キミ想う明日が消えるまで。

𝑆𝑜𝑟𝑎

  1. 「いつ君を忘れることが出来るのだろう」
  2. 【2020年12月8日】
  3. 【2020年11月27日】
  4. 【2020年10月31日】
  5. 【この日常に別れを】
  6. 【2020年12月3日】
  7. 【2020年12月22日】
  8. 【あの頃の記憶】
  9. 【2020年12月28日】
  10. 【2021年1月4日】
  11. 【2021年1月22日】

これは、儚い恋の物語。
ひとりの青年と一人の少女。
そんなふたりのお話。

「いつ君を忘れることが出来るのだろう」

「いつ君を忘れることが出来るのだろう」

僕はずっと、その答えを探している。

一番愛した君を。一番傷つけた君を。一番離れたくなかった君を。

君を想うこの迷惑な感情は、ずっと僕の頭の中をぐるぐるとまわり、いつになってもなくなってくれない。
どれだけ時間が過ぎても、何かある度に君の顔が浮かぶんだ。

今君は何を求め、何を感じ、この関係をどう思っているのだろう。
君のことを考えないようにしていても、いつの間にか君のSNSを開いている。身体が勝手に君を求めてしまう。

迷惑な感情だ。

君を傷つけることしか出来ないものはいらない。
僕には、君の苦しみを和らげることも、君の救いになることも出来ない。
君の中には、ずっと僕じゃない誰かがいる。分かっている。少しでも繋がれただけ感謝しなきゃいけないってことも。
でも、僕はそこで満足してくれない。一つ一つ望みは叶えど、一番叶ってほしい願いはずっと保留のままだ。

もう、終わりだな。

そう思うほか、なかった。

【2020年12月8日】

僕が住む北海道札幌市では、雪がパラパラと降り出していた。気温も一気に低くなり、0度を下回ることもちらほら。元々北海道出身ではない僕からしたら、気温が0度になるだけで身体的ストレスを感じていた。

「今日も仕事か」
僕はひとり、自宅でスマートフォンを開いていた。その端末内にダウンロードされた青と白のトリマークのアプリを押すと、自身しか知らない裏アカウントにログインした。
プロフィール欄に飛ぶと、僕がこれまでに投稿したツイートが縦にずらっと並んでいる。
たまにそれらのツイートを読み返しては、そのときの心情を新規のツイートとして更新するのが最近の日課になっていた。

今日も僕は、いつもと同様に新規ツイート欄を開き、誰にも見られない唯一の場所で呟いた。

【また君を抱きしめたい。また君の温もりを感じたい。また君の優しさに触れたい。どれだけ気を紛らわそうとしても、君がいないことで空いた穴はどうしたって埋まらない。表面にだけ蓋をして、落とし穴のようにすぐ落とされる。君との想い出の穴は、君じゃないと埋められないんだ。会いたいよ。】

「はぁ…朝から何してんだ、俺」
仕事があるからと、朝6時には目を覚まし、諸々の準備を終えたところでネットサーフィンをしてゆっくりする予定だった。
でも、それがきっかけでまたあの子が頭に浮かび、家を出る前の7時半頃、そう呟いていた。

こんなことを繰り返しても、ただ虚しくなるだけだろ。あの子はもう戻ってこない。分かってるはずだ。俺じゃあの子の役には立てないんだから。

病んで投稿しては自己否定をし、情けなくなってはまた病んで。ずっとその繰り返しだった。

君に対して抱いているこの想いは、きっと愛などではない。片方が一方的に押しつける迷惑なものは、「愛」とは呼ばない。いや、呼びたくない。僕の中のこの感情は、そんなかわいい言葉で片付けてはいけないと思っている。

僕は最低なことをしたのだから。

【2020年11月27日】

遡ること数日前。君が26日の木曜日から連休が取れたらしく、一昨日の夜からうちに泊まりにきていた。
僕が札幌に越してきたのは先月のハロウィンの日だ。その日から何度かドライブに行ったり、うちに泊まったりと、頻繁に会っていた。

「ねぇ、今日はピアスあける?」
楓叶(ふうか)がやってくれるんやろ?」
「うん!」
「いや〜、でもまだ心の準備が…」
「じゃあやめる?」
「いや、やる」

そんな何気ない会話をこの日もしていた。こんな毎日がずっと続くと思っていた。
ただ、2人で会っていることは楓叶の彼氏には伝えていなかった。楓叶の彼氏は2年弱、楓叶と札幌で同棲をしたあと、家族や仕事の都合により室蘭市に引っ越していた。丁度僕がここに来たときと入れ違いで。
君曰く、その彼氏と中々会えなくなってしまった寂しさで、僕を利用し、寂しさを誤魔化していたのだと言う。

でも、僕は利用されているなんて思っていなかった。だって、君との時間が僕にとって何よりも幸せで、一番大切な時間だったから。
たとえ利用されているのだとしても、僕でその寂しさを埋めることが出来るのなら、それでもいいと思っていた。

そう、僕は楓叶が好きなんだ。
でも、あの子には彼氏がいる。約一年半後、室蘭で結婚を約束している彼氏が。

「相手がいる人を好きになってはいけない」という法律はないが、僕自身がそれを許していなかった。楓叶は心友だ。たとえ出会ったのはネットの音楽SNSアプリでも、僕らの関係は深く、互いを理解していた。僕が元カノと別れ、どうしようもなく落ち込んでいたとき、楓叶だけが僕の支えだった。あの子にはかなり迷惑をかけただろう。それでも、楓叶はいつも寄り添ってくれた。話を聞いてくれた。肯定してくれた。
そのことがきっかけで、僕は楓叶に好意を持ち始めた。

彼氏がいると知っていながら。

はじめは、僕が三重県の実家に住んでいたことから、あまり意識はしていなかった。
「すき」と思ってはいたが、それが恋愛感情の『それ』だという認識はなかった。
そして今年7月頃、いつものように2人で電話をしていると、仕事の話題になった。

「身内だけで仕事出来たらめっちゃいいよね」
「そうやな。まあだからこそ難しいことはあるとは思うけど、それでもストレスは感じにくいやろな」
「だよねー」

楓叶は電話越しでも伝わる程、深く頷いていた。
今年の4月から仕事を初めた楓叶は、仕事への不満が多く、最近は「仕事行きたくない」が口癖になっていた。
そこで楓叶は、はっと閃いたようにこう言った。

「そうだ!ねぇ、秋美(あみ)も一緒に3人でカフェやろうよ!」
「カフェか…でも僕東京行って声優になろうかなって思ってたんやけど」

この頃の僕は、自分の憧れの声優が所属している事務所に入るべく、その事務所へ入るための第一段階として、東京の声優学校に通おうとしていた。
「だめ?」
楓叶は少し拗ねたように聞き返した。

正直、嫌ではなかった。元々やりたいことが定まらず、ずっとふらふら仕事をして、ただただ何もない日常をおくっていたから。
ただ、やっとやりたいことを決めて、声優になることを決めた直後だった。声優学校に資料請求をし、以前声の仕事をしていた知り合いに発声練習や滑舌等、いろいろ教わっていたところ出た話だった。

「いや、だめとかじゃないけど、声優なろうと思ってたんやけど」
「だめ?」
悪い子だ。
そんな甘えた声で言われたら、首を縦に振るしかないじゃないか。でも、悪い気はしない。好きな子から誘われたのだから。
「わかったよ」
そう言うと、楓叶は嬉しそうに声のトーンを上げ、電話の向こうでやったと喜んでいた。

「でも、秋美も一緒にやるなら札幌でやるってこと?」
「そう!札幌きて!」

秋美とは、楓叶の古くからの心友だ。
お互いが信頼し合っていて、何でも話せる仲だという。元々僕と秋美は接点がなかったが、楓叶が二人には仲良くなってほしいとのことで、連絡先を交換していた。今では仲のいい友達といった具合だろうか。

「札幌かー。行きたいのは山々やけど遠いからな…」
「いいじゃん、おいでよ!したら会えるよ?」

う…そんなこと言われたら、また頷くしかない。本当にずるい女の子だ。
結局僕は楓叶の意見を受け、札幌に越すことを決めた。

そこからははやかった。職場へ辞めることを伝え、引越しの準備も早急におこなった。こうと決まったことなら、すぐさま行動に移す性格だ。我ながら自分の行動力には驚いている。

そんなこんなで、僕はハロウィンの10月31日、札幌へ引っ越した。

それから何度か会ったりドライブに行ったりと、回数を重ねるにつれて、楓叶に対する想いが強くなった。

そして、今日。11月27日。人生で最大の後悔をすることになる。

お昼は近くの牛丼屋で豚丼をテイクアウトした。家に帰って昼食を済ますと、またいつもどおりダラダラと休日を過ごしていた。二人が知り合った音楽アプリでサウンドを録音したり、何気ない会話をしたり、身体を重ねたり。
お互い罪悪感はあれど、欲望には勝てなかった。
この日も、楓叶の目を盗んでは、何度もSNSに思いを綴った。

「いつからこんなに我儘になってしまったんだろう。いつからこんなに弱くなってしまったんだろう。自分が自分じゃないみたいだ。この出会いに名をつけるなら、きっと僕は【運命】と呼ぶだろう。はじめてそれを感じた。本来なら、君にそれを感じてはいけないのに。ほんと、何してんだろ。」

「なにしてもけっきょくなにもかわらないこんなことならさっさとしんでおけばよかったなにしてんだほんとになんでいきてんだおまえはこのよにいらないそんざいなんだからさっさとしねよおまえはさいていへんのにんげんだおまえののぞみなんてかなうわけがないおまえはずっとひとりだこれからもずっと」

