stone cold

stone cold

イラスト:影守俊也(Forbidden Resort)
初出:19年2月コミティア

 オックスは村の鍛冶屋に生まれ落ちた。鍛冶師とはいえ、日が昇る前から炉に火を入れ、刃を鍛え、日々研ぎ澄ますような生活ではない。火を起すのは鉄の神と竜を司る日だけだ。それも打つのは農耕具、馬蹄、生活で使う刃物の類いである。畑をいじることもあったが、もっぱら、その指先の器用さと腕力を生かし、鋳掛け、指物、羅宇、大工といった村人がこなせないことを生業にしていた。家族は幼なじみであった妻と息子、娘の四人。一昨年の冬に亡くなった彼の父親と何一つ変わらない。
 その父はひどく無口な男で、愛想笑いの一つもできない男だったが、幼いオックスを商いの神の祭日に立つ市に、よく連れて行ってくれたものだ。やがてオックスは一人前に背負子を背負えるようになると、刃物や細工物、煙管を詰めた箱を背負って、父親の後を付いて歩くようになった。
 その頃だ。村には何もない。街には世界の全てがある。そんな幼い憧れを神託のごとく信じ。挙げ句には、思い出すこともできないほどのちっぽけな諍いをきっかけに村を飛び出した。
 人生において冒険はあれ一度きりで、毎年やってくるなじみの吟遊詩人の歌に出てくるような勇者達の人生とは無縁のまま歳を取り。やがて、父祖たちのように土に帰るのだ。三十を越えたオックスは、諦観と呼べるほどの覚悟ではなく、ごくごく自然にそう思っていた。
 村の奥、人の通わぬ森との境。「谷川の鐘」と呼ばれる鐘が狂ったように叩かれ、凶報を告げる音が、谷中、山野に響き渡る。その瞬間までは。
 オックスは、その尋常ではない音に、朝食の匙をとめ、様子を見ようと外へ出ようとした十歳になる息子、タトラの手首をつかんだ。
「待て。母さん窓を閉めろ。お前は、母さんと妹を連れて神殿に行くんだ。マリ叔母さんにもちゃんと声をかけろ。歩けないようなら手伝ってやれ」
 まっすぐな瞳を向けてくる息子は、自分よりもできが良いとオックスは思う。
「わかった」
 息子は、彼にできる限りの懸命さで力強く頷いてみせた。
 父親が少年の日の自分にそうしたように、無言で息子の尻を叩く。
 母親のようなおしゃべりな女は好きになれず選んだ妻は、子供の頃はめそめそよく泣いていた。が、子供を二人産んだ今は、この非常事態にも、顔色こそ血色を失い雪のように白くしていたが、悲鳴も、意味のない問いかけの一つも口にせずに。オックスに言われたとおり、窓という窓の戸を降ろし、かんぬきをかけていった。
 オックスは作業場でスコップとハンマーを見比べて、スコップを手に取る。妻が自分を呼ぶ声がした。
 オックスはわざとゆっくり歩み寄ると、その頬に手を当て、
「安心しろ。若い連中がふざけているだけだ。こらしめてやる」
 と声をかけた。
 嘘をついている自覚はあったが、それで少しでも心が落ち着くならそれでいいのだ。
 妻の横で五歳になる娘が不安そうな目で見てくる。
「大丈夫だ。マリ叔母さんによろしくな」
「お父さん気をつけてね」
 オックスは「ああ」と答えるかわりに、その大きな手で娘の頭をひとなでした。
 谷川の鐘は物見櫓にあるものだ。父祖の時代、この村をゴブリンたちが山を越えて攻めてきたことがあった。冒険者の手を借りて打ち倒した後。村人は、村と人の通わぬ森の境界に石垣を築き、森からの侵入者を見張るための物見櫓を建てた。
 だが、常に人を置いておくものではない。ゴブリンに獣にはない知恵があるとはいえ、この山間の谷に訪れるのは、食い物を求めて降りてきた熊やオオカミとそう変わるものではないと信じられていた。それは、市で降りていく街で聞いた話しでも、否定するものではなかった。卑しい盗人共も、山や森に十分な食い物があれば、わざわざ人の暮らす領域に足を踏み入れることはしないのだ。
 家を出ると、朝の薄暗い中、谷の下の方に暮らす村男たちが、上がってくるのが見えた。先頭には、亡父よりもずっと年上にもかかわらず背筋の伸びたギル爺さんの他に、短弓を肩にかけた悪餓鬼ミーレの姿も見える。
 悪餓鬼と言っても、今年で二十一を迎えている。本来、狩りで生計を立てる彼の家は、谷川の鐘にも近かった。
 当てが外れた。そう言っていい。
 六年前、行き遅れになっていたリラを宛がわれたミーレが、生まれ変わったように仕事に専念し、話す言葉も、頭の中身も、今では一人前になっていた。そのことを知らないわけではなかったが、ものには印象というものがある。朝早くから鐘を鳴らすような輩は、奴しかいないという頭があった。
 スコップをその場に置き、仕事場からハンマーを持ち出した。手に良くなじむ。吟遊詩人が歌い上げる戦士の剣のようにはいかなくとも、樵の斧のように、打ち抜く場所を外さない自信がある。
 オックスは谷川の鐘に上がっていく道で村人衆と合流した。
「何ごとがあったかわかるか?」
 挨拶もそこそこ、ギルが声を上げた。
 六十はとっくに越えているはずだが、ここまで登ってくる間に息を切らすこともない。年相応に頭が固いこともあるが、頑固というほどでもなく、決断力がある。腕も足もしっかりしていて、耳も頭もはっきりしている。百まで生きるのではないかと言われている近隣の村々にまで知られた傑物だ。
 オックスは首を横に振りながら、
「わからない。ミーレ、お前の家族は」
「母ちゃんとターニャは、妹のところにいる。昨晩、突然ターニャが熱を出して下まで降ったんだ」
 このところ、角が取れた印象があったが、その顔は名前ではなく悪餓鬼と呼ばれていた時代よりも厳しい。
 こいつ、こんな厳しいツラをしていただろうか?
