外科医

珍しく風邪をひいて 喉を痛めてしまった。
毎年のことだが、冬の東京は、乾燥注意報の毎日だ。
これが過ぎると 今度は、花粉が飛び散る季節になる。

予防のためにこの冬は、外出時にマスクをするようにした。
昨年からマスク人口が増えた。
新型インフルエンザの発生に多くの人がマスクをしだした。
また、何種類ものマスクが市販されるようになった。

マスク美人が増えた。
マスクをすると何故か みんな美人に見える。
目元だけに集中してメイクをすればいいのかだろうか?

俺には、どうもマスクに関して特別な想いがある気がする。
病院への恐怖心か? ナースは、地獄にいる天使なのか・・。
コスプレに対する欲望だろうか・・・。
白やピンクのマスクの上に 真っ黒な瞳にドッキリとしてしまう。

そんな俺が、マスクをしたら・・・どうなるだろうか?
「俺は、外科医だ。人は、俺を神の手を持つ名医と呼ぶ」
車窓に映るマスク顔の自分を見て妄想が始まる。
世界で初めての難手術の前にイメトレをする。
手術の流れを頭に入れていく。
もしもの予期しない事が発生した場合も想定して
何パターンものイメージを繰り返す。

降りる駅が近づいてきた。
開くドアの前に立ち静かに目を閉じて停車を待つ。
電車が停止した。
俺は、手のひらを半開きにして、胸の前にして肩の高さに合わせた。
オペ室の自動ドアが開いた。
目を開けて、オペ室の中に歩き出した。

後ろから、怒涛の降車客が背中にぶつかってきたのは、言うまでもない。

外科医

外科医

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-23

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