「奪う勇気。それがあれば一緒にいられるの?今君を彼氏から奪おうとしても、君は彼氏を求めて帰りたいと言うだろう。それがあったところで、自分の欲望を抑えてきた僕からしたら、君を傷つけるのが怖くて何も出来ないだろうな。僕は情けなくて愚かで、醜くちっぽけな男だ。君の理想とは程遠い。」

「もう、嫌われてもいいや。むしろ嫌われた方が楽だ。最後に砕けてみるか。これでかなわなければ、もう儚く散るだけだ。ここいらでケジメをつけよう。」

こんなことをして何になるんだ。横でネットサーフィンをしている楓叶を横目に、僕はひとり、心が沈んでいた。
君といて幸せなはずなのに。楽しいはずなのに。君の話に出てくる彼氏の名前を聞く度に、距離が離れていくのを感じる。今はこんなにも近くにいるのに。手が届く距離にいるはずなのに。心の距離は離れていく一方だ。

そうこうしているうち、楓叶の帰る時間になった。今日は金曜日だ。毎週金曜日は、仕事終わりの彼氏が札幌へ来るそうだ。

僕はひとつ、決めていたことがあった。
この日、君と別れる前の最後のSNSへの呟き。以前、楓叶から言われたことがあった。

「でも、奪う勇気はないでしょ?」

奪う勇気があれば、君は僕の手をとってくれるの?そんなことは絶対にないと分かっていたから、僕はこれまで何もしなかった。
でも、この日は精神的につらく、酷く沈んでいたため、深く考えることをしなかった。
いや、出来なかった。

身支度を済ませた楓叶は、こちらへアイコンタクトを送る。準備が出来たことを訴え、ぼそっと呟いた。
「いこ?」
外はもう暗く、部屋の明かりもエコにより明るさを下げていたため、室内も薄暗かった。
君の顔も逆光でよく見えない。
僕が動こうとしないため、心配そうに覗き込んでくる。時間がないからと、腕を引っ張る楓叶。それでも僕は、動こうとしなかった。

このとき、ずっと考えていた。
今ここでアクションを起こさないと、この子のためにならない。僕は離れるべき存在だから。でも、少しだけ我儘を言っていいのなら、君を行かせたくない。引き止めたい。僕と一緒にいてほしいって、そう伝えたい。
途中で頭が真っ白になり、気づけば君を抱きしめていた。離れたくないと、離したくないと、その想いが強く、ぎゅっと抱きしめた。

君は困っていた。戸惑っていた。慌てているのが嫌でも伝わり、それでももう引き返せないと、僕は覚悟を決めた。

「いかないで」

僕はそう呟いた。でも、

「だめだよ。もういかなきゃ」

うん、知ってる。分かってるよ。
僕はすっと君から離れ、貴重品を手にとる。そのまま車に乗り、君を彼氏が待つ札幌駅まで送り届けた。最後に君は手を振ってくれた。ずっとそっぽをむいてた僕に。優しく。でも最後、君に「さよなら」と言われた気がした。

このときのことはよく覚えている。自分がしたことへの怒り。自分が選ばれないことの虚しさ。彼氏が待つ駅へ急いで楓叶を届けないとという焦り。そして何より、別れ際の楓叶の顔。
楓叶は泣いていた。僕が泣かせた。一番嫌いだったはずなのに。僕は好きな人を泣かせてしまった。僕の我儘のせいだ。僕が楓叶を好きにならなければよかった。そして何より、君と出会わなければよかった。
そんな感情がぐるぐると頭を巡り、文字通り、真っ白になった。
運転中にも関わらず涙は止まらなくて。このときからすでに「後悔」の二文字が僕を襲う。

「何してんだよ、俺は!!!」

そんな叫びは虚しくも、冬の空へ消えた。
家に帰るやいなや、あのときの楓叶の顔がずっと頭から離れない。
早く寝て忘れようと身体を寝かせても、全く眠れなかった。それどころか、ずっと『あのシーン』が繰り返される。
泣き疲れた僕は、いつの間にか眠りについていた。
眠りについてから約3時間後、はっと目が覚めた。
目が覚めた僕は、すぐさまSNSを確認した。そして現実に戻される。昨日起こったことが夢であってほしかった。自分でやったことなのに、後悔で押しつぶされそうだった。SNSを見ていると、一瞬くらっとして、昨日別れ際の楓叶の顔から出会った頃までを走馬灯のように映像が遡っていった。

「これが走馬灯か…今まで見たことなかったのに。俺死ぬのかな」

あと数日で札幌での仕事が始まるっていうのに。仕事が始まれば、これまでどおり自由に動けなくなる。君に何かあったとき。君に会いたいとき。でも、その心配をする必要はなかった。
SNSはブロックされ、他の繋がりがあったものは全て解除されていた。そして、楓叶のSNSから、こう連絡があった。

『彼氏です』
『関わらないでもらえますか?』

終わった。ただ、そう思った。
僕が一時の感情で犯した過ちは、僕から全てを奪っていった。
好きな人から拒絶されることほど、つらいものはない。こんなにもつらいのは初めてだ。元カノと別れた時もつらかったが、あのときより比べものにならないほど、心が堪えていた。
君と繋がれないのなら、会えないのなら、いっそのこと、死んでもいいと、そう思った。
スマホの充電器を首に巻いたり、タオルで口を覆ったり、自分の顔を殴ったり。何度も何度も自分を苦しめ、何度も何度も死のうとした。でも、死ねなかった。結局僕はびびりで、死ぬのが怖いんだ。情けない。

大好きな人を傷つけ、そのつらさから逃げようとして、死のうとして、でも結局『死』への恐怖から目を逸らしてしまう。罪を償おうにも君はもういない。手の届かないところへ行ってしまった。いや、自分から突き放した。

そこから数日は気が気じゃなかった。
楓叶の職場を知っているからと、以前迎えに行っていたように、数回に渡り足を運んだ。
自分のせいで精神や仕事に影響が出ていないか心配でしかなかった。
一目見たら帰ろう。ただそう思っていた。
いや、違うな。僕は期待していた。あるはずもない期待を。
またいつものように駐車場に顔を出してくれないかな。職場を覗いたとき気づいてくれないかな。また話せないかな。ちゃんと顔を合わせて謝りたいな。
そんな感情で頭がいっぱいだった。

でも、神は味方をしてくれなかった。
君を一目みることは出来たが、定時になっても駐車場に顔を出すことはなかった。
知っていた。
わかっていた。
あるはずもない期待をして何になる。
俺はばかだ。
うん、それも知ってた。

あの日から仕事が始まるまでの数日間は、もう死ぬことしか頭になかった。

楓叶と繋がりがなくなった僕は、秋美から楓叶についていろいろと聞いていた。楓叶の最近のこと。楓叶の調子。楓叶が病んでいないか。トラウマになっていないか。自分から手放したくせに、楓叶のことが気になって仕方なかった。

秋美曰く、楓叶は僕を嫌いになったわけではないとのことだった。

「ふうかがね言ってたよ。そらくんのこと嫌いなったわけじゃないよって」
「ただもう関わらない方がいいと思ってこういう態度をとったんだって」

そう秋美からSNSで伝えられた。
嫌いじゃないと分かっただけ嬉しかった。それでも、自分が犯した過ちは、僕の心を蝕む一方だ。

僕はどこまでも情けない男で、関係のない秋美にまで病みを晒した。

「あの子が言った「嫌いにはなってない」って言葉、別に好きではないってことでしょ?」

やめろ。

「どちらかと言えば嫌いではないってだけで」

秋美に当たってどうする。

「本当に僕のこと嫌いじゃないのかな」

「(楓叶が)優しいからそう言ってるだけかもしれない」

「あんなことをしたんだ。嫌われて当たり前のことを」

「いくらあの子でも、トラウマを与えたやつを嫌いにならないなんてないよ」

どうしても、楓叶に嫌われたと思い込みたかった。そうすれば、僕の気持ちは少しでも楽になれると思ったから。嫌われたなら仕方ないと、楓叶を諦めることが出来るんじゃないかって、そう思っていた。
でも、心の奥深くにある僕の根っこは、やっぱり嫌われたくなかった。大好きで、心から愛した人に嫌われるなんて、死ぬことよりも怖く、つらいことだから。

【2020年10月31日】

少し前の話をしよう。僕が札幌に越してきた日の話を。
僕は札幌に越すため、29日に荷物をたくさん詰んだ自家用車を走らせ、名古屋へ向かった。そこからフェリーに乗り、約二日かけてここまできた。

この日はお昼の11時に苫小牧の港に着き、そこから約三時間だっただろうか。車を走らせ、慣れない道をひたすら走り、札幌市の不動産屋へ向かった。
午後二時頃、不動産屋から新居の鍵や書類を受け取り、そのままアパートへ向かう。
実はまだ、部屋を直接見たことがなかった。
元々楓叶とは札幌行きが決まる前から会う約束をしていて、今年の9月、一度札幌を訪れていた。
その頃はまだ、札幌行きは決まってはいたが、早くても年明けあたりを予定していた。だから部屋の下見はまだ早いと、ただ札幌を満喫しただけだった。

そして今年は、全国的に新型コロナウイルスが流行り、旅行はもちろん、緊急事態宣言が出たりと、外出すら自粛要請が出ていた。
僕が住んでいた三重県では、感染者はさほど多くなく、あまり影響はなかったが、当時の職場からも外出は控えるよう言われていた。

