ワールド・イズ・ユアーズ

本当は10文字あれば全部伝えられることも、わたしたちは何百倍も何千倍にも引き延ばして、そうしてそれが密度の高い透明な刃物になるんだと、伝えるということは傷をつけるということだと 言ったね 胸に受けた切り傷が流す血液に似た感情を、掬って舐めて、喉をならして飲み込んで笑っていた
都合のいい子供になって、百年よりおおくは生きていけないと決まっている星の上で、永遠に舟の模型の中で眠っていよう わたしたちは、誰も触れられない瓶の中にいる 抱きしめたとき、背に食い込んで皮膚を掻く爪の痛み、震える指の先の、消えない痕 理由のない大災害と同じように、わたしたちは恋をする
からだの拍動が波の寄せ返すリズムに等しい、だからあなたは海なんだって 打ち上げられた貝殻に中身がないのは、夜が全部食べてしまうからなんだって あなたが息を引き取るまでの短い間に、刻んであげなければならない傷がたくさんあるから、もう一度、身体を寄せて、ずぶ濡れになっても、風邪がうつってもいいから 好き 嫌い、おはよう、おやすみ、さようなら 本当のお別れが来る前に、何度でも練習をしたい 生きていることを確かめるよりもずっと難しくて、やさしい手術
いま手のひらを重ねたときに、互いに伝わる脈拍が、あなたです わたしです わたしたちの絶望です 何もない世界でただけたたましく鳴るサイレンです 言葉を交わさなくてもわかることは、言葉にしてはいけないことだから、本当はわたしたちに、文学は要らなかった、それでも、あなたに突き立てる刃の先が、ガラスの外から差す光の粒をあつめて、瞬いていたこと 眩しさに目を細めたあなたの、閉じる前の睫毛が濡れていたこと 答えのない謎々、世界で一番静かな告白、唾液だけでは伝わらない、殺意に似た恋情、右手に握ったそれで 一突きで息の根をとめて

ワールド・イズ・ユアーズ

ワールド・イズ・ユアーズ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-02-07

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