冬の海でシャチは鳴く
あざやかな指先の、呼吸をわすれた鳥、せかいのかたすみで眠る、ねこ。海で。シャチだけがやさしかった冬の、雪が降ったあと、こいびとが応答する、エマージェンシー。声がきこえて、海の底から、あのこのひみつを打ち明けるように、ひそやかに。かなしみを、ビターチョコレートにとかして、せんせいがくれた、琥珀のペンダントをにぎる。祈るみたいに。
喰う。バケモノは、きまぐれに、にんげんたちの血肉をもとめて、徘徊している。冬の、つめたさを呪うのは、いつも、きみの役目だった。ホットジンジャーティーを飲む。氷点下のなかで見上げる月は、なによりも白い。朝まで起きていようと、思う。目を閉じると、どこかしらないばしょに、放り出されたさびしさに、からだはしはいされてゆく。
あいしたのが、きみだけのこと。
バケモノにささげる。宇宙の奥を抉ったら溢れる、黒に、骨まで染まる頃。
冬の海でシャチは鳴く