その衝動

あおい はる

 ひかり、冬の朝は、もう、春めいたものをしのばせて、ゆるやかに目覚める。母は、形を失い、父は、星の終わりを見届けて、百合の花となった。ぼくの、手の甲、血管に巻かれた、植物の蔓は、ときどき、ぎゅっ、と絞めつけるように、うごめいた。心臓、突き刺したのは、街の喧噪と、しらない誰かの暴言。呼吸をしていても、死んでゆくこともあると、世間は、無意識下に告げてくる。踏切を渡る瞬間の、軽い目眩。電車が滑りこんできたプラットホームでの、甘やかな脚の震え。制服の少女の群衆、視線の冷たさ。ちいさな子どもたちの、ぽてぽてしたからだ。成熟しきったひとびとの、生きることに精一杯だという態度。たばこはおいしくないとおしえてくれた、あのひと。セックスはめんどうくさいという、きみ。氷河期に放り出されて、次第に、感覚をなくしてゆく、神経が、ひきちぎれる音を想像して、じぶんを慰める。かたいベッドの、どうしようもないスプリング、破壊するいきおいで。

その衝動

その衝動

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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