空の涙
過去の断片を
不器用に束ねて
それに自分の名を与えた
わたしは
(わたしの心臓は
絶えずなにかを
だれかを
わすれようとしている)
無傷だと
無罪だと
言い聞かせて
踏みとどまっていた
鏡にうつる自分をみて
視界が歪む
窒息しそうだ、と
わたしはこんなにも
ぼろぼろだったのか、と
自分の醜さに
蓋をしていたのか、と
わたしに助けを求めるあては
ちからは
考えは
現実には
なかった
想像の世界だけが
味方だった
居場所だった
詩篇の山を漁る
真実と
嘘にわけられるはず
わたしは
すべてを綯い交ぜにして
書いてきたから
生きてきたから
ああ、でも
できやしないよ
選別なんて
できやしないよ
わたしは救われていたんだ
それが嘘であろうが
わたしは救われていたんだ
行間にそれぞれの真実
沈黙にそれぞれの真実
空白にそれぞれの真実
自分を貫くことは
だれかを
無自覚に殺めることだ
世界に
無鉄砲に抗うことだ
いつかの自分を
無慈悲に葬ることだ
(行間は
過去と
空想の中にしかない)
空から
空に吊りさがる
大樹の
梢から
滴り落ちる
七色の雫で
わたしは
わたしが持ちうるすべての時間は
一瞬のうちに
潤う
えがいて、えがいて、まだえがく
不器用に、時に捨て鉢で、えがく
えがけ、えがけ
見せつけていけ
打ち壊していけ
……清々しいね
地中からでも
空を想える
すべての記憶と
ことばと
想像力を失ったとしても
この命が尽きたとしても
わたしがそのすべてを愛したという事実だけは
残るよ
空の涙