そんな中、僕は楓叶に会いたい一心で、会社に黙って北海道へ飛んだ。

このときはまだ、こんなにも早く札幌に越すとは思っていなかった。
いろいろと急だったため、越してきた今日も楓叶や秋美は仕事が入っていて、会うまで数日かかることは覚悟していた。

家に着いた僕は、車から荷物を降ろし、一段落ついたところで休んでいた。
「今日はこんなもんか。残りはまた数日に分けておろそうかな」
軽自動車にパンパンに荷物を積んでいたため、ひとりで降ろすにはかなり重労働だった。
「とりあえず運転席と助手席は綺麗になったし、まあこれでいいやろ」
部屋は一階の角部屋。元々一階は好きじゃなかったが、北海道には僕の嫌いな『G』さんがいないことから、お金にも限界があったため、しぶしぶ受け入れた。

「世間はハロウィンか。今日くらい楓叶に会いたかったな」

そう思っていた直後だった。ピコンと携帯が音を立てた。なんだ?と通知を確認すると、楓叶からSNSに一件通知が入っていた。

「ドライブ」

僕は飛び跳ねるように起き上がり、器用に外出の支度と返信を同時におこなった。
「どこいけばいい?」
そこで指定された場所は、楓叶が住むマンションの近くにあるコンビニだった。

「まってる」

その一言だけで、本当に嬉しかった。
やった。今日会える。内心わくわくしながら、ひと月ぶりの再会を果たすため、楓叶の元へ向かった。
電話を繋げながら運転をし、指定された場所に到着すると、コンビニの正面に構えたマンションから楓叶は出てきた。
こちらに気づき、てててと小走りに走ってくるところがまた可愛くて、久しくみたその姿にテンションが上がっていた。

「やほ」
「やほー」

ドアが開くやいなや、軽い挨拶を交わす。
こんな緩い挨拶だからこそ、とても落ちつくんだ。楓叶といるときは変に気を遣わなくてもいい。この日も何気ない会話をしたり、一緒にふざけたりと、札幌市内でふらふらと車を走らせていた。
急勾配の住宅街をみつけては、「あれ登ろ!」と楽しそうにはしゃぐ君。その坂を登りきった先で振り返ると、札幌の街が綺麗な夜景として顔を出した。
「うわー、めっちゃきれい!!」
文字通り目を輝かせながら楓叶は言う。そして、はっと何かを思いついたように、運転する僕の肩を強く叩き、こう言った。
「ねぇ、近くに展望台とかないかな?」
今みた景色は住宅街からだったため、家の合間からしかみえなかった。
「探してみよか」
僕らは休憩がてら近くのコンビニに寄り、肌寒い夜風に当たった身体を温めるべく、ホットドリンクを飲みながら展望台を探した。

しかし、いくつか検索にヒットはしたが、営業時間外のところばかりでどこも見当たらない。
「高度が高めの公園とかないかなー」
次は検索ワードを『公園』に変更し、探してみる。しばらく探していると、ひとつ目に止まった場所があった。

『幌見峠ラベンダー園』

ここいいんじゃない?と僕は楓叶に画面を見せると、どれ?と顔を覗かせてじっくりと見ていた。
近い…何ドキドキしてんだ俺は…
僕は楓叶といると、動きがぎこちなくなり、自分でも過剰に楓叶を意識していることが分かるほどだった。
「いいじゃんここ!はやくここいこ!」
写真をみてとても気に入ったらしく、またテンションが上がっていた。
楽しそうだな。毎度楓叶の温度が変わる度に反応してしまう自分をみていると、本当に好きなんだと実感する。
急いで車を走らせて目的地に向かった。
およそ23時頃だっただろうか。入口らしき山道に入り、どんどんと坂を登る。街頭はほとんどなく、車のヘッドライトだけが頼りだった。
「え、ねぇ、待って…怖いんだけど」
助手席に座る楓叶が、足を抱えて身体を丸め、僕の袖を握りしめている。楓叶の表情はほぼ見えなかったが、怖がっていることは分かった。

どんどん道は険しくなり、いよいよ怪しくなってきた。山の野生動物や非科学的なものまで出てきそうな雰囲気だった。
「これ登るのはやばいな。本当に道合っとるんかな」
ナビを頼りに車を進めていたが、ここまでくるとナビすら疑いたくなる。
この暗い道のりをどれだけ進んだだろうか。そろそろ耐えられなくなってきたのか、楓叶の袖を握る強さが増し、小刻みに震えているようだった。
すると、ようやく駐車場の入口らしき場所が見えてきた。
「あ、これか!よかったー…」
思わず安堵の声が漏れた。駐車場までの坂を登り駐車券を受けとると、そこには札幌市内の夜景が辺り一面に広がっていた。
既に数台の車が止まっており、僕らは少し離れたところへ車を停めた。
辺りは暗く、月明かりが僕らを照らす。外は肌寒く風も強かったが、この景色を前にした僕らは、二人して外に飛び出した。
「うわぁ…すごい…」
「本当に感動したときって、語彙力失うよな」
しばらくの間、ふたりで夜景を眺めては、スマホのカメラでそれを収めた。

何枚か写真を撮ったところであまりの寒さに我に返り、さむ…と言いながら車に戻った。
暖房をつけ、好きな音楽を流し、ただ街を眺めた。
ふと横をみると、携帯を触っていた楓叶がかくかくと首を動かし、とても眠そうにしていた。またその姿がとても愛らしかった。
車内は窮屈なため、ずっと自分に合った体制を探して横でもぞもぞとしている。
「落ち着きないなぁ(笑)」
「ん…ねむい」
本当に眠そうだ。でも、その気持ちも分かる。もう時刻は頭をまわり、楓叶は仕事終わりで、綺麗な景色を暖かい車内で眺める。
これだけ条件が揃っていれば、眠くなるのも当たり前だ。
「そろそろ帰る?」
僕はそんな楓叶を見かねて問いかけた。
「大丈夫」
楓叶はそう言うと、むくっと起き上がる。
ずっとリピートでかかっていた曲はバラードだから眠くなるのだと、彼女はハイテンションの曲を選曲し、意地でも起きていようとしていた。
僕としてはまだ一緒にいられるから嬉しかったが、翌日も仕事がある楓叶が心配でならなかった。
「無理はすんなよ」
「うん、大丈夫だよ」
曲を変えてしばらくは目が覚めたと言って再度騒いでいたが、今度はそれに疲れたのか、また横で静かに眠っていた。
横で眠る君は美しく、触れれば壊れてしまいそうな、そんな儚さがあった。僕は彼女の寝顔を眺めることしか出来なかった。でも、この時間も幸せで、ずっと続けばいいなんて、そんなありがちな事を思ってしまうほどだった。
でも、さすがに時間が遅いからと、楓叶を家まで送り届けた。

もう楓叶との時間は終わりかと思っていたが、そんな期待をいい意味で裏切ってくれた。
「今日泊まってく?」
君からその言葉を聞けるなんて思っていなかった。あまりにも意外だったため、一瞬答えに戸惑ってしまう。
「え、いいの?」
なんとか言葉を絞り出して答えた。このときは内心ずっとバクバクしていた。引越し初日に会えただけでなく、部屋にも誘ってもらえるなんて。それも泊まりで。

楓叶の部屋に入ると、時計はもう朝の4時を知らせていた。さすがに同じ布団で寝るのはまずいからと、寝室から離れ、リビングに腰をかける。緊張しすぎていたせいか、中々会話が続かない。
そんな中、君は「こっちこないの?」と寝室のベッドから顔を覗かせてこちらの様子を伺う。
内心断らないとと思う反面、傍にいたいという欲望には勝てず、僕は楓叶の隣に座った。
「今日仕事なんやろ?少しでも寝といたら?」
ようやく言葉を発することが出来たため、この流れに乗って更に問いかける。
「僕は向こうにおるから」
よし、言えた。さすがに好きな子と同じ布団で寝るのはだめだ。そう自分に言い聞かせ、自分の欲望を押さえ込もうと必死だった。
でも、楓叶はそんなこともお構いなしで、「一緒に寝ないの?」と再び僕の顔を覗き込みながら言葉を繋いだ。
自分の中の天使と悪魔が葛藤しているのがよく分かる。しかし、こういうときの悪魔はあまりにも強く、天使はあっという間に負けてしまった。
結局横で一緒に寝ることになった。ここで手を出せば、僕は僕じゃなくなる。それだけは絶対にだめだ。そう言い聞かせ、これだけは譲れないと、最後までやりきった。自分の、『こう』と決めたら譲らない性格に感謝しかなかった。
そのまま一夜を過ごし、翌朝、楓叶を職場まで送り届けてから、僕はようやく自宅に帰った。

札幌に越していきなりの大イベントだった。この日のことは、今でもよく覚えている。
それからというもの、僕は頻繁に楓叶の送迎をするようになり、帰りはそのままドライブに行ったりと、毎日を楽しく過ごしていた。
ただ、一緒に過ごす時間は楽しくても、結局僕の『呟き』はなくならない。どれだけ幸せでも、幸せだからこそ感じる劣等感には、いつも悩まされていた。

楓叶が彼氏を愛しているのは知っている。彼氏と会えないから、僕で寂しさを埋めているのも知っている。それでも、横で楽しそうに笑う君の顔をみていると、どうして僕じゃだめなんだろう、という自分勝手で傲慢な考えに至ってしまう。
自分が最低な人間だってこともよく知っているのに。そんな人間がこの子に釣り合うわけがないと分かっているのに。どうしたって君の優しさに甘えてしまう。

