体内密度
片鱗を、弄ぶ季節の暮れの、詩から、死に移行する気配の、時間。青緑の水面、うつくしいままの、森のみずうみは、鏡で、あした、という地点は、いつまでも、ぼくらの足でたどりつけないところにあった。置き去りのさみしさに、美術室のイーゼルを想う頃の、色褪せない記憶の断片の、ちいさな吐息。昼と、夜の、すきまに落ちて、夕焼けに染まる。からだ。思考。指で触れて、きみの温度が、ぼくの細胞まで届くように。熱。
すべてが止まった遊園地の、しんとした空気に、はじめて感じる、懐古めいたもの。うごかなくなったマスコットキャラクターの、ただじっとそこにいるだけの怖さ。いつか、なかったことになる、インターネットのなかの自分。ベッドのうえでしか、ぼくをあばけなかった、あのひと。きみとはちがう。コーヒーの淹れ方ひとつとっても、きみと、あのひとはちがうにんげんで、ちがういきものだった。くるぶしの形だけは、なんとなく似ていたけれど。街が、夜に沈む瞬間に、わずかにみえるのが月の断面。とうのむかしに、まっぷたつにわれた天体を、ふしぎと愛しく思う。きみと、あのひとは、永遠に重ならないで、ぼくのなかでだけ、ふたりは、ひとつにならないで、存在している。ずっと、ふたりぶんの体積を抱いて。
体内密度