星ー透明人間譚(最終回)

草片文庫(くさびらぶんこ)

星ー透明人間譚(最終回)

透明人間の話、最終回です 縦書きでお読みください。


 その昔、動物の進化の頂点が人間であると人々は思っていた。進化樹を見ると、遺伝物質が生じ、細胞がつくられ、単細胞生物から多細胞生物にすすみ、どこかで、酸素を作り出す植物と、死して窒素の元となる動物が生まれ、ものを腐らす菌類が生じた。動物は無脊椎動物と脊椎動物に分かれ、無脊椎動物の頂点に昆虫が生じたが、外骨格の節足動物はそれ以上大きくなれず、内骨格で脊椎を持つ動物が大きくなり、神経の発達を可能にし、脳の機能に依存して頂点にった。その先に人間がいた。
 さて、頂点に立ったと言うが、それが終わりじゃないということに頭が回るほど人間の寿命は長くなく、まだ進化の頂上は何かということを真に理解している人はほとんどいなかった。
 まして、植物の進化の頂点はなんだといわれても、わからないというしかない。というのも、動物は神経系の発達、すなわち脳の発達を一つの指標にできるが、植物は、環境に適したいろいろな形があり、一つに絞るのが難しい。それでも、菊科だというような話もあった。
 人間や動物の透明化が進んだ今、一時、透明化遺伝子の形態で分類を試みた人がいたが、現実に昔ながらの動物、植物の環境が維持されていたことから、分類は大昔のままである。
 DNAという化学物質の発現は未だに明らかになっていないが、地球上での化学反応で偶然にできたということになっている。そこで、人工的なDNAを造る試みがなされてきて、今では小さなDNAならば作ることができるようになり、人が生きていく上で必要な薬類は新しいDNAを培養細胞核内に挿入し合成させることに成功している。DNAを新しく造ることで物質の生産はできるようになったが、新しい生命を生み出すまでには至っていない。やはり生命を生み出した偶然のすごさは今の科学技術では再現できない。
 今年は地球歴四十六億二千五百万三千八百年である。五千年年ほど前に、地球が生まれた時が46億1997万年前と細かなところまで明らかになった。
 その年は昔に使われていた西暦という、キリスト誕生の年から数えると、8801年だった。それから、9年後、西暦8810のときに、初めて、地球外生命とのコンタクトがあった。そのころ人間はほとんど透明化していた。人間の透明化は西暦2500年頃から本格化したので、それから6300年後である。
 一方で、人間以外の生物の透明化は進まなかった。透明化した個体は生きることができず、淘汰されて、元に戻ったのである。だから野山、街には昔のように木々が茂り、鳥が歌い、虫は舞っていた。海にはたくさんの生き物が平和に暮らしているのである。
 今では、最初に異星人が到来した西暦の8810年を地球元年として、それ以来西暦を使わないようにすることにした。透明な人間が異星人と初めて出会った年である。

