閉ざす

 ろうやみたいだった、せかい。くに。まち。
 心臓から、きみに捧げたかったとき、でも、ほんとうはすこしずつ、指先から、と恭しく差し出せれば、よかったのに。いつも、どこかで、生きているものは腐ってゆく。その真実だけが、ぼくたちを一分、一秒ごとに変えるわけもなく、着実に進む劣化と、まじめに向き合う勇気はなかった。空白だけが、一時のやすらぎだと思った冬のこと。

閉ざす

閉ざす

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-17

CC BY-NC-ND
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