スリル――巨乳と美乳(アーカイブ2)

森下巻々

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今、一般的には、時間は過去から現在を通って未来へ続くという風に、直線的に考えられている。しかしながら、思いもよらぬ愉悦の出来事に出逢ったとき、どれだけの人がリスクを考え、踏みとどまることができるだろうか。これは記憶と回顧に関わるお話である。

   *
 二〇年ぶりに訪れた玩具店の建物は改築されていた。入り口とは別に、歩道に向かって窓口が開いていた。そこは、店内のレジカウンターの内側と繋がって、畳敷きになっており《タバコ》と札が掛かっている。
 ここへは、隼人はプラモデルを探しに来たのだった。昔のものに最近になって興味をもち始めていた。現在では入手し難いものが、この店なら残っているのではないかと考えて来たのだが、実際店内は商品が積まれ雑然としていてタイムスリップしたみたいだった。何か眠っていそうだ。
 さっと見ただけでは終わりそうになかった。隼人は明日も見に来るつもりで、とりあえずプラモデルの代わりに、目についたボードゲームの小さな箱を手に取った。昔たぶん読んだことのあるコミックを元にした、玩具だった。
 店内をもう一度見渡すと、ちょうどどこからか女主人がやって来て、畳に坐って雑誌を読み始めた。店内の玩具を求める客がレジに近づけば、こちらを向き、外から煙草を求める客が声をかければ、窓口の方へ顔を出すのであろう。
 外側は煙草店、内側は玩具店という感じだ。
 昔と違って煙草の販売についてのルールが厳しくなっているから、自動販売機をやめてしまって、対面販売しやすいような構造にしたのかも知れない。
 建物と違って、女主人の方は、昔と変わらぬ風貌をしていた。いったい何歳なのか分からない。隼人が小学校の頃から二〇年以上も経っているのに、この女性は、あの頃と同じ顔をしている。
 隼人は、レジ前に立った。
「お店、最近直したんですか」
 女主人は手を空中で回して、
「ああ、この辺だけね」
「昔は、煙草売り場が無かったですもんね。今でも売れますか、煙草?」
「えッ? 煙草かい? 煙草で続けられてるようなもんだよ、ウチは」
「いやあ、昔ながらのオモチャ屋が残っているっていいですよ。僕も昔、迷惑かけたけど、子供にとっては愉しい場所ですから」
   *
 隼人は、長期のお盆休暇を故郷で過ごしているところだった。高校時代の友人と会って話はしたが、それ以外に予定は無い。
 今回の帰省で決めていたことは、玩具店でプラモデルを探すことくらいだ。
 隼人は、次の日の昼前、玩具店を再び訪れた。
 彼は、あの年齢不詳の女主人が坐っているのだとばかり思っていた。
 しかし、実際には四〇歳前後の、隼人よりは年上に見える女性が、あられもない姿でそこに居たから驚いた。
 黒色のスカートに巻かれた白い両脚を開いており、ショーツは足首に掛かっていた。あらわにした秘部を片手でいじりながら、もう片方の手では、携帯電話を耳に当てている。
「ああ、お客さんが来ました……。ああ……」
 隼人が、見てみぬふりをして店を出ようとすると、
「……待って。こっちに入って来てくださいませんか」
 濡れたような声で引きとめる。
 隼人は、もう一度女性を見た。
 ひたいが大きく、はっきりとした顔立ち。可愛らしい印象だ。髪は黒くセミロングで、鼠色のブラウスを着た肩にそっと掛かっている。胸は大きそうだが、腰は引き締まって見えた。
 隼人は、彼女の艶っぽさに惹かれ、言われた通りレジカウンターの内側へと入ってしまった。
 女性のいる畳敷きのスペースの前に来たときには、既に猥褻な期待を胸にもよおしていた。
 果たして彼女は、すっと立ち上がると隼人を抱き寄せキスをした。
 プーンと煙草の臭いがした。彼女と舌を絡めると、唾液が苦い気がしたが、嫌な気は起こらなかった。彼女の舌使いは巧みで、気が遠のいてしまいそうだ。
 やがて、二人は畳に腰掛けた。床から一段高くなっているから、椅子に坐っているような形である。