 人間は透明化が進むと同時に、脳や体に変化が生じていた。神経系に異変がおき、新たな機能が加わるようになった。透明化と供に脳が進化したのである。
 昔の人が第六感と言っていた、一時退化しそうになった機能が維持され発達した。自然を含め周りの状況から即座に明日を予知する能力をもち、遠い未来をえがくことのできる能力が格段に高くなったのである。もちろん脳のキャパシティも大きくなった。神経細胞そのものが進化したからである。脳はよりエネルギーを使わずに働くことができるようになった。
 神経細胞が電気信号を使わず、新たなエネルギー波による通信を始めたからだ。神経細胞体から神経波と呼ばれる波が放出され、体の細胞はそれを直接受信し影響を受ける。脳の中でも同じように神経細胞体同士で神経波のやりとりをする。従って神経細胞は神経突起を長くのばす必要はなくなった。それにより神経細胞体は今までの電気信号の受け渡しに必要な神経伝達物質を作る必要が無く、エネルギーの消耗が極端に低下した。神経波を受ける受容装置を持っていればいいわけである。今までは百数十種類の神経伝達物質で伝達の仕分けをしていたが、神経細胞の数だけ神経波の種類があり、神経細胞同士もそれで神経回路を作り、最終の神経細胞から出された神経波が、直接情報を体の中の目的の細胞、組織、臓器に伝える。わかりやすく言うと、脳からの神経線維の通り道だった脊髄はいらない、筋肉の細胞に直接神経波が収縮を促すわけである。脊椎骨の中は造血機能とエネルギーの蓄積に使われるようになった。感覚器の感覚細胞はすべて神経細胞がかねるようになり、神経波を出すことにより、脳の中の感覚性神経細胞に伝わるわけである。リモートコントロールというわけである。したがって、脳の中は神経細胞が詰まっており、脳の形は昔のままでどおりであるが1京の神経細胞が存在する。
 神経細胞の変化の前には遺伝子に大きな変化があったわけで、最初に透明化遺伝子の発現があった。当初は透明病と呼ばれ異常だと思われていた。ところが、人は透明化するように進化することが仕組まれていたということを知るに至ったのである。
 今これを書いている私もそうだが、人間みな透明になっている。エックス線も電磁波も皆通り抜ける。さらに透明人間の脳は複雑な総合的な精神波をだし、他の人間と通信する。昔、脳波といわれていたものに近いが、もっと高度なもので、透明人間同士お互いを認識し、相手の姿さえ脳の中にイメージすることができる。ただ、通信できる範囲はあまり広いわけではなく、100メートルの範囲内である。しかし、増幅装置があれば遠くまで通信できるし、考えていることを受け取ることができる。地球上の動物は透明にならなかったが、神経出力波と呼ばれるものが出されていて相互認識をするようになり、また、人間の精神波を少しだがとらえることができることで、人間を認識し、お互いに安定した関係が保たれている。
 動物は人間の補食対象にはなっておらず、彼らは透明人間を捕食者として認識していない。それは人間が培養細胞から、食料として動物の肉を造っているからである。人間を除くと、動物同士の補食、被補食の関係は今でも続いている。透明になった人間以外の地球上は変わっていないと言うことである。

