海を渡る
誓いは、花びらにくるまれ、埋葬された。
まよなかのゲームセンター、閑散として、スナックや、キャバクラが乱立する繁華街も、潮が引いたように静かだった。ねじをひとつ、失ってしまった、街。正常に機能していたはずのもの、歯車が狂いだし、ちいさな綻びから、もう壊れてゆくだけなのだと、まよなかの少女たちは口々に語る。白光する、ひざ下丈のワンピースを纏い、はだしでアスファルトをかけはねる、少女たちの群れに、ぼくは、どんどんと追い抜かれてゆく。少女たちは、今日という日の終幕に向かう。そして、明日という日を手招きする。かわいらしく、そして、あやしく。ゆうがた、本屋さんで買った、一冊の薄い文庫本が、ときどき、かばんのなかで、鳴いているような気がした。しらない国の、しらない誰かの、人生についての本。児童公園の、ジャングルジムの頂上で、星をつかむ子ども。この街が、おかしくなった頃から、子どもたちは、夜行性となった。子どもにつかまれた星は、いわゆる星屑で、人体の熱に触れた瞬間、すでに虫の息だった命にとどめをさされるかたちで、星屑は、まぎれもない屑となり、ぼくは、無知とは、なんと残酷だろうと、ひそかに思っていた。
今日と、明日の境界線は、いつも、すこしだけ、海のにおいがする。
海を渡る