「アントロポファジー」
先輩がカニバリストだと知ったのは偶然その現場に遭遇してしまったからだ。普通なら恐ろしくて逃げてしまうだろう所なのだが、如何なることか私は綺麗にナイフで人肉を切り分けて食べる先輩が美しく見えて仕方がなかった。
しかし、思いを寄せる相手に食べられるとはなんとも形容しがたい感情である。まあ私だってもし自分が先輩の立場ならそうしたかもしれない。それにしたってその場にあったバットで殴り殺すのはひどいじゃないか、先輩。私はあの場から逃げようとなんてしていなかったのに。どうせなら私も綺麗に食べてもらいたかった。今更暗い場所で嘆いたってどうにもならないのだが。
私の声は誰にも届かない。肉片は食べてしまえば無くなるし、骨も燃やしてしまえばただの灰だ。所詮人間なんて儚いものだな、などと思いながら私の魂は終焉なき闇を歩き続ける。
私を食べる先輩の中にほんの少しでも私を想う気持ちは無かったのか、その問いも答えもこの世には存在し得ない。「私」は愛する人にどんなものより近くにあるのに「私」は愛する人にどうしたって届かない。
「アントロポファジー」
初めて(?)書いたやつです。全然気に入ってません。消したい過去の産物です。