あえかに

あえかに

『あえかに』

口づけをした。
彼は私の下唇を柔く噛む。
「これが愛情なのかしら」
問いかける私に彼は冷たい眼差しを向けて言った。
「さぁ、僕は愛情と欲情の違いをまだ教わっていないから」
「つまらない答えね」
私は彼に体を預ける。
どうせ、私に愛情なんて与えてくれないくせに、そんな冷たい眼差しで、そんなに優しい触れ方をしないで。唇より先を求めないのはやめて、大切にされていると勘違いしてしまいそうだから。
私は想う。
この甘くとろけるような口づけに心はあるのだろうか。口づけの在り処はいったいどこなのだろうか。
好きよ、私が言っても彼は冷たいまま。
「言葉で伝えきれるなら、言い尽くせるならこんな苦労は無いよ」
彼は抱きしめるだけ、胸が暖かい。
私は本物なんていらない、ただ言葉で肺を満たせたらそれでよかった。

あえかに

あえかに

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-17

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