「遭遇」
先輩と私は好みが合わない。甘党の私と辛党の先輩。邦楽好きの私と洋楽好きの先輩。アウトドアの私とインドアの先輩。やっぱり合わない。でもだからこそ、私達は上手くいっていたのかもしれない。好きな物が一緒より嫌いなものが一緒の方がいいと言うのはあながち間違ってはなさそうだ。
先輩との楽しい日々は突然終わりを告げる。私が心臓病になったのだ。医者は心臓移植をすれば治ると言うが、なかなかドナーが見つからない上、見つかっても手術のリスクは高いという。私の命の制限時間が刻刻と迫る中、先輩と連絡がつかなくなった。先輩とはそれなりに上手くやっていたのに、急に居なくなるなんて酷いじゃないか。病気の私に嫌気がさしたんだろうか。街中で流行っているJPOPを聴く私の頬を涙が伝う。
その日から程なくしてドナーが見つかったという連絡が入った。先輩の唐突の失踪にガツンと言ってやらねばならない私に迷う選択肢はなかった。手術は無事成功し、私は先輩を探し出すことに決めた。
探し始めて数年経っても先輩の行方は全く掴めなかった。半分諦めモードになっている私はというと家でカップ麺を啜りながらテレビを見ていた。実際に起こったさまざまな事件・事故、日常生活に潜む“仰天エピソード”を、再現ドラマで紹介するドキュメントバラエティというものらしい。ぼーっとテレビを見る私の目にうつるニュースのタイトル。
『心臓移植を受けると趣味嗜好が変化する!?』
―手が震える。目前の終わりかけのカップ坦々麺。エンディングに近づいたゲーム機器。床に散らばる海外アーティストのCDの山。あぁなんだ先輩はここにいたんですね。
「遭遇」
さ〜て。どうしよう。