『残影』

利用者M

暗い夢をただ、見つめていた。
きみがいないことが常識だった。
冬が来たね。
何気なくきみへそう言った、私の言葉が虚ろに宙に響く、そんな世界だった。
自身の心臓が凍えても、私は持て余し続ける。
これをあたためる術など知らなかった。
きみ以外は。
私は、灰の空にいる白い太陽を見上げた。
霞んでいる。
柔らかい光。
似ているな。きみに。
誰かが私の肩を掴んで揺さぶった。
そして強い口調で言った。
告別の言葉を、と。
私はぼんやりと笑って首を振る。
諦めたように私の肩から手は離れた。
誰かの失望に、罪悪感を覚え、もう泣く必要は無かった。
身体を纏う黒い布は私にとって忌まわしいだけだった。
世界が二重にずれて視える私は、逸脱していた。
現実も暗い夢も、きみという事実が結んでいた。
きみへ向けて、冬が来たねと歌うように言う私を、子供たちが心底可笑しそうに笑い、大人たちは気味悪がって、老いた人たちは哀れみの視線だけをやった。
彼等は善良で、正しかった。
皆、遠くへと消えていった。
いや、私が離れていっているのだろうか。
ちらちらと私の頬に雪が吸い付くように溶けた。
私は瞼を閉じる。
きみの微笑みを思い出せると、優しい涙が胸にあふれていく。
上着と靴を脱ぎ捨てた。
眼前に広がる雪原に素足をそっと踏み入れて、立ち尽くした。
見上げれば、曇天が隠しきれない白銀の冷えた輝きが、眼を射た。
少し、一緒に踊ろうか。
私はきみの声を聴いた。
笑んで、私は太陽に指先を伸ばし、大地を軽やかに蹴った。
苦しめとも狂えとも、私に言わないきみが、大好きだった。
世界を間違えて、私は息をし続ける。
さようならは言えない。
これからもはじまっていく季節を私はきみへ教えていく。
ずれて、なお生きていく私を、きみはきっと笑わない。

『追記』

ずっと君へ向けて書いている。

『残影』

『残影』

夥しく咲け、想像。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-01-10

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