おとなになること

あおい はる

 やわらかな、日だ。祝う日。おとなになるひとたちが、どうか、健やかでと、ひそかに祈る。やわらかいようでいて、空気は、刺すように冷たく、けれども、どこか、清々としている。町は、もう、さいきんは、ひとがいなくなったみたいに、静かで、ひっそりしていて、ときどき、朝のバケモノが、徘徊している。昼間なのに、早朝の気配を感じると、朝のバケモノは云って、ふいに、ぼくの手を握る。冷や冷やしたものが好きだけれど、生きているものの体温も、好き。そういうことらしい。華やかな振袖を着た、女の子たちが、歩いている。あ、でも、もうおとななのだから、女の子、ではなく、女性、になるのか。男の子は、男性。でも、思うのは、じぶんより年下の子たちって、やっぱり、女の子だし、男の子であって、女性、男性というのは、どうにも、しっくりこない気がしている。開店休業中なのか、ハンバーグやのおじさんが軒先で、あたらしくおとなになったひとたちに、おめでとうと声をかけている。ラーメンやさんのおにいさんも、喫茶店のおばさんも、じぶんの子どものことのように、よろこんでいる。ちいさい町だから、顔見知りもいるだろうし、ちいさい町だからこそ、みんな、うれしいのかもしれない。しゃべったことはなくても、おなじ町で生まれ育ったのだから、祝うのはあたりまえという、精神。
「にんげんは、じつににんげんくさくて、いいですね」
 朝のバケモノが、ゆったりと微笑む。ひとの町を歩くときの彼は、ひとの姿形をしている。ひと、とはいっても、現実離れをした、ファンタジーゲームの登場人物のような見た目だから、ちょっとだけ、目立つのだけれど。白銀の長髪とか。夜明けの色のローブだとか。そんな彼に、手を握られたまま、ぼくは、にんげんは、でも、みんながみんな、ああいうにんげんではないことを、おしえる。朝のバケモノは、おなじにんげんばかりではないから、にんげんはおもしろいのだと、しみじみとした面持ちで頷いて、さらにつよく、ぼくの手を握る。
 期待と不安。可能性。責任感。未来。希望。諦め。我慢。自由と不自由。様々な選択。
 きょうの町は、すこしだけ、にぎやかしい。
 おめでとう、と、ぼくは呟いて、朝のバケモノの、すべすべと滑らかな手を握り返した。

おとなになること

おとなになること

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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