冬の海でシャチは鳴く

あおい はる

 あざやかな指先の、呼吸をわすれた鳥、せかいのかたすみで眠る、ねこ。海で。シャチだけがやさしかった冬の、雪が降ったあと、こいびとが応答する、エマージェンシー。声がきこえて、海の底から、あのこのひみつを打ち明けるように、ひそやかに。かなしみを、ビターチョコレートにとかして、せんせいがくれた、琥珀のペンダントをにぎる。祈るみたいに。
 喰う。バケモノは、きまぐれに、にんげんたちの血肉をもとめて、徘徊している。冬の、つめたさを呪うのは、いつも、きみの役目だった。ホットジンジャーティーを飲む。氷点下のなかで見上げる月は、なによりも白い。朝まで起きていようと、思う。目を閉じると、どこかしらないばしょに、放り出されたさびしさに、からだはしはいされてゆく。
 あいしたのが、きみだけのこと。
 バケモノにささげる。宇宙の奥を抉ったら溢れる、黒に、骨まで染まる頃。

冬の海でシャチは鳴く

冬の海でシャチは鳴く

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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