 その思いが、心の中で呻きとなった。
「あれくらいの歳の子は、そういうことがいきなり起こる」
 オックスは大雨の中、熱を出し唸っている息子を雨に当たらないよう何重にもくるんで、村まで降った夜のことが過ぎった。
「今の御師さん(村づきの僧)は、先代よりも腕は確かじゃ」
 ギルも思うことがあるのだろう、ミーレに声をかける。
「ああ。だから、今は大丈夫だ。それよりも今は」
 ミーレは、行く先をにらみつけた。
「石垣のひぃ爺さんはゴブリン共が出たときには、自慢の地下蔵に隠れたものだ。炭焼きのも、石垣のも馬鹿ではない。何かあれば、地下蔵に立てこもるだろう」
 ギルはやけにゴブリンという単語を強調した。
 こんな馬鹿げたイタズラをしでかすような人間はいない。仮に不逞の輩が村に来たとして、鐘を鳴らす理由などないだろう。櫓に登れるのは、熊か、……ゴブリンか。
 オックスは、何か冷たいものが腹の中に落ちていくような感覚を味わった。
 その思いは、オックスだけのものではなかったのだろう。誰もが不安でありながら、それを口にせず歩き続けた。
 男衆たちの足が、自分たちのものではない草を踏みしめる音に止った。
 風のいたずらなどではなく、生き物の気配がする。
 村人は、草むらからのっそり出てきた三体の人影から、目を離すことができなくなった。
 土色の肌、子供の体に、大人の頭と両腕を付ける。尖った耳、人のものではない大きすぎる瞳、鼻はなく、口からは肉食獣めいた乱ぐい歯がのぞく。鶏小屋を襲ったのだろう。斧を持たない手には、首のない鶏の姿が見えた。
 ゴブリンだ。
 ここまでの理解は、息を飲む時間の半分もかかってはいない。だが、頭では理解しても体が反応してくれなかった。オックスはその手にあるハンマーを振り上げ威嚇することはおろか、指一本動かすことができなくなっていた。
 背中が泡立っていくのがわかる。腰に力がなくなっているのも理解できた。それは、オックスだけではなくこの場に居合わせた村人衆皆同じであろう。この場にいる誰かが悲鳴を上げたら腰砕けになってしまう。そんな全く意味をなさないことも冷静に理解できる。
 ゴブリンたちは、そのヤギめいた瞳孔をこちらに向けて、何かを罵った。人間ではない者があたかも言葉の通じない人間であるかのように威嚇する。
 空気を振るわすような叫び声がした。
 ゴブリンの放った声ではない。あの名物爺さんギルが、手近な一体に踏み込み、気合いの声とともに、鍬を振り下ろしていた。
 オックスは金縛りが解けたようになって、その場でたたらを踏むと、ギルが鍬で殴ったゴブリンの頭めがけてハンマーを振り下ろした。手には独特な感触と耳には鈍い音がこびりつく。だが、ゴブリンは立っている。十分ではない。
 次の瞬間、血の気が凍った。
 いつの間に、ここまで近寄っていたのだろうか。オックスの脇腹めがけて、手斧を振り下ろそうとする新手のゴブリンがいた。振りかぶられたその粗末な手斧、浮いた錆の一つ一つが見える。耳が詰まったかのように音が何も聞こえなくなる。
 だが、手斧は振り下ろされることはなかった。わずか半歩のところまで接近し、手斧を振りかぶっていたゴブリン、その右目には矢が抜けていたのだ。
 やけに長い時間をかけて、ゴブリンは手斧を振り上げたままの格好で前向きに倒れてゆく。
 音が戻った。
 ギルは再びたけび声を上げながら、奥にいたゴブリンに片手で鋤を振り下ろす。その背筋から肩にかけての力、腕力は恐るべきものだ。鋤を子供が振り回す棒きれのように振り回す。その狙いは外さず、首筋に喰らったゴブリンは、その勢いそのままになぎ払われた。
 オックスは今一度、目の前の、ただ立つだけで精一杯のゴブリンにハンマーを振り下ろした。
 やれるじゃないか。
 ゴブリンごとき、やれるじゃないか。
 そうオックスは思った。死から解放されたことで、軽い躁状態になっていた。
 だが、そんな淡い期待も高揚感も次の瞬間、打ち砕かれる。
 山のように見えた。
 筋肉の塊の上に、錆びた鎖かたぴらと、それを補強する鋼の板をぶら下げた鎧を纏い。右手には、無駄を排し、形あるものを壊し、命あるものからそれを奪うために鍛え上げられた戦斧がごく自然に収まっていた。肩の上には、ゴブリンのものではない。ましてや人間のものではない。飢餓に狂った熊か、人の味を覚え飽食に飽き足らない狼か。肉食獣の顔を乗せた獣人が、草むらの中から現われた。
 空気が凍る。
 獣人は、ゴブリンの骸に唾を吐きかけると、つまらないものを見る目で村人衆を見渡し、重い足音を立てながら、道を横切るかのように、再び草むらの中へと再び消えた。
 ただ、それだけのことだが、何分にも何時間にも感じられ、先ほど死にかけたこと以上の衝撃を受けていた。
 鶏小屋に入ったオコジョは、飢えていようとそうでなかろうと全ての鶏を殺す。
 だが、狼は、飢えていない限り、鶏を一羽たりとも噛み殺すようなことはしない。
 頂点に立つものは、焦ることも、酔うこともない。ただただ驕るのだ。
 オックスは、祖父に聞かされた言葉を思い出していた。
 奴、獣人は、一目で村人が敵にならないことを見抜いて、去って行ったのだ。喰らおうと思えばいつでも食らえる。殺そうと思えばいつでも殺せる。ただ、今はその時ではない。
「あら、なんだ」
 誰かがやっとの思いで挙げたかすれ気味の声に、
「犬鬼、アマチュア殺し、様々な呼び名があるが、魔術師たちが古き言葉で酔いどれと呼ぶ獣人鬼じゃ」
 ギルが心底忌々しそうに答えた。その言葉が呼び水となったのか、
「ありゃ熊だ。鎧を着た熊だ」
 村人衆の耳目がミーレに集まった。
「熊だぜ。鎧を着ているから矢は効かない。知恵があるから、熊が引っかかるような巧妙な罠にすら、かからない」
 ミーレは感情が迸るまま捲し立てた。
「ならどうする。ミーレ」
 誰かが挙げたその声に、
「簡単だ。人間が引っかかり、熊でも絶対に死ぬ罠にかけてやる。まずは奴の寝床を探らなきゃならない」
「酒精の」
 ギルが声をかけると、昨秋に代替わりしたばかりの村長の若者が、頼りなげな目でギルの方を見た。
 ギルが顎をしゃくると、まるで言葉の方から彼の口の外に漏れ出たように、
「み、ミーレ探って来てくれ。男衆たちは、二手に分かれて石垣のと、炭焼きのの家を探ろう」
 ミーレは待ってたとばかりに声を上げると、彼の子分である狩人の若者二人に声をかける。
「儂は酒精の下男たちと一緒に炭焼きを見てこよう。粉引きと牛飼い、あと鍛冶屋の、お前ら腕っ節の立つ連中は、石垣まで行ってくれ。ごちゃごちゃ連れだって行くこともあるまい。あとの者は、酒精のと一緒に女衆に今あったことを告げて、神殿前で待つ。これでどうじゃ?」
「ああ、そうだな。そうしてくれ」
 若い村長は何度も何度も頷いた。
「さぁ、皆の衆、そうと決まれば善は急げじゃ。くれぐれも気を引き締めてな」
 ギルの手が打ち鳴らされる中、オックスはギルの提案に堅く頷いたが、それよりも先にやることがあった。
「ミーレ、礼を言う」
 ゴブリンの顔に矢を放ったのはミーレだったのだ。が、そのミーレはその礼の言葉を背中で受けながら、なぜか道脇に生えていた丈の長い草を抜いて、その根っこに付いた泥を顔に塗ったくっていた。
「人間の顔ってのは陽の光を受けると光るんだ。鍛冶屋の旦那」視線をオックスに向けてくる。「礼なんかいらないぜ。母ちゃんに怒鳴られちまう。これからみんな牛馬のごとく働かなきゃならないんだ」
 白い歯を見せると、同じように泥で汚した太っちょとひょろ長い子分たちと共に、犬鬼が歩いて行った草むらの中へと入っていった。
 確かに、ミーレの言うとおり働かなければならないだろう。全力を尽くさねば、何も守れないし救えない。
 それぞれに行動を起す村人衆の中で、所在なげな粉ひきと牛飼いに目線を向けた。にわかに口の辺りが強ばったが、
「行こう。あくまで確認だ」
 そう言うとハンマーを掲げた。
 石垣の主は、屋号そのままの頭の固い。しかも偏屈な家族だ。粉ひきの、牛飼いのが気乗りしなかった理由も、ゴブリンがまだ石垣周辺に居残っている心配と、この家族の厄介さが半分だった。
