月光、紙片、放浪記
それは
今も捨てずに持っている
錆色の空の
彼方から
飛んできた鳥が
何か 落としていった
それは 紙片だった
何も書かれていない
ただの 紙片だった
僕は それをポケットにいれて
ふたたび
あてどなく歩いていた
とめどなく
剥がれ落ちる膜に
脱ぎ捨てられる服に
何を見いだすというのだろう
吹き飛ばされた塵を
追いかけているような
馬鹿らしさで
本気になるたびに
本気になるほどに
僕は静かに 欠けて
それを 拾い集めた誰かが
不恰好な 廃墟を建てる
光と闇が
反転した世界で
日は暮れて
夜の帷がおりる
空は
湖のように静謐で
清冽な表情をしている
その眼に映るものの
すべてが標的になる
僕は迷子にならなくなった
それは 放浪者になったからだ
帰る場所を 捨て去ったからだ
ポケットから 紙片を取りだす
月に透かすと 文字が浮かび上がった
"歩け"
そう書かれていた
僕はまた歩きだした
あてどなく 目的もなく歩いている
綺麗なものを見つけたら
綺麗だと思える 理由もなく
行き止まりにぶつかれば
愉快な気持ちになった
それは僕が 放浪者になったからだ
月光、紙片、放浪記