透明な街

あおい はる

 こどもにはみえない、街があって、星屑を濾したものが浮かぶ、お酒が、よく売れていた。星屑とはいえ、ときどき光って、それは、自然的な、というより、にんげんが手をくわえたような、ブルーや、パープルや、イエローなどの鮮やかな色を、一瞬、放つのだった。愛しいひと、を、ぜったいにひとり、設定しなくてはいけなくて、その街では、じぶんが決めた愛しいひとのことを、生涯、死ぬまで、愛さなくてはいけない法律があった。神父、というひとがいて、シスター、というひとはいなかったので、神父、というひとは、穢れていない、純潔の者として崇められ、そして、身も心も清らかな彼らを、いかに堕落させるかを、一部のにんげんは企てていた。きれいと、きたないが混在するのが、常だった。
 わたしは、おろしたてのブーツで、夜明けの街を歩いていた。
 この街は煩雑で、昼も、夜も、にぎやかしさに鼓膜は痺れ、色とりどりのネオンに網膜は焼け、たべものや香水やなにかが腐ったような複雑なにおいに鼻は狂い、けれども、愛憎という面では波風のない、凪いだ海を小舟で揺蕩っているような感覚が、ひどく心をざわつかせるときもあり、表面上はクリアなのに、掘り返せば、どす黒い水がぼこぼことあふれだしそうな、そんな街でも、夜明けの頃だけは、妙に平和なのだった。ふつうの街、という表現が合っているのかは、わからないけれど、太陽が昇りはじめる前、夜が静かに引いてゆく瞬間だけは、こどもにもみえて、愛しいひとが複数いてもゆるされる、ふつうの街に、なっているのだと思った。
 ヒールで、アスファルトをこつこつ叩く音が、刹那の静寂に浸るビル群のあいだに響き渡る。
 愛と、性が、イコールにならないとき、わたしはすこしだけ、とまどう。

透明な街

透明な街

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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