 石垣に一番近い。石垣のの家に着いて、オックスは二人を待たせて、一人段差を登る。その場に居合わせた男たちは、石垣の主を含めて皆わかっていたはずなのに、オックスが扉に手をかけ開けた拍子に、石垣の主はマサカリを手に襲いかかってきた。
 幼い日のオックスは参加しなかったが、この男をからかったために危なく腕を落としかけた子供を知っていた。だから対処ができる。
 正気ではない。かっと見開いた目、伸び放題の白髪交じりの髪とヒゲ、体を拭くこともすらしないのだろう垢でひび割れた肌。でも、彼は人間である。
 薪割りの要領で直線的に振り下ろされたマサカリを右に避けると、逆に、棒杭でも打つかのようにハンマーを振り下ろした。無論、頭をザクロのようにはしない。ハンマーは、主の額、紙一枚ほどの厚さを残して止めていた。
 その場で腰を落とす石垣の主を無視して、オックスは村に向けて歩き出した。
「お、おい」
 今のやりとりを信じられない面持ちで見ていた牛飼いに声をかけられ、けたたましい声で喚きちらす石垣の主に振り返る。
「石垣の男は、代々自分の家と家族は自分で守る。こうして守れるなら、それで十分だ」
 ギルがオックスに腕力に覚えがある男たちを二人付けた理由は明快だった。オックスと石垣の主の双方が、やり合った挙げ句ケガで動けなくなっても抱えて降りることができるのだ。
 ギルも、村長や他の村の衆にしても、最初から石垣のを家から引っ張り出すことは半ば諦めている。無理矢理引きずり出そうとすれば、人の頭をマサカリで殴りつけるくらいやってのけるだろう。彼らは死ぬことになろうとも、曾祖父自慢の地下蔵に立て籠もることを選ぶ。そういう家族だ。村人には無事だったことを報告すれば良い。役目は終わったのだ。
 オックスの耳が石垣の主の声を拾わなくなるまで、彼は悪態をつき続けていたがが、それは何も問題のないことだった。
 村まで下っていくと、目にも鼻にも煮炊きする様子がうかがえた。オックスたちの様子に気がついた若者たちがあげた「鍛冶屋たちが帰ってきた」という声に出迎えられた。
「案配はどうじゃ?」
 ギルの質問に、
「生きていた」
 とだけ答えた。そこに何があったのかあえて聞こうとはしない。犬鬼が出なければ、一番危険な仕事をこなしたと言っても良い。安堵の声が漏れる男たちをかき分けるように、一人の女が出てきた。
「ほらほらほら、朝食よ。どんどん食べて」
 ミーレの妻であるリラだ。リラの両親はオックスが彼女を娶ること嘱望していたが、オックスはそうはしなかった。そういう仲だ。
「ほら、オックス」
 取っ手の付いた容器になみなみと注がれた野菜スープを差し出してくる。祭日でないとお目にかかれない鳥肉が入っていた。
「いや。娘は大丈夫か?」
「あら、うちのから聞いたの?」
「ああ」
「もう、あの人、かわいそうなくらい取り乱して、御師さんに診て貰ったらばっちりよ。今朝なんて、日干しパンを二つも平らげちゃって、元気なものよ」
 その元気という言葉に満足して、
「そうか」
 とだけ答え、周囲に頭を巡らした。視界の端に妻を見つけ、ため息こそ出さなかったが、ようやく肩から力が抜けたような気持ちなった。
「熱烈ね。まったく。新婚でもあるまいに、男の人ってみんなそうね」
 その言葉にオックスは憮然とした面持ちでリラを見てから、野菜スープを受け取った。
「ミーレはまだか」
 と聞いた。
「うちの人。どこで道草食ってるんだか」
「重要な、奴にしかできない仕事だ」
 オックスは、リラにそう言うと、視線も足も妻の方に向けた。
「無事か」
「はい」
「子供たちは?」
「他の子供たちと遊んでいます」
 無理に笑うような表情に見えた。
「そうか」
 手を叩く音がした。
「皆の衆。聞いてくれ。これからどうするのか話し合う」
 村長が声を張り上げていた。
「まだミーレたちが戻ってきてないぞ」
 という声が飛ぶが、
「我々には何もない。このまま時間まで失う気か?」ギルの声は良く通った。「意見のある者は、手を挙げろ」
 ざわつきが起きたが、さっと手が挙げられたことで静まっていく。
「モミの木の」
「村長はどうするつもりだ」
「わ、我々の手で成敗する」