僕も楓叶を利用しているんだ。

自分の寂しさを埋め、欲望を満たし、君との時間を求めた。楓叶が抱いている罪悪感は、僕にも同じように存在した。
この関係が彼氏にバレたとき、どうなるのか結末は分かっていたのに。自身の望みを叶えるため、楓叶の優しさに縋った。

キミと一緒にいたいと。ただそれだけを願って。

【この日常に別れを】

『ごめんね…』

十一月。
繁忙期の忙しい職場で、私は今日も残業をしていた。
早く帰りたい。なんで残らなきゃいけないの…正社員やめたい…
残らないといけないことにイライラしながら、先に帰っていくパートさんたちを見送る。

仕事の合間を見て携帯を開くと、『彼氏』と『蒼空(そら)』の名前が並んでいた。
19時頃、SNSで蒼空から送られてきた「着いたから待ってるねー」のメッセージ。
だよなー。待ってるよなー。だって定時19時だもん…今20時なんですけどっ!!
仕事を早く終わらせるべく、大雑把に片付けをし、無理やり20時半に終わらせ、急いで制服から私服に着替える。
「おつかれさまでーす。お先に失礼しまーす!」と流れるように挨拶をし、自宅に帰る時とは反対方向にある駐車場へ向かった。

赤い軽自動車をみつけては、イタズラ心に火がつき、静かに近づき思いっきりドアを開ける。運転席で携帯を片手に目を見開きながら驚いている蒼空。
してやったり!!
何も無かったかのように「遅れてごめんねー」と助手席に座る。そうすると、いつも優しい声で「大丈夫だよー。お疲れ様」と頭を撫でてくれる。それが大好きだった。

私は寂しさを埋めるために蒼空を利用しているというのに。利用されてることを知っているというのに。私に優しくしてくれるこの人は、底辺を生きてきた私からしたら神様的存在だった。
ありがとう。そう心で呟き、何気ない会話をしながら蒼空の家に向かう。
その間も彼氏との連絡は欠かせない。
世間一般から見れば、私は最低な人間。彼氏がいるのに他の男の人と一緒にいる。
0・100で私が悪い。わかってはいた。だけど、やめられなかった。
この優しさに甘えていた。

寂しいからと。

自分の汚さにたまに泣きたくなる時がある。私は失敗作なんだと。妹に全ていいところを取られて、私はいなくてもいい存在なんだと。
両親が大切に育ててくれたことは理解している。専門学校まで卒業させてもらった。だけど、妹に全て取られた私は、そんなに綺麗ではなかった。

だから、浮気だって簡単に出来てしまった。

寂しいから仕方ないと、そう自分に言い聞かせて。罪悪感は見て見ないフリをして。
この関係を続けていけば、どんな未来が待っているのかも知りながら。

身体を重ね。
寂しさを埋めて。

自己満足でしかないこの関係に、さよならをする日が来ることを、この時の私は考えてもいなかった。

【2020年12月3日】

今日も僕は、朝から仕事に出ていた。札幌に来てから新しい職場を探し、今月から研修が始まった。今日で三日目だ。この職場は大手のIT企業のため覚えることがとても多く、この日も職場へ向かう足はとても重かった。

職を探していた11月上旬。その頃はまだ楓叶との関係は良好だったため、楓叶の職場の近くで働きたいと思っていた。
自分や秋美が住む北区を中心に、中央区、そして楓叶が住む白石区内でも探していた。

仕事に対して譲れないことが多く、なかなか自分にあったものが見つからなかった。給料よりも、仕事内容、職場環境を重視しているため、これまでも職探しには苦戦していた。
そんな中見つけたのが、以前名古屋に住んでいた頃にしていた仕事内容に近いものだった。最初は保留に入れて他にも探してみようと思っていたのだが、職場の住所を確認したところ、楓叶の職場が目と鼻の先にあったため、そのまま即決した。

「仕事だるいな…」
いつものように朝6時に目を覚まし、7時半を回ったところで家を出る。お昼ご飯をコンビニで調達し、地下鉄を乗り継いで職場へ向かう。
今は座学期間のため、ずっと椅子に座って会社の概要や仕事内容を、スライドやモニターで説明を受けていた。
スライドは天井から下げられているため、少し見上げないと見えなかった。
首つらいな…
元々身体が凝りやすく、高校生の頃部活でやっていた新体操で腰を壊していたため、すでに身体は文字通りボロボロだった。
そんな中、心も壊れる寸前だった。
どうにか仕事内容を覚えることで、楓叶とのことは一時的にでも忘れようとしていても、ずっと頭から離れない。楓叶のことが気になりすぎて、仕事に身が入らなかった。
こうして一日が過ぎ、僕は自宅に帰った。

あの事件以来、僕は秋美の家に泊まっていた。病みに病んだ僕が何をしでかすか分からないからと、秋美の目が届くところにいれるように、うちに来いと言ってくれた。
でも、この日は楓叶が秋美の家に来るからと、数日ぶりに自宅に戻り、帰りにコンビニで買ったご飯を食べる。家にいても何もすることがなく、動画を見たりゲームをしたり、ネットサーフィンをしたりと、ただダラダラと過ごしていた。
12月にはいったことで、札幌市は寒さを増し、室内も冷えてきたことから、ずっと布団の中に入っていた。
はぁ…
これで何度目のため息だろう。ため息は幸せを逃がすと言うが、これが本当なら、僕にはもう幸せは残っていないだろう。今回だけで何回溢れたか分からない。
「会いたいな」
思わず声にまで出していた。会いたい欲が強く、一度でいいから会ってちゃんと謝りたいと、ずっと思っていた。

布団に入ってからどれだけ時間が過ぎただろうか。動画をみていると、秋美から着信が入った。
何かあったのかな。もしかして…
一気に不安が込み上げる。このとき、秋美にひとつお願いをしていたことがあった。
楓叶は、彼氏と約束をしたからと、僕から距離をとった。自分でも関わらない方がいいと思ったことは本当だろうが、それは楓叶自身が本来望んだことじゃないと信じたかった。
だから、楓叶と会ったとき、楓叶が本当に心から思っていることは何なのか。それを秋美に聞いてもらうようお願いしていた。
この着信は、その答えが分かったからかけてきているのではと、今更だが聞くのが怖くなった。
でも、待たせるわけにはいかないと、僕は電話に出る。
「もしもし。どうした?」
恐る恐るそう口を開いた。
「あ、もしもし?今大丈夫?」
うん、と言葉を繋げ、秋美の言葉を待った。
すると秋美の後ろから、とても聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「蒼空くん?やっほー」
え…。僕は口を開けたまま固まった。楓叶の声だ。頭の整理が追いつかない。何か喋らないと。このとき自分が何を話したのか、今となってはあまり覚えていない。でも、直接ではなくてもちゃんと謝れる、そう思ったことは覚えている。
ただ、いざ謝るとなると、楓叶の顔が見えない電話ではとても難易度が高かった。
無言の時間が、更に難易度を上げる。
「何も話すことない?」
そう楓叶は言った。待って。そう心で叫び、中々声に出せない自分の情けなさに唇を噛んだ。
今ここで言わないと。楓叶はずっと待ってくれている。だから今。今言わないと。

「ごめんな…」

ただひと言。僕はそう告げた。絞りに絞りだしたそのひと言は、さまざまな想いが込められていた。楓叶を傷つけてしまったこと。楓叶への感謝。あの日の後悔。君にだけ捧げる唯一の愛。寂しく悲しい感情の中、震える声で、ちゃんと楓叶に届くように力強く。でもどこか消えそうで。うまく言葉になっていたのかも分からない。

楓叶は許してくれるどころか、自分が悪いのだと、そう言った。楓叶が悪いことなんて何もないのに。本当に優しさ子だ。その優しさが大好きだった。
その優しさは、僕に向けられていいものじゃない。こうしてちゃんと謝れたんだ。伝えたいことは言えた。この日、数時間にわたり電話を繋げていたが、もう何を話したのかあまり覚えていない。

でも、その電話でいろいろと分かった。
これからのこと。僕の気持ち。楓叶の気持ち。このときすでに察していた。僕じゃ楓叶の隣には立てないと。一番望んでいるはずの人間が、隣にいることに不安を覚えていたこと。
僕はこれまで、大切な人を傷つけて傷つけて、自分の存在そのものが間違いなのだと、ずっと思っていた。
だからこそ、例え楓叶と結ばれたとしても、また同じように傷つけてしまうのが怖かった。
そう思っていた中起きたことだったため、丁度よかったのかもしれない。僕らが結ばれることはないのだとしても、友だちのときですら、僕は楓叶を傷つけてしまうということが分かったから。もうこれ以上、この子を傷つける訳にはいかない。
ならどうしたらいいのか。その答えは考えずともすぐに出た。

僕が楓叶を忘れればいい。

最後に一度だけ、『あの声劇』を一緒にやりたかった。僕が元カノと別れ、音楽アプリの引退を決めたとき、心友コラボとして最後に決めた声劇を。
結局、その願いは叶わなかった。
掛け合い用のため、自分のパートは録音しても、楓叶はそのURLを開いてはくれたものの、やっぱりやってはくれなかった。
直接言われたわけではないが、そう悟った僕は、すぐにサウンドを消した。

かれこれ四時間半にも及ぶ電話を終え、精神的な疲れが溜まり、そのまま眠りについた。
その電話の後、予想もしていなかったことが起きた。
繋がるところがひとつはあってもいいと思ったとのことで、楓叶がSNSをフォローしてくれた。そこのダイレクトメールで、以前のようにとはいかないか、徐々に会話が増えていった。
秋美の家に泊まっている間、楓叶のことを考える機会は減ってはいたが、こうしてまた糸が繋がったことで、また楓叶のことを過剰に考えてしまう時間が出来た。
今何をしているのかな。あ、これは楓叶がいたら絶対いじられてたやつだ。このゲーム楓叶と一緒にやりたいな。やっとクリアした。楓叶に言って自慢してやろう。いい声劇みつけた。楓叶と一緒に掛け合いしたいな。
ずっとずっと、楓叶のことばかりで。
横にいる秋美に申し訳なく思ってしまうほどで。

