「終止符」


 階段から転げ落ちた。そばに居た先輩はすぐに駆け寄って来て救急車を呼んでくれたけど、そんな先輩の努力の甲斐なく私はあっさり死ぬ。私の死は不注意による事故と処理された。でも違う、違うのだ。私はうっすら視界が真っ赤から黒に変わる瞬間、見てしまった。先輩が…笑っていた。あぁ落ちたんじゃなくて先輩に背中を押されたのか、と理解した時にはもう遅かった。
 だからと言って私は今先輩を恨んじゃいない。可愛がってくれるし関係は良好だ。先輩も私のことを悪く思っちゃいないと思う。でもたまに先輩が背後で笑っている気がするのだ。私の思い違いであってほしい。そう思っていたのに私はまた駅のホームに落ちたタイミングで電車に引かれて死ぬ。落ちた?いや落とされたんだ先輩に。
 そうやって何度も殺されてきたのだが、私は未だに先輩がどうして私を殺すのか分からない。私が覚えていない記憶の中で私は先輩に相当な何かをしでかしたんだろうか。私と同じように先輩にも前世の記憶があるのか、などと本人に聞けるはずもなく私は何度も何度も殺される。きっと何もしなければこれからも私は先輩に殺されるのだろう。だから私は目の前で崩れた崖から落ちそうになっている先輩の手をゆっくり離す。別に今の先輩のことは嫌いじゃない。何度生まれ変わっても私は先輩と一緒になるくらいには好きだ。これは前世からの私のせめてもの抵抗だ。

「終止符」

前世の記憶、私はない。

「終止符」

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-02-14

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