わたしは閉じ込められていたのではないわ、みずからの意思でそこにいたのよ。本当よ…逃げていたのよ。ただ、必死だったの。追われている、と思って、いや、正確には思い込んでいたのかもしれない…ねえ、あなたわかる?目にみえないものに追われることのおぞましさが。そう、わたしの脳内では常に何かに追われている映像が流れていた…いや、正確には流していたのかもしれない…ほかでもない、わたし自身が。何の為に?わからない…追われていたのは本当にわたし?わからない…ねえ、あなたわかる?目にみえないものとして扱われることの辛さが、惨めさが、寂しさが。そう、わたしはずっとひとりぼっちだった…それなのに、だれかと交わることを絶えず避けていた…わたしは自分を戒める必要があった…罰を与える必要があった…ねえ、あなたわかる?狭苦しい場所に閉じ込められることが、苦ではない人間もいるということが。追っている立場と追われている立場が、いつのまにか逆転していた時の怕さが。精神倒錯が映しだす夢と現実の境が失われた世界、嗚呼、それをあなたにもみせてあげたい…。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-15

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