うなじ
お父さんはいない
お母さんがいない
おばあちゃんが死んで
あと、だれが死ねば
もう誰も死なないんだろう
海の側にある家の、部屋の窓からみえる朝になる前の海は、わずかだか光始めている。だれにも創り出せない青がそれに入りまじって、夜を切る。真っ暗な山々の向こうにうっすらとまた山が見える。この景色だけなら、ここが中国だと言われてもわからないくらいに、自然だけがそこに在る。風が吹けば潮が波打って目前の窓をなぞる。おばあちゃんが言っていた、町がどれだけ変わり、失くなろうと、この景色は変わらないと
わたしは小さい頃からうなじを触る癖がある。新しいようで、昔からあるような、その感触をたしかめて、生きていた。何度も生えかわるそれを知っていながら。もし今日それを、やめるならば、やめたとしたら、そうだとしても
この景色は変わらないんだ
どれだけ青に佇んでも、変わらない景色に光は射す。少しずつ山の木の輪郭が見え始めて、そこが中国でもなんでもないことを知る。たしかめたくて窓を開けた。
海の匂いがする
うなじ