inori

冷たい地下室の中でわたしは歌っている
終幕をどうか受け止めて 祈りを捧げ
瞼の裏に光あれ 敬虔であれ
花降る中を共に往こう
歌をうたって

いのちを燃やす祈りは
石の壁に響いていた

たとえここが地獄でも
あなたの声を聴いたら
こころは自由になれる

一粒の喜びを分け合おう
もし傷んでも気付けぬほどの慈愛で

暗闇を照らして
アヴェ・マリア

冷たい地下室の中でわたしは歌っている
「主よ、彼らを赦したまえ」

徒らにまだ血は流れるとも
石の上にも花は咲くだろう

鼻先にぶら下げられた自由に踊らされても
何度過ちを重ねようと
踏みにじることのできぬものを
ただひとつだけうつわの底に残して

この隘路を抜けて巡り逢えたら
やわらかな陽だまりの中で抱き合おう

終わることのない痛みの分だけ
悲しみを未来に持ち越さぬように

暗闇を照らして
アヴェ・マリア

何度も落ちてゆく
ねむりの中へ
震える指先
ひかりに触れる

聖者の泣き声が聴こえる
銀の針が肌に触れる

いのちの火が尽きても
その祈りは消えることはない

この隘路を抜けて巡り逢えたら
やわらかな陽だまりの中で抱き合おう

終わることのない痛みの分だけ
悲しみを未来に持ち越さぬように

暗闇を照らして
最期の祝福を
アヴェ・マリア

やさしい歌声が聴こえる
銀の針が肌に触れる

つながりを断ち切られても
最期にあなたの呼ぶ声が
聴こえる

inori

inori

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-25

Copyrighted
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