見舞い

「ただ、ほんの少し幸せになりたい」

そうでござんしょうか。貴方様程の見た目の持ち主、幸せになるのは簡単だと思われます、がいかんせん、私のまなこ、腐っておりまして、とても、とても綺麗にテーブルクロスなんか敷かれちゃってる食卓に出せるようなぁ代物じゃあありませんのよ。

「ただ、朝、起きて、夜、眠る、たまに、人と話して、けいたいげーむでも、なんでもいいから、遊んで、間違えて、課金して、怒られて、友達に、笑われて、そんな、なんの、心配もなく、生きてける人生。ほんと、ステキ、あんた、恵まれてるで」

綺麗な黒髪を伸ばしきった低い声の貴方様が窓からこぼれる光で輝いてますよ。
口に出したら彼は笑うのだろう、あほなことなんぞ、今言う時じゃないと。
いや違うのです。
私はきっとあなたには言えない。私はあなたの欲しいもの全てを持っていてもっと欲しがろうとする劣悪な人間だなんてわかって欲しくないのです。だから黙って頷くのです。
あぁ、こんな愚痴で、テーブルクロスが汚れてまうわ、白いシーツに赤い斑点が散っちゃうわ。いや、むしろ、もう、散ってくれ。綺麗な、あなたを、私は、好きになれない、使い古された、あなたなら、愛せた。

見舞い

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-29

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