 最初に地球にきた異星人は、広大な宇宙には遊牧星人と呼ばれる星人と、狩猟星人と呼ばれる星人がいることを教えてくれた。遊牧星人は宇宙を旅しながら、生き物のいる星に寄って、知識と技術を交換しながら生活する人たちで、何らかの原因で母星に住めなくなり、宇宙にさまよい出た人たちである。一方、母星からでて、より住みやすい星を探し、そこにいる住人を滅ぼして、住み着くタイプの星人たちがいる。それを狩猟星人といっていた。そういう宇宙人たちはいきついた星に飽き、またはもっといいところがあるに違いないと、必ず再び宇宙に飛び出し新たな星を探す。母星の定まらない生き物である。あと宇宙にはまだ自分の星から飛び出す技術を持たないか、星から出たくない星人がいる。それは土着星人と呼ばれ、地球人もその仲間に入るわけである。
 遊牧星人であった最初の異星人は南極大陸に巨大な宇宙船を着陸させた。一本足で歩くその宇宙人は地球人には考えられないほどの高度な技術を持っていた。受信装置を開発し、我々地球の透明人間の精神波をとらえることができた。その機械で地球人と話ができ、地球に来る数年前から、地球に連絡をしてきていた。彼らは地球人に迷惑がかからないように、南極大陸のまだかなり寒い地方に船を下ろした。地球からは使節団が出迎え、それから彼らはそこを根拠にして、地球の上を旅行し、地球人と交流をした。地球人に惜しげもなく科学知識を教えてくれた。地球人はそれにより宇宙の状態を知り、新しい物理の法則も学んだ。遊牧星人は地球の表面を覆う植物や茸が好きで、育て方を学び、持っていった。
 なによりも感謝していることは、宇宙の中に漂う狩猟星人が危険であることを教えてくれたことである。遊牧星人は地球人に、服を脱いで透明で生活をした方がいいと助言してくれた。そのころ地球人は透明だが服を着ていた。地下に住む方がよいとも遊牧星人は言った。それは後々地球人の存続に関わることとなった。
 遊牧異星人は100年ほど地球に滞在し、また宇宙へ放浪の旅に出発した。
 遊牧星人のいる間に、地球人は地下に都市をつくる計画をたてたのである。もちろん、遊牧星人にも助言を求め、技術的な面で指導を受けた。
 そのころ地球には国はなくユニオンで、昔、アフリカ、ヨーロッパ、アジア、北米、南米、オセアニア、北極、と呼ばれていた8地区に中心地がおかれ、指導施設がつくられていた。そこには地球の管理、人々の管理をする組織がおかれ、そのための地球のすべてを管理するガングリオンという装置がつくられていた。その昔,スーパーコンピューターと呼ばれていた装置の何千憶倍もの能力のあるAIで、八つの都市に一つずつあり、お互いに繋がっており、八乗の効果を生むことができるようになっていた。万が一七つの機械が壊れても、一台で地球人の生活を十分マネージできる能力をもっていた。遊牧星人ですら、地球のガングリオンの能力は、今まで宇宙の中で出合ったAIの中で最も優れたものだと評価した。彼らにその技術を教えたのはもちろんであるし、彼らの技術をガングリオンに付加したのももちろんである。
 ガングリオンの管理にはおよそ千人の専門家が関わっている。そこで我々の運命を決めている。遊牧星人の意見を聞いたガングリオンは、人間たちの脳にその話を直接伝達し、地下に都市を造ることを決定した。地下組織を発展させるため、遊牧星人がいる間に、それぞれ八つの都市で、新たなガングリオンも最も深い地下に建設をしたのである。地上のガングリオンは地上の監視に用いられることになった。それを見届けた遊牧星人は、地球を離れたのである。
 人間の寿命は150年ほどである。人々は自分にあった職業に就き、生活を楽しみ子孫を残して死んでいく。ガングリオンのデーター指示の元に、地下都市は千年ほどかかって作り上げられた。遊牧星人の助言に従ったわけである。しかし、地下都市ではみな服を着て暮らした。もちろん、裸のまま透明で暮らす人たちもいた。その大昔、人間は服を考え出したことで、寒さをしのぐことができ、生き残り生物の頂点に立った。それを忘れまいという気持ちと、着るもので個性を作りアピールをした。
 そのような着る物の発展の歴史の中で、裸は恥ずかしいという、恥ずかしさの一つが人間の頭に植えつけられ、それは今でもとり切れていない。着物を着ないで透明の状態で、相手が精神波を受けると、裸の姿が相手の脳に形成される。着物を着ていれば、着た姿になるのである。
 地球年で一千年。地下都市が、より住みやすい空間として発展し、地球人は地上に遊びに行くだけになった。山、川、海、自然の色、生き物たちの戯れを楽しむのである。昔しつくられた建築物はレジャー施設になった。 

