夜の帳の下、蘇芳花は依然として…
遅刻
××時○○分発の電車に僕は駆け込んだ。
土曜ダイヤのせいか、車内の空気は妙に落ち着いていた。
遅刻だ、と、砂川先生の顔が瞼に浮かんできたのは今日で何回目だろう。
性懲りも無く「遅刻定期w」とLineの誰かに呟くと、
「卒業式遅刻するのってヤバくね?笑」と言う。
「やばいwwww皆に殺される」と、送信ボタンを押した僕はほんの少しニヤついた。
返信はもう来ないのだろう。
それはそうーーそんなの最初から分かりきってること。
でも、僕にはどうしても「遅刻」しないといけない理由があるような気がした。
「そういえば卒業文集で何書くの?」「卒業式で遅刻するって文書こっ」ふと二ヶ月前の記憶が蘇えた。
あの時は一笑に付されたけれど、僕は今まさにそれをやり遂げようとしている、となんて自分に言い聞
かせたら、バイブ音が服の中から身体に伝わった。
そして、ポケットの中を探ると、そこにはぽっかりと穴が開いていただけで、
何もなかったんだ。
夜の帳の下、蘇芳花は依然として…