緩やかに破滅
ゆるゆると、衰退してゆくのが、夜。
真夜中のきみが、ぼくの指の一本を、ほしがる。アイスクリームやさんの灯りだけが、闇に浮かんでいる。絶対チョコミン党、という党派なのだと、よくわからない主張をする女子が、アイスクリームやさんの店先で、恋人らしきにんげんとアイスクリームをたべあっている。真夜中のきみのあたまには、ひつじの角がはえている。解体された古い家の跡地に、祈るひとがいる。いつも、なにかを祈っている。星が腐る。腐食して、異臭がする頃には、星は、どす黒く変色しているかもしれない。宇宙から眺めたい。輪郭を失い、ぼやけてゆく地球。ラブホテルの価格設定について、真夜中のきみは、ときどき、専門家のひとのように分析する。ぼくは、そういうのは、興味がないのだけれど、ホテルにきてまで、そういうことをまじめに考えている、きみを、すこしだけ無神経だと思う。無神経だと思うが、きらいではない。あしたはこの町にも、ことしはじめての雪が降るらしい。たのしみ、という気持ちと、たいへんだ、という焦りが、いりまじっている。真夜中のきみは、雪が降ると、クリームシチューがたべたくなるという。それは、なんだか、ちょっとわかる、と思った。
緩やかに破滅