前と違うところは、以前ほど楓叶の恋人になりたいとこだわっていないことだった。
ただ一緒にいれればいい。ただ繋がっていたい。
それは、楓叶がずっと望んでいたことだ。僕らは心友だ。つまり、どちらも恋愛感情を持つことは許されない。あくまで友だちとして、仲良くしていきたいと。
僕も楓叶も、こういう結果を望んでいたわけではない。それでも、今後楓叶が結婚して幸せな家庭を築いていくのであれば、僕は邪魔者だったから。
たとえ前のように一緒にいられる時間が少なくなったのだとしても、こうして少しでも繋がれただけでよかったんだ。

僕は疫病神なのだから。

人と深く関わることは許されない。僕はずっとひとりでいなくちゃいけない。それは昔から分かっていた。君と出会ったことでそれを欲望が上回り、今まで薄くなっていた。
それが再び顔を出したことで、やっと思い出せた。

この日僕は、もう二度と大切な人を傷つけないと、そう改めて誓った。

【2020年12月22日】

今日も朝から仕事だ。早番のため、いつものように7時半には家を出る。18日に研修を終え現場デビューをしていた僕は、慣れない環境に悪戦苦闘していた。
この日も、そんないつもの毎日が繰り返されるのだと、そう思っていた。

いつものように楓叶とダイレクトメールで話をしていた。僕が楓叶と離れてから新しく作った音楽アプリ用のSNSアカウントをフォローされ、鍵がかかっていたため、外してほしいとのことだった。
それでも僕は、これ以上二人の関係を壊したくないからと、それを否定した。
でも、話していると楓叶に何かあったかのように思え、僕はフォローを許可した。
本当に僕は楓叶に甘いみたいだ。自分が決めたことでも、楓叶が困っていたら助けたいと思うし、必要なら何だってしてあげたいとも思ってしまう。
僕が楓叶から完全に離れることは、きっと無理なんだと悟った。

朝から病んでいたのだと言う楓叶は、こうSNSに残した。

「どうしたらいい?」
「(関係を)断ちたくないけど」
「どんどん嫌いになってく。誰も好いてくれない。ほんとの自分」
「こんなこと蒼空くんに言っても意味ないね」
「ごめん」

仕事を一段落つけ、指定された時間の休憩中に携帯を開く。すると僕は、慌ててフォローに入った。

「僕は好きだよ」
「どんな楓叶でも」
「僕も毎回本心とは違うことを言って空回りしてる自分が嫌いだよ(笑)」

楓叶は僕によく似ていて、自分を評価せず、他人を頼ろうとはしない。
だから、代わりに僕がちゃんと評価をしてあげないと。綺麗事じゃない。僕はお世辞が言えないから。本当に思っていることを、ありのまま伝えた。

会話を続けていると、やっと落ち着いたのか、楓叶は本音を語ってくれた。誰にも話したことのない、心の底にある本音を。

「たまに」
「蒼空くんとやりたくなる。体が求めてて、連絡しようかなって思ってしまう。けど、もう裏切らないで。って(彼氏に)言われたし、もう二度としないって思ってる。だから、すごい苦しかったりする」
「またなんて思ってる自分がくそほど嫌い」
「汚いし」
「また迷惑かけてしまうかもだし」
「何度も同じこと繰り返しそうで」
「必死にストッパーかける」

言葉がまとまらないと、楓叶はそこで止めた。僕は正直、嬉しかった。楓叶の本音が聞けたこと。僕と同じことを思ってくれていたこと。楓叶が僕を求めてくれていたこと。
楓叶は苦しんでいるのに、悩んでいるのに、僕はどうかしている。
本音を打ち明けたことで、楓叶の心のもやもやが晴れたらしく、SNS内だけではあるが、以前と同様に接してくれるようになった。
それが何よりも嬉しくて、君が楽しそうに話していることが文字からも伝わってくる。僕が一番好きな楓叶は、楽しそうに無邪気にはしゃぐところだ。くしゃっと笑う笑顔がたまらなく好きだ。
今となっては、もう直接見ることは出来ないが、少し進歩したことが救いだ。

僕はずっと、ふらふらしている。
関わらないように決めたかと思えば、楓叶のことが心配で自分から関わったり、自分じゃ適わないと悟ったときは楓叶から離れようとする。
いつも情緒不安定な僕は、自分でも自分のことがよく分からなかった。

「僕も会いたくて仕方ないとき、会いたいって連絡しようか迷うけど、そこで拒絶されたらきっと立ち直れないから何も言えずにいたかな」
「やっぱり会うのはダメなんだよね」

楓叶が本音を打ち明けてくれたことをきっかけに、僕も自身が思っていたことの一部を話した。

「ほんとはだめだよ」
「会うの」
「人に心のホントの本音を言ったのは初めて」

そう楓叶は続けた。
『ほんとは』ってどういう意味だ?楓叶も会いたいと思ってくれていて、僕もその旨を打ち明けた。もしかして。
僕はよく過度に期待しすぎるところがある。少しの可能性に意味はないのに、楓叶を求めるあまり、いつも期待をしてしまうんだ。
この日も、どうせある訳がない。ゼロに近い可能性を期待して何になる。期待して的が外れたとき、結局苦しむのは自分だぞ。変なことは考えるな。そう抑えるのに必死だった。
自分の我儘が強く出てしまうと、人を傷つけると分かっているから。必死に必死に抑えた。

仕事に戻っても、楓叶のことがいつも以上に気になり、全然手につかなかった。それでも、仕事に集中することで、楓叶のことを考えないようにしようとしていた。結局は無理だったけれど。

午後6時。仕事が終わった。楓叶からのSNSを返すと、今日のこの時間は暇だったのか、楓叶からすぐに返事が返ってきた。
「もう帰ってるの?」
そう楓叶が告げる。楓叶の職場は、現在新型コロナウイルスにより短縮営業を行っており、この日も19時が定時となっていた。
「まだ駅にいる」
「でも電話するなら帰ろうかなとは思ってるけど」
楓叶はあの事件以来、彼氏との電話の頻度が増えたらしい。今日も仕事が終わると、電話を繋げるのだと言っていた。
「まだいるん?」
楓叶のその言葉に、再びあの期待が頭に湧いてきた。だから変な期待はやめろ。何もなかったとき辛いだけだぞ。
僕は傲慢な期待を抑え、「いるよ」と答えた。
家に帰ってから電話をかけるのだと言う楓叶は、続けてこう言った。

「あってみる?」

スマホをいじっていた指がピタッと止まった。
え…これは、夢…?
自分の勘違いの可能性があるからと、何度もその並べられた文字を読み返す。しかし、何度読んでも同じだった。
会う?僕と楓叶が?もしかして僕を試してる?それとも楓叶の本心?本当に会えるの?
一瞬のうちにいろんな考えが頭をよぎり、困惑していることを悟られないよう、この機会を逃さぬよう、僕はひと言「いいよ」と告げた。
元々、楓叶の職場付近では会えないからと、こうなる前も僕の家や自宅付近が多かった。そのため、楓叶の自宅の最寄り駅で会うことになった。
僕の最寄り駅とは反対方向にあるその場所へ行くため、反対側のホームに周り、僕は一足先に駅まで向かった。
駅に着くと、改札を出てすぐのベンチに座り、仕事が終わるまでただじっと待っていた。ホームへの入口付近にあるそのベンチは、地下鉄が到着するたびに冷たい風が吹き上げ、とても寒かった。近くに自動販売機があったため、あたたかいミルクティーを購入し、残りの数分はその前で飲みながら待っていた。

しばらくすると、人混みの中から楓叶が顔を出した。およそひと月振りにみた楓叶は、僕の中の何かを刺激した。たった一ヶ月。されど一ヶ月。このひと月はいろいろなことがあり過ぎて、僕は楓叶の顔を見るなり泣きそうだった。
やっと会えた。またこの笑顔が見られた。それだけで幸せで、お互い久々の対面に緊張していたため、少しでも話したいと、僕は話題を必死に探した。
楽しくて、とても嬉しくて。さまざまな想いが溢れてきた。

こんなに小さかったっけ。この笑顔ほんとかわいいな。君と話すの楽しいな。久々なのに普通に話せてる自分にも驚いて。そして何より、やっぱり好きだなって想ってしまった。

それと同時に、かなわないなとも想った。

でも、あのとき帰らなくてよかった。おかげで君に会えたから。
会えたのはたった数分だった。それでも、会えただけで胸が踊り、自然と頬は緩み、君が放つ言葉ひとつひとつを大切に聞いていた。またこうして会えるなんて、話せるなんて思わなかったから。生きててよかったと、こんなにも強く思えたのは初めてだ。迷惑なこの想いも、たまには役に立つんだな。

次はいつ会えるだろう。

そんな期待を胸に、僕は帰路についた。

【あの頃の記憶】

あれはいつだっただろうか。まだ理性を保っていたときだった。フードを深く被り、寝たフリをして蒼空の行動を見ていた。

私は元彼がDV彼氏だったため、寝たフリをし、相手のことを伺うのが癖になっていた。それは今も変わらない。
何をされるか分からない。寝ている間に殺されるかもしれない。

