骨格模型のネクタイ

あおい はる

 れもんのにおいのする、いきものだった。
 れもんタルトをたべましたと、そのいきものはいった。わたしは、れもんタルトって、たべたことない、と思った。
 博物館の、世界の珍しい昆虫コーナーで出逢った。あなたはおいくつなのですか、と、そのいきものがきいてくるので、さいきんテレビでみた、ふるいドラマのせりふを思い出して、女性に年れいをきくのはしつれいではなくって、と答えた。そのいきものは、きょとんとしたあと、くすくすと笑った。いやな感じではなく、どこかうれしそうな感じだった。ネクタイのがらがやばい、と思った。あれは、きっと、骨だ。理科室にある、全身がいこつのやつだ。笑うと、ますます、れもんのにおいがした。ぼくは、さいきん、七才になりました。そのいきものはいった。ななさい。わたしは、こころのなかでいった。七才ってことは、わたしより、三つも年下である。うそだ、と、わたしは声にだしていった。ネクタイをしているのに。わたしより大きいのに。わたしのおとうさんよりも、大きいからだをしているのに。七才って。わたしが、そのいきものをじっとにらむと、ぼくらのなかでは七才はもうおとななんですよと、こんどはこまったように笑った。にんげんの七才と、そのいきものの七才は、どうやらちがうらしかった。犬や、ねこも、わたしたちとちがうのだから、それとおなじようなものかしら。わたしは目をそらして、スカシマダラというなまえのチョウをみた。もう、しんでいるやつ。はねがとうめいだった。きれいですねと、そのいきものがいった。わたしはだまってうなずいた。そういえば、おとうさんと、おかあさんと、よりちゃんは、どこに行ったのだろう。さっきまでよりちゃんは、世界の王さまというコーナーの、エジプトのえらいひとのミイラのまえから、しばらく動かなかった。ミイラのなにがたのしいの、と思った。よりちゃんは、すげー、としかいっていなかった。
「私も、このようなきれいなものに、なりたいものです」
 そのいきものは、スカシマダラをみながら、つぶやいた。
 博物館なのに、スーツを着て、やばいネクタイをして、ちょっと、こわいおしごとのひとっぽいけれど、なんだか、やさしそうな感じの声をしているから、そんなにこわくないひとかもしれない。
 わたしは、わたしも、といって、ねむっているスカシマダラにそっとふれるみたいに、ガラスケースをなでた。

骨格模型のネクタイ

骨格模型のネクタイ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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