零教
"無"あるいは"無化"への恐怖……いや、畏怖というべきだろうか……
恐怖と畏敬が同在している、この船酔いのような感覚が……眼球自体が万華鏡になってしまったような感覚が……おれを狂わしめる……
いずれ二つは解け合い、おれはその中に溺れていくだろう……惜しいのは解け合う瞬間を目撃できないことだ……ひとりの人間が変貌する、その決定的瞬間を……
絶望は希望を引き立たせる為に、希望もまた、絶望を引き立たせる為にあるのだろうか?わからない……おれにわかるのは、盲目でない人間は常に板挟みになっていることだ……常に葛藤し、常に選択しなければならないということだ……嗚呼、それがどんなにおれたちの神経を摩耗させることか……
悪い夢を見ているようだが、これは紛れもなく現実だ……現実に魘されているといってもいい、現実は終生この躰に呪いの如く染みついている夢のようなものだから……
0の引力……その無機質な空洞……逃れられない終焉……その魔力に引き摺り込まれる……それは郷愁のような懐古心にも通ずるものがある……
もはや終わることにしか救いがない……狂うことにしか救いがない……おれは一途に信仰している、全存在に対する知覚からの脱却を……忌まわしい空間からの脱出を……森羅万象の無化を……
零教