そんな世界を生きてきたから。

蒼空を疑っているわけではない。ただ、反射的に、男女関係なく、誰に対しても必ずやってしまうことだった。
だから、いつものように薄目を開け、蒼空を見ていた。
会ってまだ日が浅かったけど、そのときの蒼空が落ち着きがないことはすぐに分かった。
顔が近い。キスかな…。抑えてるって言ってたもんな。そう思いながら寝たフリを続けた。

その後のことはよく覚えていない。

今思えば、私にとっては思い出すこともできないいつも通りの時間。だけど、蒼空にとってはドキドキの時間だったのだろう。

「あのときのこと覚えてる?起きてたんだよー(笑)」
「え…あんときか!覚えとるよ。起きとったんか」
「うん(笑)」

笑いながらそのときの話をした。

……………笑えていただろうか。ちゃんと。

私はずるい。私からはしない。待っているだけ。女ということを上手く使って、バレたときに言い逃れが出来るよう、最初に手を出してきたのは蒼空という事実を作ろうとしていたのかもしれない。

酷いな。

私はその日、さらに私を嫌いになった。
元から自分のことなんて大嫌いだったのに。
過去から逃げ出せず、全てを元彼のせいにし、悲劇のヒロインを演じ、挙句の果てには浮気をした。

そして今、それを問い詰められているこの時間が…はやく…早く終わればいいと思っている…。

「なんで俺…こんな女のこと好きなんだろ…」

泣いている彼。
かける言葉なんか見つからない。
大事にすると決めていた人が、目の前で泣いている。苦しんでいる。弱かった私の心のせいで。

私はそのとき、彼に本気で愛されていたんだと知った。

私が一番求めていたものだった。
普通に恋愛して、普通に愛されたい。
気づかなかった。自分のことでいっぱいいっぱいだった。遅かった。

私はちゃんと………アイサレテイタ。

【2020年12月28日】

今日も仕事だ。ただ、この日は13時から22時までの遅番だった。
今朝はいつもより余裕があるからと、朝はだらだらと過ごしていた。いつも通り秋美の家でニュースを見ていると、携帯がSNSの通知を知らせた。

「今年会うなら今日が最後だよ」

楓叶からだった。
このときにはすでに、ダイレクトメールからかわり、以前と同じSNSを使って会話をしていた。彼氏と会うときはトーク履歴を非表示にするらしい。

僕はその言葉の意味を考えていた。でも、どう頑張っても、僕の都合のいいようにしか解釈出来なかった。
楓叶も会いたいと思ってくれているのだと。
それは酷く傲慢で、毎度毎度呆れるほどだった。そんな訳がないだろと、僕は真相を探るように慎重に答えを探した。
すると僕は、あることに気がついた。

「今日遅番なんよ…」

そうだ。今日は遅番だ。せっかくのチャンスを無駄にした。仕事だから仕方ないのだとしても、今年最後の会える機会を逃した。
あの日以来、僕らは会っていなかった。あのときは数分しか話せなかったから、今度はゆっくり話したいねとSNS上で話していた。きっと次会うのは年が明けてからだろうと、お互いに思っていた。
けれど、楓叶からの返答は予想だにしなかった。

「そのあとくる?」

え、終わるの22時だけど。いいのか?確かに楓叶の家までなら、うちの職場から近いけど。でも、楓叶が言ってくれているんだ。せっかく繋がった糸を、手離したくない。あのときのように。

「行ってもいいなら」
「おけであります」
「じゃあ行こうかな」

会話上では平然を装いながらも、内心会える喜びでいっぱいだった。今年また会えるなんて、ましてや、もう一度会えるなんて、本当に思っていなかったから。
そのときの心情も、いつものようにSNSに綴った。

「また今日会うことになるとは思わなかった。まさか向こうから言ってくれるなんて。今年はもう会えないと思っていたから。会えるのは嬉しいけど、不安もある。また僕のせいで泣かせるんじゃないかって。ずっとあのときの君の顔が、頭から離れないんだ。あの日の別れ際、「さよなら」と言われた気がした。」

「自分だけが苦しめばいいなんて思っておきながら、この苦しみに気づいてほしいとも思ってる。ずっと矛盾ばかりだ。それでも、一番はやっぱり君を求めてるから。君へのこの想いは、どうしたって忘れられない。好きだし会いたいし、ずっと一緒にいたい。君を独り占めしたいよ。でも、僕にはそれができない」

何が悲しくてこんなことをしなくちゃいけないんだ。自分の気持ちを文字に起こしたところで、何が解消されるわけでも、問題が解決するわけでもない。自己すら満たされないこの行為は、一体なんの意味がある。結局楓叶と一緒にいたって、傷つけて傷つけて、それで終わるんだ。
分かっていても、楓叶に会いたいという欲は、そんな考えも軽く上回った。
今年最後という言葉に反応したのだろう。

仕事を定時で終わらせ、さっさと帰り支度をして職場を後にした。いつもと反対のホームから地下鉄に乗り、楓叶の最寄り駅まで向かう。今も内心ぐちゃぐちゃのままだ。会いたいのに、会いたくない。関わりたいのに、関わりたくない。相変わらず何も変わっていない。
楓叶が大切だから、傷つけるのが怖いんだ。
僕が尊敬する某アニメの女教師が言っていた。

「誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ」

その言葉が、酷く胸に刺さり、ずっともやもやが解けない。自分には出来ないことだから。自分が傷つけば、苦しめば問題は解決する。そう思い込み、自分という存在を認めていないから。自分のことは自身が一番理解しているつもりだ。

僕は僕が嫌いだ。

内心ぐちゃぐちゃのまま、楓叶の家に着く。インターホンを押すと、オートロックの鍵が解除され中に進む。四階まで階段をあがると、鍵を開けてあるからと言われていたため、少し重たいドアを開けた。
この感覚、懐かしいな。ずっとここには来てなかったから。
玄関で靴を脱ぎ、リビングへの扉を開ける。すると、少し奥の方で、壁に持たれながらテレビを見ている楓叶の姿があった。
まだ会うのが二回目だからと、お互いに距離を感じ、それぞれ相手の出方を伺っていた。
僕は荷物を降ろし上着を脱ぐと、楓叶の近くのクッションへ腰を下ろした。相変わらずの変わらぬ景色。さっきまで荒れていた僕の心は、この見慣れた部屋と、楓叶に会ったことで、だいぶ落ち着いていた。

二人してこの気まずい状況を誤魔化すべくテレビをみる。
この部屋はいつも薄暗い。暗い方が落ち着くからと、ほとんど電気をつけないらしい。今日もついていたのはキッチンの明かりだけだった。正面のテレビが僕らを照らす。テレビと楓叶の間に腰をかけた僕には、楓叶の表情が見えなかった。
気になる…顔が見えないから何を思っているか想像も出来ない。
僕はずっとそわそわしていた。それは楓叶も同じだったみたいで、楓叶がテレビに相槌を打つたびにそちらへ顔を向けると、少し目が泳いでいるようにみえた。楓叶もチラチラとこちらを伺っているようだ。
お互い少しずつ距離は縮めるも、なかなか決心がつかず、しばらくの間大きな動きはしなかった。
二人して動かないため、互いにからかいあっていた。

「別に楓叶ストッパー外してもいいんやよ?」
「蒼空くんが外してもいいんだよー?」

楓叶は言いながら覗き込んでくる。僕はしめしめと楓叶をガン見しながら口を開けた。

「僕はすぐにでも外せるよ?もうストッパーの鍵に手がかかっとるし」

言いながらジェスチャーでも鍵を開ける真似をする。

「後はこれを捻るだけやから」

自分はもう準備が出来ているのだと、楓叶にアピールをした。
それに対抗しようとしたのか、それが嘘だと思ったのか、楓叶は仕掛けるように問いかける。

「べ、別にストッパー外してもいいよ?」

その言葉を待っていたと言わんばかりに、僕は楓叶を抱き寄せた。久しく感じる楓叶の体温は、あのときのまま温かくて、ふわっと香るシャンプーの香りに、包んだ楓叶のサイズ感に懐かしさを隠せず、さらに強く抱きしめた。
離したくない。もう、このままずっと一緒にいたい。いっそのこと時が止まればいいのに。
そんな恋愛小説の主人公のようなことを思いながら、少しの間身体をくっつけていた。
楓叶もこちらへ身体を預け、受け身の姿勢にはいった。それがとても嬉しくて、僕はまた、楓叶の優しさに甘えた。
自分の欲は抑え、この日持ってくるように言われていたローターを鞄から取りだした。
数十分におよびそれを使用し、楓叶は前と同様に甘い声を漏らした。その声を聞く度、二つの真逆の感情が僕を襲う。
この手を止めるべきか、このまま進めるべきか。
でも、今はこの時間を無駄にはしたくないと、僕はそれを続けた。

ずっとそれを使い続けていたため、途中で充電が切れてしまった。お互いに久々だったため、体力が追いついていなかった。いれると彼氏にバレる可能性があるからと、そこで行為は終了した。翌日は仕事があるが、楓叶の家からだといつもの通勤時間の半分以下で行けるため、7時頃に目覚ましをかけた。
同じベッドでひと月振りに楓叶と並んで眠る。それはとても幸せで、うまく寝付けるか心配もあった。しかし、楓叶と一緒にいることで生じる安心感のおかけで、すぐに眠ることが出来た。