 村長は似合わぬヒゲを伸ばしたその顔にまで、自信なげな様子が出てしまっていた。オックスは、この若者の力になってやりたいと思うことがしばしばだが、ここは彼に踏ん張って貰わなければならない。
「冒険者を雇ったり、代官に申し立てたりはできないのか」
 桑の木の倅が声を上げた。
「何を言っておる」
 若者の言葉を遮るように、老人が吠えた。そればかりか、手に持った杖で殴りかかろうとさえしていた。これには周りの男たちが止めに入る。
「粉引きのそれくらいにせんか」ギルは杖で殴りかかろうとした老人、粉ひきの隠居に一喝した後。「桑の木の倅、お前もお前の父親や祖父から嫌となるくらいに聞かされているであろう?」
「それ(ゴブリン退治の顛末)は聞かされているが」
 若者は抗うように言葉を出すが、ギルの眼光に見据えられて言葉が続かなくなった。
 ギルは歩きながら周囲を見渡した。その姿は、その体躯と、村祭り総代を示す豊穣の女神の頸環もあいまって、畏れすらあった。
「若人よ言っておく。我が父の時代、霜の降る夏が終わった後。ゴブリン共が山から下りてきた。あの時代も今もじゃが、代官はものの役にも立たない。仕方なく牛を売り冒険者を雇ったが、ゴブリンを成敗した後、奴らはこの村に居着いてしまった」
 村人たちは、略奪者となった冒険者たちにたらふく酒を飲ませ、その寝込みを襲った。村人四人の命と引き換えに、六人いた冒険者全員を打ち殺したという。この村に生まれたものなら誰でも知る話しをギルは淡々と続け。
「頼れるのは我々自身、その両の手だけじゃ」
 という言葉で、締めくくった。
 だが、あの獣人である。
 そんな村人の心の底を示すかのように、村の男たちは小声でざわめきあった。
 オックスは感情に従って、手を挙げていた。
「鍛冶屋の」
 村長が救いを求めるような、哀れみを感じさせる声を上げた。
「街で聞いた話しだ。――ゴブリンは、人の娘を拐かし、手込めにする。
 これは言葉通りの意味ではない。ゴブリンを退治するためには、代官に請願するにも、冒険者を雇うにも金がいる。娘を売り金にしなければならないということの暗示だ。俺は、自分が死のうとも子供を売る気はない。お前たちはどうだ? 自分の命を惜しんで妻や子供を売るのか?」
 先ほどまでの騒ぎは静まりかえっていた。
 その時である。
「もどったぜ」
 やけに元気な声がした。
「あんた。大丈夫?」
 リラが野菜スープを手に、声を上げた男、ミーレに駆け寄った。
「大丈夫だよ母ちゃん」
「あんた朝飯食ってないんだ。立ったまんまで良いから、しっかり食いな」
 リラに差し出された野菜スープのマグとパンを両手で断りながら、
「待ってくれよ。見張りに二人置いてきちまってる」
「大丈夫さ。二人の分もたっぷり弁当も作ってあるから、ささ遠慮しないで食べな」
「さすがだぜ。わかった。食べるよ。ところでターニャはどうしてる? 飯は食ったか?」
「大丈夫、けろっとしてる。朝食もちゃんと平らげたさ。あんたと私の娘だよ? 柔なわけがない」
 毒気が抜かれたような顔で、村人はこの若い夫婦のやりとりを見ていた。
 視線に気がついたリラが、
「やだよ。あんたら」
 宙を叩くように手を振った。
「ミーレ、案配はどうじゃ」
 ギルの言葉に、ミーレはパンを喉に詰まらせ、呻きながら胸をどんどん叩いた。やっとの思いでパンを飲み込むと。
「戦士の墓だ。奴ら戦士の墓に巣を造ってる。見張りは一匹。弓を持っている奴が一匹出入りしていた。まだそこまでしかわからない」
「戦士の墓か」
 村の上流部、沢の流れの近くにあるが、どれほどの雪解け水が訪れようとも浸水することのない、隣り合った三つの洞穴があった。それら洞窟は自然にできたものではなく、確かに手掘りではあるのだが、その壁面は陶器のようになめらかで、その中からは、鏃や、剣の一部が出てきた。かつてこの世界にいた大地の妖精たちが、この地を去る前に戦死者を埋葬していった場所と、村の古老は伝えている。真実はわからないが、その証のように、戦士の墓の正面には、陶器のような質感の橋の基礎が五つ、風雪や雪解け水にさらされても朽ち果てることなく沢の流れに立っている。村の子供たちにとっては格好の度胸試しの場であり。オックスにとっては、鍛冶を営む曾祖父それ以前よりそうしてきたように、鉄の神の従者だった妖精たちの英霊を弔うため、鉄の神の祝日には酒の入った瓶をはじめとする供え物をする場所だった。