 突然の状況にも関わらず、隼人の口から出たのは、なんでもない言葉だった。
「今日は、この店のオバアサンは、どうしたんでしょう?」
「おかあさんは……夫の母は入院したんです」
「昨日、あんなに元気だったのに」
「いえ、前から決まってたんです。ちょっと具合の悪いところがあって」
「そうなんですか。というか、お嫁さんなんですね」
「はい。ノゾミといいます。希望、の希と、美しい……。この名前、気に入ってるんです」
「そ、そうなんですか……。しかし、どうして、こんな」
「それは、おかあさんが……。電話で」
「電話で?」
「電話を持ったまま、ここでオナニーしろって言うんです」
「電話、繋がってるんですか」
「はい。それで、このままお客様に可愛がってもらえって。入れてもらえますか」
「入れて……」
「はい。ここに」
 希美は、畳に膝を突くと白いお臀を突き出した。
「で、でも」
「もう、濡れてます。お願いします」
 隼人は躊躇して見せたが、パンツの中では股間が熱くなっていた。
 ズボンとパンツを同時に下ろし、ペニスを軽くシゴくと、それは直ぐにそそり立つ。
 彼女の秘部に触れてみると、なるほど、ビチョビチョだ。
 彼は、ペニスに淫液をこすり着けるようにすると、間もなく挿入を開始した。先端を押し付けると、わずかな抵抗の後、するっと入った。
「はッ、入った」
「うん。はあー」
 隼人が腰を前後に動かす。内部は熱い。
 希美が声を漏らす。
 パンパンパン。肌と肌のぶつかる音がする。
 ふと気づくと、窓ガラスを通して、若い女性が遠くの歩道を歩いている姿があった。
「ああ、人がいる」
「はあー。大丈夫。向こうからは見えないはず」
「本当に?」
「大丈夫。はあー」
「ああ、気持ちいいー」
「はあ、はあ、はあー」
 外から覗かれるかも知れない場所での交情に、隼人は激しく昂ぶっていた。
「いッ、いく」
「いいですよ」
「ああー」
 隼人は、いま出会ったばかりの女性の内部に、ドクドクと精を放出したのであった。
 彼が躯を離した後も、畳に置かれた希美の携帯電話は光ったままにされていた。
 洋服を整えた彼女は、有難う、とだけ言って、頭を下げて戻さなかった。
   *
 隼人は、故郷で過ごす最後の日、また玩具店を訪れていた。希美と、もう一度会えるかも知れないと期待してのことだった。あの日は、彼女からお礼の言葉を聞くと直ぐに、帰ります、と言って店を出てしまったのだが、今日になると、どうしてもまた会いたくなったのだ。
 しかし、居たのは女主人で、始め、彼に下卑た笑みをうかべて見せた。
「この店の煙草の味は、ちょっとほかとは違ったでしょう?」
 彼は、希美とのキスを思い出しながら、
「ずいぶん、違いましたよ」
 堂々と言ってみせた。
 すると、女主人は笑って、
「ははは、それは頼もしい。それなら、ここをちょっと行った所に、美容院があるのを知ってるでしょう? あそこの嫁とウチの嫁が仲良くてねえ。良かったら、あんたも今日遊んでいくかえ?」
 その言葉から想像できる期待は、隼人の中でみるみる高まって、
「ええ。是非」
「じゃあ、少し待ってくれるかな。ふふ」
 彼は、女主人の言う通り三〇分ほど、店内で待った。
 女主人は店を閉め、隼人を或るスナックへと案内した。スナックは夕方からの営業らしく、客も店員もいなかった。
 店内にいたのは、希美と、彼女にベッキーと紹介された褐色の肌の女性である。
 ベッキーは、赤っぽい長い髪が似合う美人顔をしていた。白色のブラウスに、黒色のスカートを穿いている。
 希美の方は、先日と同じく鼠色のブラウスに、黒色のスカートという姿である。
 玩具店の女主人が、カウンター席に腰掛け、
「さあ、ワタシは手を出さないから、遊んでおやり」
 希美とベッキーは、両側から隼人の腕を取ると、一人掛けのソファへと導いた。彼は、猥褻な期待に、促されるままにしていた。
 二人は、坐らせた隼人にアイマスクを装着した。
 視界が真っ暗になった隼人。背はソファに凭れ、両腕は肘掛けに乗せた状態だ。
 女性達の甘い香りがする。
 また、何やら動作している音、衣擦れの音が聞こえていた。