翌日。目覚ましの音とともに身体を起こし、着替えを済ませる。楓叶はいつも起きる時間がもう少し遅いため寝ていたのだが、僕が身支度を完了する頃に目を覚ました。
「もう行くの?」
目を擦りながら問いかける楓叶。「まだ行かないよ」と答えると、楓叶は自身の目覚ましが鳴るまでは寝るからとそのまま布団で目を瞑った。
僕はその場に腰を降ろし、ネットサーフィンをする。しばらくすると、楓叶が「こっち来ないの?」と顔を覗き込んだ。次またいつ会えるか分からないからと、最後を覚悟して後悔のないよう楓叶の元へ向かった。再び同じ布団に入ると、楓叶のスマホが稼働を知らせるまで身体を休めた。

数分後、アラームが朝を知らせる。楓叶はむくっと起き上がると、洗濯機を回す。朝のルーティーンを済ますと、「シャワー浴びてくるね」とお風呂場へ入っていった。
10分程待っていると、楓叶はいつものようにバスタオルを肩からかけ、こちらへてててと小走りで歩いてきた。
明るいところで楓叶の肌を見るのも久しくて、相変わらずの綺麗ですらっと伸びる脚には毎度のことながら魅力を感じていた。
肌もすべすべしていて、目が釘付けになっていた。
寝室まで駆け抜けていった楓叶は、用意してあった下着を身につけ、着替えを済ませる。
着替え終わった楓叶は髪を乾かすべく、こちらへ歩いてきた。
いつものように何でもない話をしながら、懐かしい朝の時間を過ごす。
でも、そんな朝も長くは続かなかった。
僕の出勤時間が近くなってきた。あと10分で行かなくちゃいけない。

いやだな。いきたくない。

仕事に向かう足が重いのはいつものことだが、今日は何よりも楓叶から離れたくなかった。楓叶も仕事があるのだから、結局残ったところで離れなくてはいけないのだが、一晩一緒にいたことから余計に寂しかったのかもしれない。
次いつ会えるのだろう。また前と同じことを考えていた。
でも、今回はもう一つ、頭に浮かんでいた。

また会えるのかな。

そんな不安が、僕の足をさらに重くする。それでも仕事に行かなくてはいけないからと、上着をはおり、マフラーで首をあたため、リュックを背負った。
楓叶の見ていないところで目を瞑り、深呼吸をする。
こんなことをしても気持ちが落ちつくことはなかった。しかし、形だけでも落ちつかせないといけない。
こうして僕は、楓叶への想いを残したまま、職場へ向かった。

このまま楓叶に会うことはなく、いろいろあった厄年の2020年が幕を閉じた。

【2021年1月4日】

そして年が明けた。秋美も楓叶も、年末年始は仕事が休みのため、三賀日は実家へ帰っていた。そのため、その間は久しぶりに自宅で過ごし、何でもない年末を過ごした。
年始最初の三日間は仕事が入っていたため、正月らしい正月は過ごせず、元日から気分は下がりに下がっていた。

三賀日の出勤を終え、昨日の夜から秋美の家でまたお世話になっていた。そして今日は今年最初の休みだ。いつもの休日を過ごし、今日から仕事が始まった秋美の帰りを待つ。
秋美が帰宅し、二人でご飯を食べテレビを見ていると、楓叶からSNSの返事が返ってきた。あの日以降も楓叶とのSNSは続いている。
メッセージを見るためスマホを開く。すると、そこには目を疑う言葉が並んでいた。

「また今会いたくなってるし」

素直に嬉しかった。好きな人からそう言ってもらえることがどれだけ嬉しいか、分かる人は多いのではないだろうか。
僕はそのままの気持ちで返した。

「会いたいと思ってもらえることは嬉しいよ」

その後も僕らの会話は続く。

「ごめんね」

「謝ることないよ(笑)」

「なんか」
「ほんとごめん」

「それはこっちのセリフやよ」

「あえない?」

そう楓叶は言った。その言葉をずっと待っていた。
僕は卑怯なやつだ。自分からは会いたいと言わず、全部彼氏がいる楓叶に任せているのだから。
結局、僕は惨めな男なんだ。

「僕は会いたいよ」

会いたい気持ちは強かったが、普段21時半には眠る秋美と一緒にいることや、年末に秋美へお願いしていたことがあったため、会いにいくことに抵抗があった。
今時計の針は21時45分を知らせていた。秋美は睡魔に襲われ、見ていたテレビの方へ顔を向けながら机に突っ伏して寝ている。
そのこともあり、僕が楓叶の元へ行くことを躊躇していると、楓叶は拗ねたように「もーそらくんしらなーい」と告げる。
本当にずるい子だな。僕は楓叶が拗ねるところが可愛くて好きだった。そんな拗ねるところを見ると、何でもやってあげたくなってしまうのだ。
「ちょっと待って」とメッセージを残すと、パッと思い浮かんだ嘘を、つい先程目を覚ました秋美へ伝えた。
明日仕事で着る服がないから今日は自宅へ帰る。
そう告げた僕はそそくさと支度を済まし、秋美の家を去った。

数分間電車に揺られ、まだ慣れない雪道を進み楓叶の家に着いた。
まだ彼氏と電話を繋げているからと、マンション前に立ち、SNSで到着を知らせた。すると、お手洗いに行くからと、彼氏との電話をミュートにした楓叶が上から降りてきた。
いそげいそげと、二人して階段を駆け上がる。部屋に入ると、少し待っててねと告げ、楓叶は電話を続けた。
初めて聞いた、彼氏と会話をしているときの声。
僕の知らない姿だ。僕と一緒にいた頃も、甘えた声で傍にいてくれたが、それとはまた違っていた。上手くは言えないが、劣等感が酷かった。
当たり前のことなんだ。僕と彼氏では大きく違う。分かっていたこと。
それでも、楓叶と一緒にいたいことには変わらない。例えどれだけ惨めでも、何よりも僕は君といることを望んでいる。
結局、好きという感情には何も勝てないんだと改めて感じた。

それからどれくらい時間が経っただろう。
まだ電話を繋げている楓叶は、今僕の前に座り僕の手を握っていた。元々は奥の寝室でベッドに座りながら電話をしていたが、リビングで携帯をいじっていた僕をみかねたのか、楓叶がてとてとと近寄ってきた。

早く終わらないかな。ただそれだけが頭を巡り、来ない方がよかったかな。次第にそう思うようになっていた。

そして、ようやく電話が終わり、「おまたせ」と君は言う。
時間も遅く、僕は明日も仕事があるため、すぐに二人でまたあのベッドに入った。結局この日は何もないまま、僕らは眠りについた。
翌朝も何事もなく、僕は職場へ向かった。

「来ない方がよかったのかな。求められていないことは分かってるいるし、自分には見せない顔を見るのは辛い以外の何物でもない。まあ僕が苦しむだけだから別にいいか。もう、諦めもついてる。こんな僕なんかが、幸せになんてなれるわけがなかったんだ。はやく、この気持ちとともに、ここから消えたいな。」

「分からない。一緒にいればもっと関わりたいと、傍にいたいと思うのに、こう離れてみると離れた方がいいのかなって思ってしまう。本来は後者で正解なのに、可能性を求めてまだ認められていない自分がいる。いい加減認めないと、後々さらに面倒になると分かっているのに。君を傷つけることはしたくない。」

それからというもの、たまに電話をするようになった。楓叶や秋美は木曜日が休みのため、僕も数少ない休みを木曜日に設定し、何度か休みが揃っていた。楓叶が秋美の家に遊びに来るという約束もしていたのだが、都合が悪くなり来ない日が続いた。
楓叶は水曜日の仕事が終わると、そのまま彼氏がいる室蘭へ向かうことが多い。しかし、彼氏は土日祝が休みのため、昼間はすることがないからと、秋美の携帯へ電話をかけてきていた。
三人で会話をしたり、たまに秋美が仕事中に二人でも話したり。
少しずつ元の関係に戻りつつあった。
また三人で旅行に行きたいな。カラオケも行きたいし、みんなで居酒屋行ってお酒も呑みたい。
そう思うことが増えてきて、そういう会話もするようになってきた。

それでも、僕の奥底に眠る感情は、いつまで経っても変わってくれず、自分の欲望ばかりが顔を出し、それを抑えては自身を傷つけた。
今年に入ってから、楓叶は彼氏と休みを合わせるべく、会社に無理を言って土曜日に二日間休日をとったらしい。
最初の土曜日は、二人で婚約指輪を買いにいったのだとか。秋美には見せたらしいが、僕には見せてはくれなかった。きっと、僕が病むからと、楓叶なりに気を使ってくれたのだろう。
そして、次の土曜日。この日は、金曜日から室蘭へ行き、彼氏の両親へ結婚の挨拶へ行くのだそうだ。

ここで、僕の試合は幕を閉じる。
全ては無駄に、この寒い札幌の冬の空に消えていく。

あれは、楓叶が彼氏の両親へ挨拶に行く前日のこと。

【2021年1月22日】

今日の金曜日。僕は昨日から三連休だったため、家でだらだらと過ごしていた。
この日も、僕と楓叶の会話は続いていた。
お互いにこれまでを遡り、その時々の感情を、本音を語った。

