「確証バイアス」


 いわゆる「赤い糸」というものが突然目に見えるようになった。周囲を伺うにこれが見えるのは私だけらしい。なるほど、これは合理的だ。この指の糸を辿れば運命の人に出会えるのだろう。私は何度か辿ってみようと思い立ったが、あまりにも糸は長く終わりが見えそうにない。
 だがそうこうするうちに私はある事に気がついた。いつでも私の糸が伸びている方向には先輩がいるのだ。そうか、きっとそういうことなんだな。こんな身近なところにそういう人間がいるとは思っていなかったので少し驚いたが、先輩となら悪くない。私は将来に思いを馳せながら先輩に悟られぬよういつも通りの日常を過ごす。
 先輩が私にある報告をしたのはそれから数か月がたった頃だ。「俺、結婚しようと思うんだ」誰と?いつから?頭の中でグルグルと渦巻く疑問をかき消し、笑って慶祝の意を表す。見ると先輩の赤い糸の先には他の糸を無理やり結びつけたような固結びが出来ていた。なんだ、そんなの有りだったんですか。私の問いかけに「なんの話だ?」と返す先輩の笑顔がやけに眩しい。

「確証バイアス」

「およそ人間は、自分が信じたいと望むことを、喜んで信じるものである」ジュリアス・シーザー

「確証バイアス」

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-02-14

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