東京の断片 #7
孤高の猫
「おじさん、おじさん」
誰のこと言ってんだ?
「おいらは孤高の猫」
よく言うよ
「あんたが思ってるよりもタフなんだよ」
なんだって?
「東京で何年も立派に野良猫やってるよ」
ほう立派なもんだ
「どうぞ、どうぞ」
なんだよ?
「ここに座ってみんしゃい」
おまえどこから来たんだよ?
「あんた路上ってもんをわかっちゃねえ」
オレ浮浪者ではないよ?
「わしは、路上で見てきた
猛スピードで駆け抜けてくひと
安全運転でも道を間違うひと」
それで?
「手遅れも、先走りも、違反者も
浮浪者も、身なりの良いものも、知っている」
「ほら、わしの背中を見てみい」
はあ、立派なもんだね
「無事故無違反無免許」
おい!
「猫の巣を知らないだろう」
なんだいそこは?
「あんたに“幸せ”を教えてやろう」
それから、彼の眼前に
猫の巣が広がった
「わたし達は何処へ向かうのか」
「あんた、“どこ”を視ていた」
「あんたの年齢で観る“東京物語”はどういう映画になるんだろうねえ」
東京の断片 #7