ブレード・オブ・ナイツ second

第二章 つかの間の休憩――美香の過去――

キングの店を出てまもなく後ろから美香のボディタックルを受けて予想外のダメージを食らってから何時間か経った頃。
「イテテ、また首が……」
「だからごめんって言ってるじゃん! さっきは勢い余って止まれなかったの!」
どんだけスピード出してたんだよと言いたかったが言えば確実に第二弾が発射されるか、最悪泣かれるかの二択だ。後者だったら俺はどうしようもなくなってしまう。それだけは防がなくては。
「そんなことよりホントに着いて来るのかよ」
実を言うと今度のは危険がいっぱいだからこいつを連れて行きたくはないのだ。
「なによ! たかが半日とちょっとの私とは歩きたくないの?」
「そ、そうじゃないけどさぁ」
女に口で勝つのはどうやら俺には無理らしい。
「まあいいや、とりあえず俺が隠れろって言ったらすぐに隠れるんだぞ? 絶対に出てきちゃダメだからな?」
出てきたら俺に勝機はない。それと同時に美香の命もなくなってしまうかもしれない。それだけはなんとしても防ぐ、いや、防がなくちゃならない。
「もしかして、私邪魔だったりする?」
美香が泣きそうな声でしかも涙目&上目遣いで攻めてくる。
「うっ……」
これには俺もそうだと言えず首を縦に振ることしかできなかった。
美香はニコッと笑い俺のあとを着いてきた。
俺はこの状況がいつもなら苦痛でしかないのに今は苦痛ではなくその逆で幸せにすら感じる。
この不思議な感覚に俺は戸惑いながらも心地の良く、これが永遠に続けばいいのにと心の中で思った。
「あとどれくらいなの?」
そんなに歩いていないが美香がそんなことを聞いてきた。
「まだまだだけど、疲れたか?」
美香は首を横に振る。
「じゃあ、どうした?」
美香がある方向を指差した。
「あそこにお団子屋さんがある」
美香が指した方向を見るとそこにはこの世界では珍しくもない団子屋があった。
「もしかして食べたいのか?」
「……うん」
ダメ? と言わんばかりの顔で言ってくる。
んー、依頼があるんだけどなぁ
「じゃあ、俺の仕事が終わってからでいいか?」
「いや」
いやってこいつわがままもいいところだぞ。
「だって、今から人を殺しに行くんでしょ? そんな事の後でお団子なんて食べられないよ、それに……」
――今慎二と食べたいんだもん
これには俺も心を打たれた。
考えて見れば俺は今から人を殺しに行くんだよなそのあとで団子なんて流石に食えないか。
「わかったよ、今食べるか、依頼には急げって書いてなかったらしいし」
俺は美香に負けて、いや、美香とこの心温まる状況を少しでも長くいたいと言う気持ちに負けて団子屋に行って団子を食べ始めた。

違う世界でも食べ物の味は私がいた世界を同じだった。
こっちの世界に来て初めて私は安心感を感じた。
「うまかったか、美香?」
隣で慎二が聞いてくる。
「うん! これ私のいた世界の味とよく似てて美味しかったよ!」
まさかお団子一つでこんなにテンションが上がる日が来るとは思わなかった。
「そうか、そりゃあよかったな」
微笑みながら優しく言ってくる慎二。この人もまた私のいた世界のお父さんに近い存在であることはまだ秘密だ。
「じゃあ、団子も食い終わったし、行こうか」
よっと腰を上げ立ち上がる慎二。私はまだ立ちたくはなかったがまた置いてかれると困るので渋々立ち上がった。
団子屋を出て歩きだしたのはいいが慎二が早歩きでずんずん先へ行ってしまう。
「ちょっと待ってよぉ~」
「……」
呼んでも返事はない。まるで私を置いていこうとしているみたいだった。

