湖畔
あなたがハンドルを切るたびにうねる景色、木々の残像、フロントガラスを突き刺した光が助手席の窓を通り抜けて、消えていく。きれいな薄い灰色の細い道路がどこまでも続いていく。湖の青が遠くに見えて、空は晴れ渡っていて、なにかから逃げてきたような、それとも、これまでがここに来るための道のりだったかのような、はっきりとしない感情すら置き去りにするスピードで車は走った。
車が、うっそりとした森の影に停まって、もう引き返せないんだって思った。砂時計の砂みたいな地面を踏んで、その感触はやわらかくて、そんなことに気をとられているとあなたはいつの間にかティーシャツを脱ぎ捨てて走っていった。飛び込んで跳ねた飛沫が遠くの空と重なってわからなくなった。
あなたがお前も来いよって言うから
私も飛び込んだ。
低くて高い、不思議な位置に私は浮いていて。綺麗な緑をした森が囲む誰もいない、鳥の声ですら邪魔に感じるこの広がる世界で、私とあなたが逆さまに映っている。
湖畔