ピースとナイトメア

あおい はる

 きれいだった記憶、まっさらにした。洗ったあとみたいに、清らかで、爽快で、けれども、なんだか、心許ない感じ。さかなのおよぐ、海は、どこまでも青かったのに、いつのまにか、夜を吸ったように、黒くなって、波の音が、だれかの泣いている声にきこえた。
 そこ(深海)に、いるの?
 電波の届かないところに、いることを、すこしばかり不安に思うようになった、現代。だれかとつながっていないと、まるで、生きている心地がしないみたいに、インターネットのなかのひとたちに、やさしさとか、愛を、もとめるひと。いいねの数が、じぶんのすべてだと、信じているひと。不確かなことを、確かなことのように、拡散するひと。
 二十時の、テレビのなかで、男の子のアイドルたちが、ほほえんでいる。
 へいわ、とは思わない。
 へいわ、でないとも思わない。
 窓の外で、しらないだれかが、けんかしていたり、ばかみたいにさわいでいたり、ということもなくなった、ので、へいわ、なのかもしれない。でも、そもそも、けんかをするひとが、ばかみたいにさわいでいるひとが、窓の外を歩いていないのだから、へいわ、とは呼ばないのかもしれない。みんな、眠っているのだろうか。仕事帰りの一杯を、たのしみにしていたひとも。どこか気だるげに、カラオケで夜を明かしていたひとも。真夜中のファミレスで、ステーキを食べていたひとも。みんな。
 長い夜だねと、波間がささやいた。

ピースとナイトメア

ピースとナイトメア

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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