「ちょっと待ってよぉ~」
「……」
返事はできなかった。俺は美香を振り切って一人で依頼をクリアーしようとしているからだ。
理由は簡単であいつを危険な目に合わせたくないのだ。
俺に着いてくれば必ずと言って良いほど危険が舞い降りてくる。
こいつには危険は似合わないから置いていこうと人知れず考え実行に移している。
「そろそろ大丈夫だろう」
振り向くとそこには美香が息を切らせながらも着いて来ていた。
「お前、あの早さを着いて来たのか?」
「何度も言ったのに遅くしてくれなかったから、もうヘトヘトだけどねぇ」
驚いたというより呆れた。誰しも待ってくれと言われて無視されたら諦めて帰るはずなにこいつはそれをせず走ってまで着いてきた。
その行動はまるであいつ、死んだ俺の最愛の人と同じだった。
「……馬鹿か、お前は」
「何よぉ~、着いてきちゃダメって言われてないから着いてきただけだもん」
ほっぺたをムッと膨らませ言う美香。
「普通無視られたら着いて来ないだろ」
「だって、私キングさんに慎二のことよろしくって言われちゃったんだもん」
そんな理由でこんな危険極まりないところまで着いて来たのか?
それは一般的にバカがすることだ。
「ここは危ないんだぞ?」
「知ってる、今の慎二の顔を見ればなんとなくわかるよ」
ならなんで着いてきた。
「この世界で死んだら本当に死んで元の世界には戻れないんだぞ?」
「それも知ってる。でも今慎二はそれをしに行くんでしょ? 立場は逆だけど」
痛いところを突いてくるが下がるわけにはいかない。
俺も負けじと言い返す。
「だからダメなんだ! 俺が人を殺すところをお前に見せたくないんだよ!」
俺は女の子の前で人を殺すなんて結果は目に見えてるじゃないから嫌なんだ。
「そんなの関係ないよ、私は……私は恩人を嫌いになったりは絶対にないよ」
真顔で言ってくる美香に俺は驚くしかできなかった。
それと同時に俺の中で隠そうとしていた感情が出そうになる。
「行かないの?」
美香が先に行こうとする。
「危ないからここで待っててくれないか?」
「なんでそんなこと聞くの?」
さみしそうな顔で聞き返してくる。
「それは……」
お前を死なせたくないからだとは言えない。
俺たちはそういう関係じゃないし、俺はこいつを守る立場ではない。
だけど、俺の前でもう女の子は死なせたくない。
「理由が言えないんじゃ私も行く! あなたばっかり不幸なのは不公平だよ!」
涙目で訴えてくる美香。
「俺は不幸でいい! それにお前まで付き合わなくてもいいんだよ!」
俺もたまらず怒鳴りつける。
「もう、誰かが不幸になるのは嫌なの……」
それではまるで前にも不幸にあった人がいるみたいじゃないか……
「……私のお父さんは、不慮の事故で……死んじゃったらしいの」
「らしい?」
「うん、でも事故現場からは死体は出なかったんだって……お父さんは私にとってとても大切な存在だったの」
俺は何も言えない。俺はそんなことにあったことも聞いたこともなかったからどう反応していいのかわからなかった。
「小さい頃からずっと遊んでもらってて私ね、私の家族はね、みんなお父さんが大好きだったの……」
「もういい」
「でもね、でも不慮の事故にあったせいで私の家族はね」
「もういいよ」
「みんなの心がどんどん離れていくみたいでね」
「もういいんだよ」
気づけば俺は美香を抱きしめていた。
ああそうか。俺はこいつを守りたかったんじゃなくて守って欲しかった。俺と同じような境遇を持った人だと直感してわかってもらいたかっただけなんだ。そしてもうひとつの感情は……これは……これはきっと『恋』なのかもしれない。
だけどこの感情は外に出しちゃダメだ。俺は幸せにはなっちゃダメな存在なんだ。
「だから、だからね、だか……だから……」
俺の胸の中で涙を流しながら訴えてくる美香を俺は優しく抱いて
「もういい、もういいんだ、お前は楽になっていいんだ、それはお前のせいなんかじゃなんだから」
言葉をかける。
こいつも過酷なところで生きてきたんだな。
俺はそんなことを考えながら美香を抱き続けた。