 最初の遊牧星人が地球にきて、千年ちょっと経った年である。地下都市が完成して、熟してきたころだった。正確にいうと、地球年1018年である。宇宙からの二度目の来訪者があった。火星に大きな宇宙船が着陸したのである。
 ある時期、人間は恒星間旅行ができる宇宙船の開発に力を注いでいた。それというのも、遠い未来とはいえ、いずれ太陽の熱が弱くなるのはわかってたいたからである。ということは、いつか地球人も太陽から離れ、遊牧星人になるしかないわけである。
今、太陽系内の宇宙旅行用宇宙船はとても性能がいい。火星まで二日である。月には大昔の乗用車に乗るような感覚で行くことができた。月には恒星間宇宙旅行の基地をつくり、火星にも基地を作る予定で、宇宙空間研究施設がある。恒星間宇宙船の設計図もできあがっていた。ところが、ある時、ガングリオンは別のアイデアを出した。長い協議の結果、ガングリオンのいう通りに、地球人はそれにのり換えて研究を進めている最中であった。月の基地はレジャー施設に、火星の施設は基礎的研究基地に様変わりしている。
 そういったなかで、火星に宇宙船が着陸したのである。
火星の研究基地では、狩猟星人の宇宙船が降りることを一年も前から察知していた。火星の研究者たちは、地球のデーターをすべて破棄し、全員地球に戻っていた。
 火星に来た異星人は狩猟星人のようだった。ガングリオンが彼らの動きを解析して、そう結論付けた。その異星人は地球に何も連絡をしてこなかった。ただ黙々と、火星に自分達の都市を作り始めた。しかし、彼らは火星に移り住むつもりなのか、地球に来るつもりなのかわからなかった。たまに小型の宇宙船が地球の周りにきて偵察をしに飛んできた。当前地球に高度な生きものがいることは分かっていたはずである。なぜ連絡をしてこないのか、地球からは宇宙船を飛ばすようなことをしなかった。ガングリオンがそうしない方がいいと指示したからである。
 地球上の大規模な宇宙対策基地は富士山の地下にあった。そこにはそれ専用のガングリオンがあって、宇宙の監視をおこなっていた。
 火星の研究基地は今誰もいない。誰でも入れるような状態になっているので、狩猟星人は中をくまなく調べた。その様子は置いておいたカメラが一部始終を地球のガングリオンに送信していた。おそらく異星人もそのことを知っているのだろう。基地の中のものを持ち出したり、壊したりはしなかった。
 火星に宇宙人の町ができて二百年ほどたった頃である。火星から八機の宇宙艇が地球にやってきて、ガングリオンのある都市の宇宙空港におりた。異星人から前もって何も連絡はなかった。目的はわからない。緊急の退避命令がだされたていて。だれも地上には出ていなかった。地下都市は地球が割れても、宇宙空間に浮いて生きていけるように造られている。地下にいれば安全である。

