうか。楓叶以上に、大切に想える人が現れるのだろうか。
そんなこと、悩んだところで意味はないのに。それを十分理解しているのに。
僕は『あの頃』からだいぶ変わった。今自分のおかれている状況は理解している。それなのに、あまりにも冷静すぎる。
もう今後はないと諦めがついたからなのか、秋美と暮らしていることで内にしまいこむことが出来たのか。それは僕にも分からない。
何にせよ、これで楓叶に迷惑をかけ、傷つけることはなくなるんだ。よかったじゃないか。
やっと、開放された気がした。
それは悲しくも、心は回復傾向にある。
あのときの風邪が、すべて喰らってくれたのかな。そんな非科学的なことを考えながら、僕は職場の食堂でご飯を食べる。これ以上楓叶のことを考えていると、また迷惑をかけるかもしれない。僕の感情なんて、優先すべきものではない。僕が黙っていることですべてがうまくいくのなら、そうしようじゃないか。むしろ、そうすることしか出来ないのだ。自分のことは後回しで。それは、ずっと僕がやってきたことだ。これまでと何ら変わらない。楓叶との日々が異常だっただけだ。
だから、もういいよね。
僕はそっと、目を閉じた。
キミ想う明日が消えるまで。〜AfterStory〜