出逢い
彼女とは、いたって凡庸な出逢い方をした。一般に期待されているような、いわゆる運命的な切っ掛けというのは存在しない。私が歩いている前方から彼女も同様に歩いてきて、お互いなんとはなしに歩みをとめ、挨拶を交わした。ただそれだけのことである。
「どうも」と私から声を掛けた。
「どうも」と彼女も、別段驚いた様子もなく返事をするのである。
「私は今、なぜ君に声を掛けようと思ったのか分からないでいるんだ」私は正直に告白した。何故か、ここで正直に打ち明けるほうが正しいという直感があった。
「たぶん初めて会うよね。分からないけど、私も話し掛けられる気がしていたし、それを準備していた気もする」
二人の会話は具体的な目的も着地点も見いだせぬまま、ふわふわとお互いの間を行き来していた。二人とも足を止めた状態で。
彼女は、私と同い年くらいの背格好だと見受けられる。女子大生という身分を忌憚なく受け入れているとでも言うべき服装で、大衆に身を埋没させるにはうってつけの格好をしている。
「ところで、私はこれから駅へ向かうのだけど、あなたはこれからどこへ?」と彼女は尋ねる。
「大学に行ってきた帰りさ。帳が下りてきたというのに珍しいね。これから出かけるの?」
「別に大した用事があるわけじゃないの。ただちょっと、今は家に居たくない気分だった。まだ開いているカフェにでも行こうと思っているんだけど、一緒にどう?」
私たちは示し合わせたように足並みを駅へ揃えた。
冷静に思い返してみると、これらは運命的な切っ掛けに分類されるものだったかもしれない。
出逢い