「酒の瓶はあったか? 白い瓶だ」
 オックスは聞いた。鉄の神の祭日は二日前だ。まだ下げてはいない。ギルが語った犬鬼の異称も引っかかっていた。
「いいや。そんなものは見当たらなかったな」
「奴らも酒を飲むかも知れない」
 オックスのその言葉だけで、ギルは理解したようだ。
「冒険者のときと同じようにたらふく酒を飲ますわけじゃな」
「ああ」
「ところでさ。村長、村の腹は決まったか?」
 深刻さとはほど遠かったが、その声に一度弛緩した空気が再び引き締まってゆく。
 村長は、村人一人一人の顔を見るように。
「皆の衆。どうだろ? 皆の衆の力を合わせてゴブリンもあの獣人も倒そうじゃないか」
「やるぜ」
 粉ひきが答えた。
「ああ、妻や娘を売りに出せるわけがないじゃないか」
 モミの木が答える。
 村長の声に、応える声がそこかしこで上がっていく。村人の声が上がっていく中で、
「ミーレお前の知恵を貸せ」
 ギルがミーレに声をかける。
「いいぜ。やるぜ」
 ミーレは白い歯を見せた。

   *

 若き日の自分なら、一人で担ぎ上げることができた。
 ギルは老いを恨めしく思った。目の前には全く動こうとしない彼の父親と兄弟が丸太を縦に裂いて作った食卓がある。これを持ち上げることを三度、挑戦して叶わなかった。仕方なく食卓に両手を付き、膝を曲げ、脚で地面を蹴りつけるよう全身に力を込めて、暖炉の方へと押す。ひたすら押す。机の脚がこすれ、音を響かせながら、食卓は気に入らないと言わんばかりの歩みで動き始めた。力の限り押すことで、火の消えた暖炉まで移動すると、一息をつき、すぐに作業を再開した。椅子を二つ持ってきて、一つは机の上に、一つは机の側に。椅子から机、さらにその上の椅子と即製の階段を作ると、それを登った。暖炉に近い鴨居の上に手を伸ばし、そこにあるはずの感触を探る。一つはすぐに見つかった。それをテーブルの上に置き、もう一つを探す。やがて手が思い通りなものに触れて、引き寄せる。
 埃とすすで黒ずんだ布にくるまれた棒のようなもの。巻いてある粗末な麻布を外すと、四十数年前と変わらない。油を引いたように錆一つない長剣が現われた。
 なんて顔をしよる。笑え。
 刀身に映り込んだ顔に心の中で語りかける。
 映り込んだ顔が唇の端を引くように笑うと、意外なところから声をかけられた。
「おじいさん」
「なんじゃ。ばあさん」
 ギルは軽々と高い場所から降りて見せ、長剣をテーブルの上に置き、妻を抱き寄せる。妻が少女だった時代から何も変わらない。何度文句を言われても変えようとは思わなかった。互いの呼び方も、他の夫婦のやり方は知らない。自分たちは遊び半分で始めたようなものだ。肉体の衰えと共に、物を忘れた妻を軽くからかった後で、自分の用を忘れるようになっても、自分はあの頃の餓鬼でしかなく。妻は、その餓鬼についてくる年下でありながら姉のような娘なのだ。
「無理はいけませんよ」
「安心せい。無理はせん。そうじゃ、これが終わったら、そろそろ祭りの準備を始めなければならない。今年からは、ダーナにそれを任せようと考えとる」
 村祭りの総代は、代々高屋根の屋号を持つ家の主が務める習わしになっていた。が、ギルは屋号は娘婿に譲っても、総代までは譲ろうとはしなかったのだ。
「おじいさん」
 その声に困惑が混じる。
「なに。いい加減年寄りは引っ込むべきじゃろ」
「弱気になっているんですか?」
 ギルを気遣うどころか、それは責めるような口調だった。
 これには、「何を言う」という言葉しか出てこない。
 妻は言葉を続けた。
「末娘が結婚してもおかしくない歳のダーナをずっと婿殿扱いしてきたのに。名前で呼ぶだなんて、らしくもない」
