恋人

未だガス室から帰ってこない
きみのことを思い出して
今にも手が触れそうだ
向かいの椅子で微笑んだ
死んでいたってきみは恋人

ロッテルダムに暮らそうか
至福に満ちたあの街で
夢と現実の交差点でお茶でもしようよ

ゲイルズバーグに暮らそうか
奇跡に満ちたあの街では
誰もかれもが蘇るさ
望んでないかな?

生きていることは重要じゃないよ
思い出せるかな

向かいの椅子はあいたまま
でも確かにそこできみが笑う
こんなに心は穏やかで
ホワイトソースを煮詰めて
スプーンをふたつ、何の気なしに

誰もいない場所に行こうか
こころはからだを離れて
遺伝子の迷路へとかえるさ
ひとつになれるね

血も水もいのちもめぐるよ
そう仕組まれた

誰もいない場所に行こうよ
時計を止めて、目をつむって
幽霊の姿を求める
遺伝子の迷路へとかえろう
手をつないで、ふたりで

痛みのない世界で待っていてね
手紙を書いては供える
花束を添えて
いま心はぬくもりに満ちる
ぼくの恋人
笑って、ねえ

恋人

恋人

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-25

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