 ガングリオンは地球人に気をつけるようにかなり前から警告をだしていた。ただし警告度は4だった。極度に危険である5と判断していなかった。それには理由があった。彼らは200年火星で暮らしていたが、火星にそのままにしてきた地球の研究施設に危害を加えていなかったこと、すぐ地球にこれるのに、何もしなかったことで、それらのことから、きわめて危険の5にはランクされなかったのである。前に来た遊牧星人の話では、宇宙にはすぐに破壊装置を使うきわめて危険な星人がいるということだった。
 しかし、ガングリオンのある都市にだけに宇宙船を着陸させたということは、火星から地球を二百年にわたり詳細に解析していたことを意味する。地球を統治しているシステムを調べていたに違いない。地球人の生活も知っているのだろう。はじめから地球をねらっていた可能性も否定できないのである。ただ、透明人間であることを知っているかどうかは分からない。というのも、地上に出ている洋服を着た人間しか見ることはできなかっただろう。地球の地下にはどのような探索線も通さないはずである。
 ガングリオンは火星の異星人の動きをいつも監視していた。地球に来る前の日は小型の宇宙艇に異星人が集まり、何かを運び込んでいるところまで見ていた。火星の狩猟星人が地球にやってくる前にガングリオンはその動きを察知していた。その情報は地球人に逐一報告され、前の日に退避命令が出されていたのである。地球の防衛組織は狩猟星人が何をするのか見守っていた。
 異星人は宇宙船が降りてからすぐには地上に出てこなかった。二日目になると、一人が地上に降りてきた。狩猟星人は人間とほぼ同じほどの大きさで、四本の足をもち、数本の触手をもっていた。彼らは地球の大気でも生きていられるようで何もかぶっていなかった。
 狩猟星人の八つの宇宙艇が地球に降りたった時、それぞれの宇宙基地では、遊牧星人の時と同様、使節団員が宇宙基地の管制塔の建物の中で待機していた。ガングリオンがそうするように指示していたからである。
 使節団は屈強の地球防衛員によって構成されている。男女5人の地球人は友好の印を示す白い礼服を着て、姿がわかるように、顔を覆う白いマスクをかぶり、顔にはサングラスをしている。透明なままの防衛員が数人控えている。
 防衛に関わる人間は、特駿訓練も受けるが、一般の人の服用は禁止されている薬を飲んでいる。まだ透明化が病気と思われていたとき、皮膚に触れている布などが透明になる患者が報告された。皮膚の細胞から物理的なシグナルがでて、服や持ち物が透明になることが分かった。その細胞を刺激すると、洋服も透明になるのである。悪意のある人間が使うと回りに害を及ぼすことから、禁止されている。ただ、防衛に関わる人間は、必要な時に服用することになっている。
 宇宙艇から異星人が出てくると同時に、ガングリオンから出迎えの指示がでた。もちろん十分注意しなければいけない。
 5人の使節団は右手をあげ、手の平を前に向け、ゆっくりと近寄っていった。異星人も立ったまま動かず、手を上に上げている。使節団の団長は、異星人の前に立った。するといきなり、数人の異星人が宇宙艇から飛び出してきて、手に持っていた金属製のものから光を使節団に発射した。彼らは急いでよけたが、よけきれず、みな地面に倒れた。異星人たちは5人を担ぎ、自分の宇宙艇の中に運び込んだ。あれよあれよという間の事である。八つのガングリオンの都市で同じようなことが起きていた。
 地下都市で、狩猟星人の宇宙船の中をモニターで見ていたガングリオンの管理者たちはすぐに緊急体制をとった。使節団員たちはかつがれ、狩猟星人の宇宙艇の中の一室に押し込まれた。その一部始終が地下の地球人たちの家々のモニターに映し出されていた。もちろん管理センターのモニターにもその様子が映し出されている。隊員達の皮膚には精神波増幅器が埋め込まれている。さらに、地上には精神波増幅機がいたるところにあった。光線銃で撃たれた彼らはただからだが麻痺しただけで、意識はあり、見たものが精神波にのって、送り出されているのである。
 ガングリオンが異星人は地球人を生体のままとらえ、調べようとしている可能性を示唆した。おそらく他の星の生きものと違っているところがあることに気がついて、実際に調べてみる必要性を感じたのだろう。このままでは、使節団はいろいろなテストをさせられ、透明人間であることも知られてしまうだろう。
 八つの宇宙艇の中の連れ込まれた地球人が一カ所に集められた様子の映像が送られてきた。これは奇妙なことである。さらに、宇宙艇の中で異星人が動いているさまも、映像として送られて来た。誰がその様子をガングリオンに送っているのだろうか。
 それは何人もの透明な防衛隊員が。異星人が使節団を取り囲んでいるときに、宇宙船に乗り込んでいたからである。異星人は地球人が透明であることを知らないし、彼らの目にも見ることができないことがわかった。これならばこの異星人は扱いやすい。
 宇宙艇はそのまま火星に飛んでいった。八つの宇宙船には全部で四十人の使節団と同じくらいの人数の透明な防衛員が乗っていた。しかも、彼らは目に見えない、さらに、簡易の気密服を着ていた。薬を飲んでいるために、気密服も透明になっている。火星の大氣の中でも自由に動けた。とらわれた使節団員も同じ薬を飲み、気密服で防御をしていたのである。
 異星人の宇宙艇は高性能で、一時間ほどで火星の宇宙基地に降り立った。その基地の隣に地球人がつくった宇宙研究の建物がある。地球の各家のモニターには巨大な恒星間宇宙船がそびえ立っているのが映し出された。異星人が地球に乗ってきたものである。地球人たちはドラマを見るようにモニターの前に集まり、固唾を呑んでいた。
