弥勒誕生

世の中は不条理である。ずるい人間が得をする。
しあわせいっぱいの人生で何も悪いことはしていない。
いえ、誰が見ても善行しかしていない。
それでも奈落の下に突き落とされることさえある。

二人の子供に優しい妻、仲良しで誰が見ても幸せな生活
旦那は私立の有名な高校教師
妻は小学校のカウンセラーの臨時教師
何のことはない
少しでも子供たちの救いになれば
お金もうけとは関係ない。

何時もと同じように「行ってきます。」旦那は家を出る。
今日は臨海学校
近くの海に生徒を引率だと言っていた。

何時ものように佳奈は学校へ向かう。

夕方に電話が入る。

「警察から電話です。」

教頭の顔が青ざめている。

電話の向こうから「ご主人が事故で。。。」

「詐欺?」頭が真っ白な中でぼんやり考える。

「生徒が波にさらわれ助けに。。。」

「やっぱり詐欺ね、今日はこんなに穏やかな日だもの」

覚えていたのは、そこまでだった。

何万回に1度運がないとしかいえない大波が旦那の命を奪った。せめて生徒が助かった。それが救いになったと思うしかなかった。

ふと感じる。
義母が泣いている。白い布の上にある旦那の写真の横に小さな箱

佳奈の左右には最愛の息子達

「死んだんだ。」
まるで楽しそうに動いている私

ただ息が苦しい

「やっぱり私も死んだんだ」
哀しくて涙が流れた。


仕事も辞めた。
ローンも払わなくてもよい。
旦那の保険で全てまかなえる。

「横着者だなぁ~」とぼんやりと思う。

人には「子供のおかげで救われている」

しかし
そんな筈はなかった。

人の言葉は白々しいとしか感じない。

ダイエットの必要ではなかったけど
お腹が減るのが腹立たしい。

訳もわからず涙だけが流れ
息ができなくなる。
「どうして息を吸ってたの」自分に呼び掛けるけれど答えが見つからない。

いつの間にか3年過ぎた。

兄から電話があった。

「母が死んだ
でも来なくて構わないから自分の事だけを考えて」

父や姉、弟、親戚
友達、職場の仲間沢山の人々から電話があったけど心に響いたことはなかった。

兄からは、あれ以来始めての電話だった。
「私のことを思ってくれた人がいた」そんな気がした。

勇気を出して葬儀に出た。
しかし坊主の話を聴いているうちにまた息ができなくなる。やたら怒鳴っている。叱られているように感じる。
子供たちがしっかりと支えてくれた。

「いつの間にか立派な青年になっている」小さな声で呟いてみた。

母の49日が過ぎ満中陰志が届く
何故か?弟の名前で

兄に連絡を入れた。
「体調を崩して、弟に店を譲り転職したんだよ」「お前は気にしないで自分事だけ考えてね」

不自然だった。

小さな商売をしていた。道楽者の父は兄に仕事を任せて遊んでいた。

生前母が婿養子先で離婚をされ弟が帰ってきて家で遊んでいるとは聴いたけど

年の離れた私と弟
兄がいたから生活が出来た実感はある。

兄嫁に電話をしてみる。
そんな気になった私が不思議だった。

「満期になった保険金1000万を払って自由にしてもらいました。」明るく言っている。

「生活は大丈夫?」

「う~ん。退職金なんてないし貯金もないけど、信じているから大丈夫」そんな兄嫁を羨ましく思った。

「今度義母の母の実家のお寺に行くけど一緒に行かない?」「安いからって弟さん違う宗派で、旦那は怒っていたけど、葬儀に喧嘩もできないからって我慢したみたい」

何かみつけられそうな気がした。

1週間後にお寺に行った。

山の上のお寺
息が楽なような気がする。

ただ山を歩く

若いお坊様に連れられ御本尊に
「国宝で普段は見せないのですが。。。」と

可愛くない観音様が鎮座されている。

兄が「どうしても見せたくて」
「この観音は三代目だってさ、先代も先々代も焼けたらしい」
「俺はなんて、お粗末って思ったんだけどね、だって自らも守れない観音が人々を守れる訳もないだろう、そんな事を何時も考えてたら観音様から返事があったんだ。観音は幾ら焼けても何ともないんだって、観音の使命は人々を守ることだから」
と珍しく饒舌に兄が喋った声が旦那の声に聴こえた。

弥勒2に続く(リクエストがあればで~す。)

弥勒誕生

弥勒誕生

釈迦が言っています。 将来弥勒という菩薩が現れ人々を救うと 日蓮が言う。 将来自分が弥勒になると 少し面白い話がある。 日蓮が死刑に成りそうな時に八幡大菩薩を怒鳴った。。。すると役人の刀に雷が落ち助かったと言う。 何気に観音の話を読んでいると観音に助けを求めると同じような現象で助けとある。 不思議に思い調べて見ると当時の日本は観音と八幡とは同じと考えられていたとの文面を見付けた。 事実かは不明ですが 尚日蓮の罪状は、武器等準備罪だったようで武力革命でも考えていたのだろうか?

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-28

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