 村人の話し合いで、若者の言葉に粉ひきの隠居が杖を振るおうとしたとき、まず一番初めに止めに入ったのは、三番目の娘の旦那で、この高屋根の屋号を引き継いだダーナだった。酒は飲めぬが真面目な働き者という美徳が取り柄の、他から見ればうらやましがられる、ギル本人としてはまったく面白味のない娘婿だったが、二十数年目にして意外な発見したのだ。別に、心が弱くなって吐いた遺言めいた言葉ではなく、妻の心配を和らげるために言った思いつきの言葉が、弱気と受け取られて、ギルは面白くなかった。
 顎を掴んでから口づけするまでの動きは、慣れたものだ。スープを口に運ぶよりも正確に、抗議さえ与えずに済ませることができる。
「ギル用意できたぞ」
 若者がノックもなしに飛び込んできても、
「なんじゃ、やかましいの」
「いや、その」
 後ずさるほど狼狽している若者に興味のかけらもなく。
「ばあさん、行ってくる。夜遅くまではかからん」
 総代の女神の頸環を外し、それにキスをすると食卓に置いた。代わりに長い間、梁に置いてあった戦の神を称える青銅の頸環に付け替え、机の上の長剣を腰に佩いて、農作業に出かけるかのように家を出た。
「はい、行ってらっしゃい。おじいさん」
 その背中に声をかける妻も慣れたもので恥ずかしがる素振りすら見せなかった。
 村の若者に案内されて牧場に行くと、三十人を超える年齢の若い者を中心とした男たちが集まっていた。
 彼らに作らせていた即製の長槍を一つ受け取り、片手で構える。
 悪くはなかった。
「酒だけで決着がつくものではない。酒はあくまで判断を鈍らすためじゃ」
 木の先端を削らせ、滑る止めに石突きの方から麻縄を巻いただけのものだが、これだけの加工で人間の胴ならなら簡単に突き通る。
 ギルは、自分の背よりも高い丸太の槍を右に左に、その尖らせただけの穂先で、巨大な円と弧を描いて見せた。
 若者たちから感嘆の声が漏れる。
「いいか、こんな曲芸はいらん。まずは、三人一組を作れ。その三人が一体となって一匹に的を絞って攻撃じゃ。二人は突く、殺すためではない。絶対に近寄らせないためじゃ。一人は上からひたすら叩け。撲殺しろ。距離を取れば、奴らの手斧は届かん」
 ギルは、牧場の柵をゴブリンに見立てて、突く動作と、撃ち降ろし叩く動作を実演して見せた。一挙一動に若者の声が上がる。
「やってみろ」
 その鋭い言葉に、先ほどまで声を上げていた若者たちは、すぐには動けなかった。仕方がないとギルは思う。畑の実りは多く、争いごとは少ない。気候も穏やかな村なのだ。村人の気質も、羊のようなものだと、何も知らなかった頃は思っていたくらいだ。
 ややあって、血の気の多い栗の木の息子を中心とする三人組が名乗り出た。栗の木の息子は、背の高さでは頭一つ分、肩の幅もわずかにギルに勝っていたが、鍬なら十分振るうことができても、長槍を突く動作は、彼に言わせてみれば、腰が入っていなかった。
 この者たちを死なせてはならん。
 ギルは一瞬目を細めたが、
「声を出せ、腹の底から声を出せ、声だけで相手を奈落の底へ突き落とすつもりで声を出せ。お前たち、何ぼんやりしている。長槍を取って、栗の木の息子たちに続け」
 若者たちの中には、普段からこの口やかましいこの祭りの総代を務める老人を嫌う者もいたが、ギルの叱咤を受けながら、声を腹の底から出す内に、もはやそのような思いは霧散してしまった。

   *

「問題は酒を飲ます方法だ」
 ゴブリンの巣となっている戦士の墓をのぞき見たあと、オックスは、誰に尋ねるわけでもなく言った。
「ただ、置くだけでは、ダメなのか」
 村長が恐怖心を隠せない調子で聞いた。岩に隠れてはいるが、沢を挟んだ向こう岸に、ゴブリンたちがいるのだ。表に姿を現していないが、あの獣人も確かにいる。
「ただ置くじゃ、罠だと思われて手を付けない。熊を狩るにしても、野ウサギの死体をただ置くだけじゃ引っかからないぜ」
 ミーレの声は凄みが増していた。
 そのことを察したオックスは、
「何か案でもあるのか?」
 と促した。
「わざと奪わせるんだ」
「奪わせる」
 言葉の違和感がそのまま言葉となって出る。