 彼は、ゾクゾクしてくる。
 彼から、Tシャツが剥ぎ取られる。
 彼から、ズボンが抜き取られる。
 希美ではない方、ベッキーのハスキーな声が、
「オゥ、彼、モウ勃ッテルミタイ」
 その言葉に、隼人は余計に股間が熱くなる。
 パンツを抜き取られるとき、その縁がペニスに当たった。反り上がっているのが、自身でも分かる。
 希美の濡れたような声が、
「ほらあ、大きいでしょう。旦那と比べてどーお?」
「ほんとネ。太イカモ、シレナイネ」
 すると、ペニスが押さえ付けられた。
「ああッ」
「今、ドウナッテルカ、分カリマスカ? ひーるデ、踏マレテルヨ」
「ああん」
「やだあ、女の子みたいな声だしてる」
「コノ人、ばっちゃんヤ、希美サンノ言ウ通リ、ミタイダネ」
「人に見られてるみたいってなったら、この人、スゴい昂奮してたもん。変態なんだよ、この人」
 軽くとはいえ、ペニスや陰嚢は固いものでいじられている。ベッキーの履いていた黒く艶やかな靴を隼人は想い描く。
「アナタ、変態ナンデスカ。へ・ん・た・い」
 女主人の声で、
「どうなんだい? ベッキーが訊いてるじゃないか」
 隼人に答える義務など無い。しかし、口は自然と動いていた。更なる快感がほしかった。
「はい。変態です」
「ははは。コノ人、自分デ変態ト言ッテルヨ。ぺっぺっ」
 隼人は、口周りに水滴がかかったような涼しさを感じた。そして、直ぐにそれがベッキーの唾液であることに気づいた。出した舌を回して舐め取った。
「ベッキーっ、ツバが欲しいんだって」
「分カッタ」
 彼の唇に柔らかいものが当たった。彼が口を開けると、温かい液体が流し込まれてきた。そのぬめりは甘く感じられ、彼は貪るように呑んだ。
「オイシカッタデスカ」
 希美が続けて、
「おいしかったら、ウンと言わなきゃ」
 隼人は、頷いた。
 その後、しばらくの間、衣擦れの音がしていたかと思うと、人の密着してきた気配を感じた。この甘い柑橘類のような臭いは、希美の方だ、そう思った。どうやら、鼻の感覚が敏感になってきているらしい。
 ムッとした熱と匂いが顔を覆ったようだった。先ほどとはまた違う柔らかいものが唇に密着した。
 舐めると、ヌルッとしている。スベスベしていると言ってもいい。鼻にジョリジョリしたものも触れてくる。
「そう、もっと舐めて」
 強く口に押し付けられ、息がしづらい。彼は無心で舐め、その部分を吸った。
「そう、そうです。気持ちいいわ」
「私ニモ、ヤラセテクダサイ」
「ええ、そうね」
 次に押し付けられた部分も、希美のものに劣らずムッとしていた。しかし、ジョリジョリした感じは少なかった。既によく濡れていて、隼人が舐め、啜ると、いやらしく音がたった。
「オゥ、気持チイイ」
 ベッキーは、自身の敏感な部位を手で露出させて、あてがっているようだった。集中的に責めている内に、
「オゥ、イエス。カム。イッチャウ」
 隼人の顔に、強く押し付けてくるのであった。
   *
「オ礼ニワタシガ、ココヲ、マッサージシテアゲマス」
 隼人は、股間に肌が触れるのを感じる。
 両手で刺戟しているのだろう、突っ張ったペニスは上下にしごかれている感覚だ。
 やがて、なまぬるい感触が全体を包み込んだ。唾液が落とされたのか。
「あッ」
「ここ、弱いのかしら」
 希美が隼人の乳首を弄り始めたようで、彼は上半身下半身を同時にもてあそばれることとなった。
「あああ。あん」
「コウイウノハ、ドウデスカ」
 ペニスが、波打つような刺戟に包まれた。上から下へ、下から上へと、全ての指を使って順番に、ピアニストが鍵盤を叩くようにされているのが感じとれる。
「ああ、いい気持ちです」
「すごいわ、ベッキー。さすがエステティシャンだっただけのことはあるわね」
 そうか、ベッキーは美容院をやっている家の奥様だった、旦那さんとはそういう関係で結ばれたのかもなあ、隼人は思う。
 やがて、断続的に先端に温かく湿った感触を覚え始める。
「納豆ミタイニ、伸ビテルヨ」
 滲み出る粘液が糸を引いているのだろう、ベッキーの美しい唇を汚す様を隼人は、アイマスクの裏に描き、昂ぶった。
