VENUS


ぼくはきみと、夏にあった。
なにか怪物のようなものと遭遇したような、そんな気分だったとよく覚えている。
そして今日また、きみとあった。
あれから今日までの間にもほんの数回きみをみたが、あったのはあれ以来だ。
きみが VENUS だと知ったのは今日がはじめてだ。
きみは大きい。そして二つに分かれていて、少し複雑なかたちをしている。
腕をくんでいるのかい。
きみは、あの日と同じようにそこに立っている。
あの日は暑かった。今日は寒い。
それでもきみは腕をくんで(いるようにぼくにはみえる)、あの日と同じところに同じように立っている。
いまは夕方、きみは西日のほうをみている(ようにみえる)。
腕をくんで。右肩をあげて。
造られてここにおかれたその日からずっと、そうして…

今日、からっぽのぼくには
きみがすばらしかった。

しばらくそこにいたが、
やがてぼくはその場から離れていく。
ほんとうはもっといたいけど、寒くなっちゃった。
今日はじゃあね(またね)、VENUS。

VENUS

VENUS

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-02-02

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