 囚われた四十人は、一つの建物の中に集められ、それぞれ台の上に寝かされている。すでにそこに入っていた透明な防衛隊員が様子を送ってきているのだ。異星人がいなくなると、透明な隊員たちは使節団員の服を脱がせ、目に見えなくなった一人一人を担ぎあげると、その部屋から出た。その様子もすべて地球では見ることができた。地球のモニターは透明になった地球人の輪郭を映し出す機能を備えている。
 使節団員たちは命に別状はなく、筋肉の動きをとめられているだけだと報告してきた。そのまま解剖されたら大変なことになっていた。地球にも動物の動きを止める薬があった。それを使って、動かなくなった動物を実験に使うのは倫理に反すると言うことで禁止されていた。痛みを感じるからである。
 囚われた地球人を担いだ隊員は、異星人の一つの宇宙艇にかつぎ入れた。二人防衛隊員が残り、後の隊員達は再び外にでた。外に出ると透明な防衛隊員は二人一組で、異星人の宇宙基地を見て回り、巨大な恒星間宇宙船一機と小型の宇宙艇が全部で二十機があるのを確認した。宇宙艇は宇宙を旅するときには恒星間宇宙船に収納されているのだろう。二十機の小型宇宙艇にはそれぞれ二人の隊員が乗り込んだ。残りの者は巨大な宇宙挺に入った。分からないことはガングリオンに尋ね、指示を仰いだ。隊員たちは恒星間宇宙船の中を詳しく調べ情報をガングリオンに送った。
 ガングリオンは恒星間宇宙船が我々には理解できない動力を用いていることを示した。我々には操縦ができないわけである。その点はかなり進んだ生命体である。動力のスイッチや、メインの機械が収納されている場所はわかった。ガングリオンはそこの機能を損なわせる方法を指示した。透明人間になっている防衛隊は道具を持っていないが、放棄されている地球の研究基地からとってきた。隊員はそれらでメイン動力を破壊した。直すのには何十年もかかるであろう。火星から必要な金属を採掘し部品を作り出さなければならない。
 その後、隊員たちは二十機の宇宙挺に分散して乗り込んだ。防衛員たちの動きはすばやかった。異星人は捕らえてきた地球人がいなくなっているのに気がついていないようだ。
 ガングリオンは出発の指示をした。宇宙艇の操作は透明な隊員が異星人の動きを逐一見ていたのでわかる。それにガングリオンは細かいところまで把握していた。
 宇宙艇は高性能で、重力遮断装置で音もなく上空までのぼり、そこから目的地まで、最初一回のエネルギー噴射で到達する。後の微調整は地球でも行われている空気噴射である。挺内には空気の製造装置があり、それを噴射させ調整するのである。使った空気は瞬時に補充される。挺内は微量だがそのために空気の流れがある。
 無事異星人の宇宙艇は地球の基地に着陸して、隊員たちも無事戻り、使節団たちも回復した。電磁波のようなもので神経の機能を一時麻痺させられていて、意識はあったそうである。だから精神波が送られていたのだ。
 火星に暮らしていた狩猟星人は、宇宙に飛び出すのには新たな宇宙挺を建造するか、恒星間宇宙船を直すしかない。おそらく危ない武器をたくさん持っているに違いない。しかし、宇宙挺がないとすると、恒星間宇宙船で戦闘をしなければならず、それが傷つけば、その星人が絶えることにもなりかねない。そんな危ないことはしないであろう。一人か二人乗りの小型の船は持っているだろうが、それで攻めてくることはない。ガングリオンは異星人は放っておくのがいいだろうと結論した。
 火星にいた狩猟星人たちの科学はかなり発達していたようで、それから百年後には宇宙船を直したようだ。地球には何もしないで出て行った。無駄なことをしないだけ知恵はかなり持っている生命体だ。地球人類が透明になることは遊牧星人がいったように、防御のための進化だったのである。
 それからまた千年ほど経つ。地球歴3300年である。西暦で12200年。
地球の地下の地球人のすむところは何重もの構造になり、コアの煮えたぎるマグマも人の手によって管理されるようになっている。いずれ50億年もすると、太陽は燃え尽き、地球はマグマが冷めて冷たくなるといわれていた。しかし発達した地球の科学はマグマに燃える材料を提供し、燃やし続け、地球の温度を保つことができるようになっていた。
 さらに、遠い先ではあるが、太陽の寿命を考えなければならない。その大昔、そうなった地球から大きな宇宙船団を造って地球人が逃げ出すという科学小説なるものがはやったそうである。今ではそれはフィクションではない。宇宙船を造るというのは一つの選択肢である。しかし、地球人はそれを選ばなかった。
 ということは、地球に残るということなのであろうか。太陽が滅びるのと一緒にいなくなるということかというとそれは違う。とすると、太陽を燃え尽きないようにするのか。確かに燃える材料を提供すればいいかもしれない。水星、金星、火星、木星を引っ張っていって、燃やす材料にすればいい。確かにそれで太陽は若返る。しかし、それは大変なエネルギーを必要とする。地球人はもっとよい方法を考えたのである。もちろんガングリオンを発達させ、その助けの元に作られた方法である。
 ここ五百年ほどかけて、赤道の下にその装置を建設した。それは地球を等間隔に取り巻いて地下に建設された。ノズルが宇宙空間に達するほど長く延びている。
 千年前に狩猟宇宙人から奪った宇宙艇の推進原理を学び取ったのである。その推進力は原子を凝縮させ、宇宙空間に放出されたとたん破裂し推進力を生み出す。原子弾のたぐいである。それの反動で放出した物自体が動く。地球が動くことになる。