「オゥ、太イネ。ヤッパリ。顎ガ痛クナリソウ」
 そう言いながらもベッキーは、ピストン運動でペニスを摩擦してきた。
 口でしているのだろうが、暗闇で感じていると、それはなんだか内部が蠢く奇怪な生物と、交接しているかのようであった。
 ジュポジュポと音が響いている。
 乳首の方は、希美に舐められ、咬まれている。
「ああ、気持ちいいーです。もう、出てしまいますよ」
「いいのよ。出して」
 希美が、四〇年を生きてきた包容力で、隼人に囁く。
「ああ、ホントに。ホントに」
 隼人は、思わず両手を肘掛けから離して、股間の方へと動かした。長い髪を掴んでしまう。
「む、むむむ」
 ピストン運動が激しくなった。
 ジュポジュポ、ジュポジュポ。
「ああッ。出るッ」
 隼人は、熱と粘液を感じる空間へと、射精したのであった。
   *
「これだけで終わる気はないでしょう?」
 希美によってアイマスクが取られた。現れた視界は、一瞬揺れていた。
 目が慣れて、カウンター席を見ると、玩具店の女主人はもういなかった。
 希美とベッキーは、もう裸だった。二人とも、スタイルがいい。
 希美の方は、巨乳で、焦げ茶色の大きめの乳輪と乳首が存在感をもっていた。
 ベッキーの方のオッパイは小ぶり、褐色の肌と亜麻色の乳首のコントラストが美しい。彼女の方が、スレンダーと言えるかも知れない。
 室内の長いソファは、いつのまにか背が倒されて、ベッドの形になっていた。
 希美は、隼人を立ち上がらせると、そのベッドへと促した。
 希美の方から唇を重ねてきた。甘い匂いに煙草臭が混じっている。
 今回は最初から気を入れて、舌を絡ませた隼人であったが、やはり彼女は上手で、目を何度も閉じそうになった。
 ベッキーが背後から、唇をせがんでくる。彼は、彼女の方にも顔を向けて、舌を絡ませた。
 二人の唇を、何度、交互に味わったことだろう。隼人は、甘い美酒に酔うようであった。
 そこから先手を打ったのは希美だった。
 希美は、隼人の肩を押すようにして倒すと、ペニスに手を伸ばした。
 何度か、しごくようにした後、それを巨乳で左右から挟んだ。器用に上下に動かしながら、先端には舌をのばして、ときどきペロリと舐める。その卑猥な光景に、ペニスは強度を取り戻した。
「ああ、気持ちいい」
 すると、ベッキーが強い口調で、
「気持チ良クナッテルダケジャだめ」
 彼の顔を跨いで、股間を顔に押し当ててきた。いわゆる顔面騎乗の状態だ。
 ベッキーの股間はヌレヌレだった。恥毛が少なく、秘部が露出している感じだ。
 彼女は、自身でも前後に腰を動かし、クリトリスが舌に当たるように調整してくる。隼人は、ムッと咳き込むような熱と、程よい重みに圧されながら、股間を熱くさせた。
 希美の方とは言うと、オッパイを使うことはやめて、口唇を使うことに専念しているようだった。笠や幹の部分を舐めるだけでなく、陰嚢をもハムハムと咥えてくれる。
 隼人は、感激して、夢中でベッキーの秘部を愛撫し続けた。
 やがて、ベッキーは、
「オゥ。オゥ、カミング。マタ、イッチャイソウ……」
 そう言って、躯を離していった。
 隼人は、起き上がると希美にチュッとキスし、その巨乳を手のひらで覆った。柔らかなそれは、揉んでいるという実感に充分だった。
 秘部の方に手をやると、希美が、
「あん」
 濡れたような声を漏らす。
 彼は、綺麗に対称形を成している襞を広げて、クリトリスを舐めた。
 同時にベッキーが、希美の焦げ茶色の乳首を、舌で指で刺戟している。
 隼人が指を出し入れしながら、クリトリスを愛撫し続けていると、遂に希美も、
「ああん。私も、私もいきそう。ああん」
 躯を一瞬、ふるえさせたのだった。
 彼は、そのまま間をおかずに、ベッキーを抱き締めた。
 チュッとキスをすると、正常位の形で彼女の内部に進入していった。
 ペニス全体が締め付けられるようで、心地いい。
 隼人は、結合したまま、美しいオッパイにむしゃぶりついた。希美のものよりも酸味のあるような体臭が鼻腔を刺戟する。亜麻色の乳首は、彼の口中で硬くなっている。
「アアゥ、気持チイイヨ」