私は夢を見た。
その夢は随分と昔少なくともこっちの世界に来ていないときの話。
私はたぶん中学生くらいで家族全員で笑顔で並んでいる夢。
その家族が一人、また一人と消えたり離れていく。
私がどれだけ呼んでも、叫んでも止まってはくれない。
そして、私は高校に上がり一人暮らしを始めた。
仕送りはなく。信じられるのは自分くらいだった。
親戚はみんな揃って私を邪魔にするし、お母さんもお父さんが死んだのは私のせいだと言って口も聞いてくれない。
そんな人生が私は普通だと思っていた。不幸が普通、幸運なのは異常なのだと心の中で勝手に思っていた。
だから、友達も普通、幸運な友達なんていなかった。
私には幸運な生活なんて絶対訪れない。そう思い始めたのはきっとお父さんが死んでからだろう。
私はその夢の中で叫んだ、苦しんだ、嘆いた。……だけど、誰も助けてはくれなかった。
暗闇の中私はただ呆然と座り込むしかなかった。だけどその中に一つだけ光が、私の名前を呼んでくれる人がいた。
私はそれに手を伸ばした。そして掴もうとした直後、夢は終わり現実へと戻っていった。
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。私は慎二の胸の中でいつの間にか寝てしまった。まだ日が出てるところを見るとそんなに時間は経ってないような気がするが……
私が起きると慎二は私を抱きながらどこかのベンチに座っていた。
「起きたか」
慎二が笑顔で言ってくる。
「どれくらい寝てた?」
まだ覚醒しきってない脳みそで考えた結果この言葉が先に出た。
「一、二時間かな、それにしてもそんなに気持ちよかったのか? 随分と気持ちよさそうに寝息を立ててたけど」
恥ずかしさと怒りが七対三でこみ上げてきた。
だんだんと記憶も鮮明に思い出されていく。慎二の言葉に怒りを覚えてまさかあんな過去まで話さなくても良かったのに、しかも号泣のおまけ付きで……
「あ、えっと、あー」
記憶が思い出されると同時にわずかにあった怒りがだんだんと消えてき恥ずかしさが倍増していく。
「ほら、口をパクパクしてないで行くぞ?」
早々にベンチから立ち上がり何処かへ行こうとする慎二。
「ち、ちょっとぉ、どこ行くの?」
私の呼び声に振り向いた慎二は呆れ顔で言ってきた。
「俺たちは何をしにここまできたんだよ」
私は言われて当初の目的を思い出した。
「あ、そうか私たち依頼を」
「思い出したんだったら行くぞ、変なことでかなり時間を消費したからな」
さっさかと足を進める慎二。今度は私に合わせてか前より遅く歩いてくれている。
「あのね、慎二」
「ん? なんだ?」
「私ね? 慎二の胸の中で寝てる時、夢、見たんだ」
なんでこんな話をしようとしたのかは定かではないがこの人、慎二にはこの話を聞いてもらいたいと思ったのだ。
「どんな夢だったんだ?」
「それがね? 変なんだぁ、忘れたはずの人たちが出てくる夢でさぁ――」
ポンっと私の頭に手を置き撫でてくる慎二。
「な、なに?」
「いいやなんでもない、ほら、続きは?」
「それでね」
この世界でもし私を幸運にしてくれた存在を挙げるとしたら私は迷わず慎二と言うだろう。
この世界で唯一の大切にしたい記憶も慎二といた時の記憶だろう。
なぜなら、私を幸せにしてくれたのは紛れもなく彼――慎二なのだから。

ブレード・オブ・ナイツ second

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美香の過去、美香にとっての普通の生活、そしてこの世界で美香の見つけた大切なものとは 今回は美香(ヒロイン)を中心として回ってます。

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-21

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