 地球に取り巻いて設置された装置に、今日、最初の点火が行われる。
 十二時だからもうすぐだ。祝いの音楽が地上で流される。地球をぐるりと取り巻く装置なので、コロナ計画といわれている。地球の自転にあわせ太陽と反対の方に絶えず原子弾を放出する。それにより、地球が太陽を回りながら、太陽の方に近づくのである。何億年後には、水性の軌道より内側になる。
 さてもう一つ問題がある。太陽は五十億年で燃え尽きるといわれているが、その前に、膨張をして、どんどん広がり、逆に地球の温度が百何十度にもなるともいわれている。
 機を見て今度は遠ざからなければならない。それは原子弾の噴射位置を太陽側にすればいいわけである。
 この計画は地球を動かし、自分達が生きるいい環境をさがしだそうとするものである。太陽が燃え尽きる前に、今北極と南極に建設中の巨大な原子弾放出装置を働かせて、地球ごと宇宙の中に動いていき、若い恒星を見つけ、その惑星になろうというものである。
 今僕は友人3人と卒業旅行にきている。自分のペースで義務教育を終え、これからは社会の中で働き、一生を楽しく終える。友人三人は年が随分違う。僕は二十歳だが、一人は三十二、一人は四十になる。百五十歳の寿命を自分で自由に使える。
 地表に遊びに来たのだ。今までも何度も遊びには来た。今度は卒業記念に一年地上で暮らしてみるつもりだ。地下都市には人工に造られた日の光があり、昔と変わらない気候の変動が感じられ、気持ちのいい空気を吸っている。地下にも猫や犬や動物達が飼われていて、草地や木の生えている場所も作られている。しかし地上は千年前のままの自然になっていて、地球人にはノスタルジーを感じる格別のところである。むかしの建物などがそのままあり誰でも使える。車もあるし、自転車もある。地上を管理する地上維持会社が地上のガングリオンの指示の元に管理をおこなっており、予約を入れれば何でもできる。昔南米といわれたところには木が生い茂った場所が残っている。一人の友人はよくそこに遊びに行ったそうだ。おもしろい植物が生えていて、おかしな動物達に囲まれているのはとても楽しかったそうだ。それで義務教育を終えるのが僕より二十年も遅くなったわけだ。今日三人できたのは、大昔日本と呼ばれていたところだ。富士山は変らずきれいな形を保っている。その地下には地球の宇宙研究基地がある。海もきれいで、海水浴を好む人たちもたくさんいる。野山に行けば野生の動物にあえる、きれいな花畑にチョウチョが舞っているのを楽しむこともできる。
 我々地球人は地上に遊びにでるときには必ず、服を着なければいけないことになっている。僕も今久し振りに帽子をかぶり、シャツを着てズボンをはいている。
 地上に久しぶりに出てきた僕と友人二人は、小川に足を入れたままその時間を待った。メダカが足にぶつかる。
 十二時だ。
 音楽が流され、祝いの合図の花火が打ちあがった。
 ちょっと揺れたようでもあるが、ほとんど気がつかないほどだった。
 地球の反対側では花火が夜空に開いているのであろう。
 これから地球が太陽に向かって少しずつ動いていくことになる。
 「泳ごう」
 僕は友達に声をかけた。
 「うん」
 洋服を脱いだ。僕たちは透明人間になった。
 ひんやりと水が皮膚に触れる。気持ちがいい。
 岸辺からウサギが顔を出した。 
 川の流れの中に見える透明な人の形を不思議そうに見ていた。
 完

星ー透明人間譚(最終回)

星ー透明人間譚(最終回)

地球上で、人間は新たな進化をとげた。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-02-12

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