取り残される

あおい はる

 ネットワーク、未接続の、せかいで、ランプ、赤と青が交互に点滅して、一秒ずつ、擦り切れてゆく。端末。きみの、背中に繋がっているコードから、こぼれる記憶。生きていればそれでいいよ、という、つよがり。きみが好き、と繰り返し唱えるのは、もはや呪い。コーヒーカップの底で、溶け切らなかったコーヒーの粉が、黙って沈殿しているときくらいの、虚無。
 美術館の額縁のなかで、微笑んでいる恋人へ。
 拙い言葉で書き綴った手紙を、わたしは、青白い月の夜、ポストに投函しました。かつて住んでいた家には、いま、わたしたちのしらない誰かが、暮らしています。町で唯一だった本屋さんが、なくなりました。記念写真を撮ってくれた、写真屋さんも。気づけば、コンビニエンスなストアが、二十四時間、いつも、そこにあります。白々と光り、その存在を主張します。駅前の寂びれたビジネスホテルが、ひどくおしゃれで、こわいくらいにシンプルなホテルに生まれ変わりました。控えめに描かれた、ホテルのなまえ。以前の、都会でも、田舎でもなければ、観光地でもない、ただの町の、ただの町に相応しい、どこかごちゃごちゃと余計なものがふくまれた、猥雑とした感じがよかったのに。とにかく、手当たり次第に詰め込んだ、という様の。
 ロータリーに停まっているタクシーの運転手さんは、相変わらず退屈そうに、欠伸ばかりしています。バスの本数は減る一方です。電車の本数も。
 高速道路の拡張により、となりの栄えた都市に行くには、べんりになりました。わたしたちの町は、ただの町から、たんなる通過点になろうとしています。
 昼も、夜も、商店街は眠っています。

取り残される

取り残される

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND