いつかのための習作⑤

眠剤を飲んでから2度目の覚醒。1度目は眠剤の効用もあり清々しい目覚めで、1日という単位の中では、この1度目の覚醒時が、小説家のコンディションの絶頂期であった。煙草を1本吸って再入眠へと向かう。それはいとも簡単になされる。鬱を患っている者がしばしば言う「1度目覚めれば再度寝付くことができない」という鬱あるあるは小説家とは無縁だった。
小説家が嫌ったのは再入眠からの覚醒時の目覚めの悪さだった。夢と現を忙しなく駆けながら、段々と現の方へ引き寄せられる意識が明瞭になった時、夢に観た内容に関わらず、小説家を極度の恐怖が襲う。堪らず跳ね起きて、室内の間接照明を灯す。1度目の覚醒時とは異なり、朦朧とした足取りで、それでも足元には気を付けなければという念だけは込めて、何とかキッチンまでたどり着くと、煙草に火を点ける。それを吸い終わる頃には意識もはっきりとして、しかしもう、こんなしんどい目覚めであるのならと、再度の再入眠へ向かう気にもなれない。
座椅子に腰を下ろした小説家は、眼前のノートパソコンを開き、次の眠気に襲われるまで執筆に打ち込むことにした。

いつかのための習作⑤

いつかのための習作⑤

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-31

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