雪白に染まる

 部屋は、いつのまにか冷たく、そこだけ、きっと氷点下の温度。かわききった、のどは、はりついて、気管と、粘膜と、わずかばかりの罪悪感は、きみを、好きになったためのもの。ゆるして、と、だれにゆるしを乞うのか。きみか、神さまか。ぼくにとっては、きみが、神さまに近いのに。恋愛、という行為に、ときどき、首を絞められているのが、にんげんで、交尾、という儀式に、執着しているのが、どうぶつで、愛、なんてものを永久的に慈しんでいるのが、神さまとして、ぼくは、どこにも属さない存在になりたい、とも思う。恋愛も、交尾も、すべてを総括した、愛も、うれしいきもちや、しあわせだけでできているのではない、決して。痛いとか、苦しいとか、そういうのが一定量含まれているものだから、たまに、逃げ出したくなる。どうして、ぼくが、きみを、好きになるように、世界はできているのか。宇宙規模での、釦の掛け違いが起こっているとしか思えない。
 夜だけれど、外が明るい。雪が積もっているために、ぼんやりと白く、夜なのに、夜ではないみたいな、夜だった。
 やさしい愛だけを歌っている、音楽番組を、なんとはなしに眺めていると、じぶんも、やさしい何者かに、なれる気がした。きみを好きになったことを、人生の過ちだと、ひねくれずに、ばか正直に好きでいられるような気分になって、でも、歌がおわってしまうと、その気分は一瞬で、消え去る。ろうそくの火を、吹き消したみたいに。

雪白に染まる

雪白に染まる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-06

CC BY-NC-ND
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