消えた重力

あおい はる

 そらにおちる、奇妙な感覚、は、なによりもきもちわるくて、とちゅうで吐いた。胃のなかがからっぽになる頃には、なんだか、胃を、ぎゅっとおさえつけられているような感じで、ぼくは、はんぶん、意識をうしないかけていた。
 街が燃えた。
 いちばんかなしかったのは、だいすきだったクレープやさんがなくなったことで、でも、クレープやさんのひとたちは無事だったから、よかった。白いひげをのばした、おじいさんと、にんげんのかたちをしたロボットの、ネオ。チョコバナナクレープという、王道中の王道がとにかく美味しいと評判だった。永久凍結されたのは、きみを含め、市立図書館のひとびとだ。街の機密事項を知ってしまったため、らしいが、それは図書館の一部のにんげんだけであって、きみは関係ないのだと聞いた。しかし、それを知っている人物が特定できないために、やむなく図書館の職員や司書、かかわっている市役所のにんげんすべてが、同等の処遇を受けたのだという。えらいやつっていうのは、まったく、どうして、こうも。ぼくは、クレープやさんだったところ、店の建物の残骸をみつめながら、怒りやかなしみなどの負の感情を、どう扱ったらいいのかわからずに弄び、飼い慣らすばかりであった。ぼくの家も燃えたけれど、クレープやさんの損失と、きみを奪われたことに比べれば、なんてことはないと思っている。
 黒こげの瓦礫を歩いているときに、落下した。
 そら、とは、いつからおちるところになったのか。次第に閉ざされてゆく意識のなか、そんなことを考えていた。着地のない落下をつづけているのに、いやに冷静だった。大気圏を突き抜けて宇宙にまで届くのかと想うと、こわい、という気持ちと、どうせあっというまに肉体など壊れるのだからこわくもないだろう、という気持ちがないまぜになって、恐怖と諦めがごちゃごちゃになると、寧ろ一種の快楽じみたものが芽生えたような気がした。
 そらは、どこまでも青い。

消えた重力

消えた重力

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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