「はあ、はあ、俺もだ」
 隼人は、腰をゆっくりと前後に動かしているつもりだった。
 しかし、絶頂の時をこれ以上、延ばすのは難しいところまできた。
 動作が速くなる。
「はあ、はあ。気持ちいい。もうすぐ出るかも知れない」
 ハスキーな声で、ベッキーが応える。
「イエス。大丈夫ヨ。……オゥ、サンキューね。私達ノコト、覚エテイテクレテ」
 隼人は、
「ええッ?」
 不思議に思ったが、腰の動作は止められない。
「そうじゃなかったのッ!」
 希美が、そう声を上げたようだった。
「ああッ! で、出る」
 隼人は頭に火花が散ったように、クラクラし始めた。射精感とともに、意識が遠のいていく。
 彼女たちの声が、かすかに聞こえる。
「こんなことだけ大人になっちゃって。どうやら、罪滅ぼしじゃなかったみたいよ」
「反省シテタラ、出世デキタノニネ」
   *
 目が覚めると、隼人は服を着て、スナックの入り口正面にある電信柱に凭れていた。通りには、自分以外、誰もいなかった。
 夢から覚めたような気分だったが、酒くさい訳でもない。やはり現実だ、そう思って玩具店に行ったが、閉まっていたので実家へと帰った。
 何かの拍子に気絶してしまったのだと考えるほかなく、不思議に思いながらも、その日の夕方、都会へと戻っていったのだった。
   *
 翌年の夏、隼人は実家に戻った。今度は、お盆の休暇の帰省ではない。勤めていた会社が倒産したのだ。
 彼は、ムシャクシャした気持ちを晴らそうと、再び玩具店を訪れた。希美に、ベッキーに、会いたかった。あの、淫靡で不思議な体験は、現実に違いないと思っていた。
 店内に入ると、畳敷きのスペースに男性が坐っていた。
 隼人は、
「おかあさんは元気でしょうか」
 爪を切っていた男性は手を止めて、
「母ですか。母親なら、三年前に亡くなりました」
 隼人は《三年前》というのは、自分の聞き間違いだと考え、続けて訊いた。
「それでは、奥様は?」
「私はずっと、独身ですが」
 隼人は、さすがにおかしいと感じ、戸惑いながら更に訊いた。
「おかしなことを訊くかも知れませんが、この先に美容院がありますよね」
「ええ」
「そこの奥様って、どこか外国から嫁いできたのでしょうか。言葉がカタコトですよね」
「いやあ、どこかと間違えてるのではありませんか。あそこの息子も一人もんですよ」
 隼人は愕然とし、玩具店を飛び出した。
 そして、スナックを探すと、その建物は存在するにはしたが、去年とは違う看板が付いていた。
 彼は、それ以上確かめる気にもなれず、実家へと歩き始めた。
 そして、歩き始めながら思った。あのとき買ったボードゲームはどこにやったのかと。結局、プラモデルは買わずじまいであり、ボードゲームは実家の部屋に置きっぱなしのはずであった。
 隼人は、部屋の机の引き出しからボードゲームの箱を出し、初めて開けた。
 そして、中を見て少年の頃を思い出した。この玩具の元になったコミックのトレーディング・カードを、あの玩具店で万引きしたことがあったのだ。そのコミックが好きだった訳でもない。スリルを愉しみたいだけの、興味本意の万引きだった。
 カードには、希美とベッキーという登場キャラクターが描かれていたことも思い出された。
 去年会った二人の女性の言葉が、鮮明によみがえる。
「こんなことだけ大人になっちゃって。どうやら、罪滅ぼしじゃなかったみたいよ」
「反省シテタラ、出世デキタノニネ」
   (「スリル――巨乳と美乳」おわり)

スリル――巨乳と美乳(アーカイブ2)

スリル――巨乳と美乳(アーカイブ2)

官能小説。アーカイブ(2017年12月執筆のものを修整)。

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日 2021-02-05

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著作権法内での利用のみを許可します。

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