「蒼空も思わん?」
「こんなかわいい顔で女の子が見上げてくるんやで?」

「まあかわいいとは思うけど、楓叶がいいからなー」

話はいろいろと脱線し、この時はスマホの絵文字に対しての話をしていた。

「ゆ…揺るがない…(笑)」

「え?(笑)」

「そんなに私いくないよ?(笑)」

「僕は楓叶がいいんだよ(笑)」

「やさしいね」

「優しさ違うよ」

「?」

「ただ好きなだけだよ(笑)」

「私はそれで満たされてる」
「蒼空がそうやって正直に言ってくれると照れるけど嬉しくて」
「ごめんね…」

「楓叶が選んだ道だからいいんだよ(笑)」

「やだー」

「なんでさ」

「やだから」
「来世では少しでもいいから心が綺麗な人になりたいな」

「綺麗やよ」
「十分」

「汚いよ」

「そんなことないから」

「でも、魂が綺麗になるために」
「ずっと輪廻してるらしいから」
「今世より来世は少し綺麗になってるはず」
「私の魂はあと何回輪廻するんだろ…」

「何回も輪廻して魂がどんどん綺麗になっていくのだとしても、僕が好きになったのは今の楓叶だから(笑)」
「そこから変わるのは嫌だな」

僕は心の底から思っていることを告げた。確かに、その言い伝え通りなら、輪廻する度に綺麗になっていくのかもしれない。それでも、僕が好きになった人は、紛れもなく今の楓叶で。次もその次も好きになるだろうけど、やっぱり一番は今なんだって、そう思っている。
僕のありのままを伝えると、楓叶は少し間を空けて、再び会話を繋げた。

「蒼空ってさ」
「ほんとに紳士っていうか」
「少女漫画に出てきそうな感じだよね」

どこがだよ。こんなのが少女漫画に出てきたら、ストーリーが成り立たない。成り立たないどころか、人間関係が崩壊する。僕は自分のことが大嫌いで、自分を認めたくない。自分を認めることは、全てから逃げているようで、逃げたと思われることが嫌なんだ。
何ともちっぽけでしょうもない理由だろう。

「言うこととか」
「やることとか」
「キュンキュンする」

楓叶はそう言ってくれた。でも、僕は楓叶がそうやって素直に言ってくれるところが好きなんだ。ちゃんと言葉で伝えてくれる。自分の知らない自分を教えてくれる。
だから君は、僕にとってとてもかけがえのない存在で。
楓叶が本音を伝えてくれているからと、僕も思ったことそのままで返すと、

「蒼空には素直になれる」

こんな素敵な言葉を返してくれた。普段の日常生活の中で、こんなにも心が満たされることがあるだろうか。僕が今一番満たされる瞬間は、楓叶と関わりを持っているときだ。
もちろん、関わりを持つことで生まれる劣等感や罪悪感もあるが、何よりも僕の心がこの子がいいと叫んでいる。

今年に入り、実は楓叶にもう一度会っていた。
それは昨日の木曜日のこと。楓叶が秋美の家まで遊びに来てくれた。この日はみんな自由にゲームをしたりテレビを見たり映画を観たりと、普段の休日を過ごしていた。
でも、僕らの関係がこうなってしまったことで、楓叶には僕と秋美から距離が出来たと感じたらしく、一人で奥の寝室へ行ったり、こちらに来てもあまり会話に参加しなかったりと、いつもの元気な楓叶はみられなかった。
そんな中、やっぱり寂しさを覚えたのか、僕の手や足に軽く触れては離れてを繰り返していた。
楓叶が帰るやいなや、もっと触れたかった。触れて欲しかった。そんな会話もした。次会うときは二人で。また今度。そう言い残し、この日の会話は終わっていた。

その翌日である今日。楓叶は仕事が終わると、そのまま室蘭へ行ってしまう。
今回は普段とは違う。遊びに行くわけではないのだから。
止めたい。でも、止められない。止める資格なんてない。
もうこれ以上、楓叶に迷惑はかけられない。
今日は18時からしか予約が入っていないからと、いつもより携帯を触れるのだという楓叶は、僕が休みなこともあり、長く話をしていた。
そんな長い会話の中、楓叶はたくさんの言葉を送ってくれた。

「蒼空のハグ」
「優しくて暖かい」
「そんで包まれてる感がつよい」

「蒼空は」
「いっぱいしてくれるでしょ?」
「離れたとこに座ってても」
「グッて腕引っ張ってくれたり」
「顔覗いてきてギュッてしてくれたり」
「すごい満たされる」
「蒼空はすごいと思う」

「蒼空にギューってされたかったな…」

「蒼空とSNSしてると」
「蒼空のこと思い出す」
「蒼空に会いたくなる」

「昨日もっと触れ合いたかった」

「手握ってたかった」

「蒼空」

「会いたいしか出てこない」

泣きたいよ。僕なんかがこんなにも満たされていいのだろうか。そして、昨日。楓叶が帰るとき、楓叶を追いかけていけばよかったと後悔した。
楓叶にうちに来るかと誘われたが、みんなして休みで一日家にいたため、楓叶が帰るタイミングで自分も外に出るのは不自然だからと、次の機会に持ち越そうと行かなかった。
でも、これが後々後悔として僕を襲うことになるなんて、昨日の僕は思ってもいなかった。

定時の19時よりも一時間も遅くなったことで、愚痴の電話がかかってきた。
電話をかける前に送られてきた「最悪」というSNSのメッセージ。何かあったのかなと電話に備えて待機していた。
電話に出ると、まだ職場にいるから話せないと、しばらく楓叶の職場での雰囲気や会話を耳で感じ、ネットサーフィンをしながら待っていた。
職場を後にした楓叶は、時間がないからと走って駅まで向かい、急いで家に帰った。家に帰ると室蘭へ行くための支度をしながら、職場での愚痴を語る。
今日は秋美がまだ仕事から帰っていなかったため、一人でその愚痴を聞いていた。
ずっとイライラしている様子だ。僕には話を聞くことしか出来ない。自分の無力さに、そして、結婚の挨拶に向かう楓叶にかける言葉がみつからず、僕の口は重かった。

しばらくすると、コンビニで買った手提げ袋を持った秋美が帰ってきた。
秋美が帰ると、楓叶は秋美にも愚痴を語り、その隙に僕はキッチンに立った。今日は僕が休みだからと、二時間ほど前にご飯を炊き、これからギョウザを焼くところだ。
僕が調理をしていると、彼氏の機嫌が悪いからと、楓叶は電話を切った。

「またね」

その言葉を最後に、携帯が通話終了の合図を知らせる。
友だちと電話をしていると彼氏に言っていたそうだが、僕と電話をしていたことがバレそうだと言う。
僕らとの電話を終えた楓叶は、そのまま彼氏へと電話を繋げた。
そして、僕らがご飯を食べ始めた頃、楓叶から最後のメッセージが送られてきた。

「やっぱりブロックするね」
「ごめん」
「バレそう」
「おこってる」
「ほんとにごめん」

そこで楓叶からの言葉は終わっていた。
すぐに既読をつけ、「わかった」と返事をするものの、その言葉に既読がつくことはなかった。
楓叶が読みたいと言っていた僕が書く小説を、今日書いたページ分を恒例のようにSNSのアルバム機能へ追加していた。
その追加した小説と、僕の最後の言葉を残し、僕らの関係は幕を閉じた。

あの日約束した『次』は、もう訪れることはない。
僕らの関係は、ここで終わりを迎える。
これでよかったんだ。これでやっと、楓叶が幸せになれる。やっと、この気持ちと別れを告げることが出来る。
今この場に秋美がいなかったら、僕は泣き崩れていただろう。
僕は、十分に悲しむことも出来ないのか。
きちんと別れを告げることも出来なかった。

ほんと、自分にお似合いの終わり方だ。

この日のことを、翌日の両親への挨拶当日、僕は秋美の家でひとり、ここへ言葉を残した。
今日を忘れないように。そして、楓叶への想いをこの場所に封じ込めるために。
僕はもうすぐ、筆をおろす。

そして、夢をみる。幸せだった頃の記憶の。
僕と君は笑っている。楽しそうに話して、じゃれ合って。
その頃は君と会う度心が満たされて、同時に、君と会う度、死にたくなった。
自分はいなくてもいい存在なのだと、ここにいる意味はないのだと、そう痛感したからだ。
結局、どう足掻いても、どれだけ努力をしても、何も状況は変わらない。
それどころか、僕がいることで周りの生活環境が狂っていく。
つくづく思う。自分はいらない。何をしても報われない。
誰とも関わらない方がいい。僕はひとりだ。

愛した人が幸せならそれでいい。

そう格好つけないとやっていけない。無理やりにでもこう思うしかないのだ。こうでもしないと、悲しさと寂しさで死んでしまいそうだから。
でも、それももう感じることはなくなるのだろう。

君を愛した僕は、君に満たされていた僕は、君を傷つけた僕は、ここで終わりを迎えるのだから。
たくさん傷つけてごめんね。僕の我儘のせいで、君の恋人にまで迷惑をかけた。本当にごめんね。約束も守れそうにないや。いっぱいいっぱい、ごめんね。

ありがとう。

今日は比較的あたたかい日だ。僕は今日という日を、きっと忘れないのだろう。はじめて自分を認めたかもしれない。
よく頑張った。ダメなところも多く、いろんな人に迷惑をかけてきたけど、それでもよく耐えた。

さて、もうお昼だ。ご飯食べなきゃ。
新しい世界は、どんな景色が見えるのだろう。
とても楽しみだ。
あれ、なんだか眠くなってきた。いろんなことがあり過ぎて、疲れたみたいだ。
今日はゆっくり休んで、昼寝をすることにしよう。
これからみる夢は、どんな世界が広がっているのかな。
楓叶は幸せになっているといいな。

それじゃあ、僕はそろそろ眠るとするよ。

おやすみ、いい夢を。

そして、さようなら。

キミ想う明日が消えるまで。

キミ想う明日が消えるまで。

主人公・蒼空は、叶うことのない恋をする。相手は彼氏持ちの女の子・楓叶。心友だ。この物語は、実話を元にしたお話。悲しい恋の結末を、見届けてほしい。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
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更新日
登録日 2021-01-25

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