「そうさ、奴らに酒を奪わせるんだ。俺が川上の死角になっている場所で火をたいてウサギ肉と、酒で、宴会としゃれ込む。そこへゴブリンをおびき出すって寸法だ」
「危険ではないのか? 少なくともやつらの仲間を三匹倒している。復讐に猛っているのではないか?」
「復讐に猛るなら、すぐにでも村にとって返すさ。やつらは獣人の命令がなければ大きなことは何もできない。だから、命令の必要がない駄賃程度に奪わせるのさ」
「ミーレよ。それでは、ただ拾わせるとの違いがわからない。しかも危険なだけに思えるが」
 村長が口を挟んだ。
「酒を奴らの見える場所まで持って行くのも危険には違いないさ。奴らの目の前で呑んで食っているものを奪わせることに意味がある」
「ん、なるほど。目の前で呑んで見せて、酒が罠ではないことを示す訳か」
 村長は納得したような声を上げたが、それだけではないとオックスは思った。
「村長、ギル爺さんが言ってたぜ。時間がないって。さっさと酒を準備してやっちまわねーか」
「おお。さっそく酒とウサギ肉を用意させよう」
「ネッド、ヴェッドお前らも村長の後について一度村に降りろ。昼の腹ごしらえと、酒を運ぶのを手伝え」
 太っちょとひょろ長い子分は「わかりやした」と返事を返した。
 村長たちの背中を見送ったあとで、オックスは口を開いた。
「先ほどの続きだが、ゴブリン共は、お前を殺すか追い返すれば満足してしまわないか?」
「満足しないね」
「確証があるわけか」
 オックスの言葉にミーレは、さらさら隠すつもりもなく「ああ」と言った後で、言葉を続けた。
「ねたみだ」
「ねたみ?」
「ああ、ねたみさ。他人が楽しそうにモノを食っている。ただそれだけのことが、うらやましくて、はらわたが煮えくりかえる。巻き上げたものを喰らうことでしか押さえることのできない怒りが腹の中でグツグツする。ものを奪う連中なんてみんなそうさ。だから絶対にやつらは引っかかるさ」
 悪餓鬼ミーレの話しの一端が思い起こされた。だから、
「お前自身の経験か?」
 とだけ聞いた。
「ああ」
 ミーレは何でも無いことのように答えた。
 今のミーレが、ものを奪う連中ではないことはよく知っていた。だから、
「だが、矢を射かけられてはたまらないぞ。命だって危うい」
「奴が使っているのは短弓だ。背中に分厚い板でも入れておけば、先っぽくらいは刺さるかも知れないが平気さ。それに、元気なウサギのように逃げればまず当たらない」
「万一、頭にでも当たったら」
「頭には絶対、当たらない」
「どういうことだ?」
「弓矢を使っているのなら、矢を外すときは狙いの手前に落ちるもんだ。胴に当てても頭に当たることはない」
 今朝のオックスに手斧を振りかぶってきたゴブリンの姿が思い浮かぶ。そのことをミーレも思い出したのか、
「鍛冶屋の旦那に斬りかかったゴブリンに当たったのはさ、実は、その……」
「ん?」
「ありゃ、まぐれだ。ゴブリン共にブルッちまってさ。手元が狂った。だから礼はいらないって言ったろう?」
 その言葉を聞いて、オックスは声を潜めて笑いはじめた。ミーレも肩をふるわせながら笑った。

   *

 オックスが現場の下見を終えたのと入れ替わるように、村長とその使い、ミーレの子分たちが六つの樽に詰めた蒸留酒、肉類を運び込み、罠の宴の準備が進められた。細心の注意をもって上流側の向こう岸へと渡り。先に当たりを付けておいた河原に樽を置かせると、ミーレは即製のかまどを作り、真っ赤な火龍の実を粉にしてまぶしたウサギ肉を石の上に並べた。
「お前ら何をしている。さっさと戻れ」
 ミーレは、酒樽を置いたのに一向に戻ろうとしない子分たちをにらみつけた。
「兄貴」
 太っちょのヴェッドが、心やましいことあるのか目を見ずに、声を上げた。
「なんだ。言ってみろ」
「俺たちを男にしてくれ」
 ひょろ長いネッドが、両膝を突いて頭を下げた。ヴェッドもそれに習う。ミーレはあっけにとられたが、それは一瞬のことで、
「ってくしょうがねーな。だが、今から言う、これだけは守れ。守れないならすぐに戻れ」
 二人の子分が、頷くのを見てから、言葉を続けた。
「俺は俺の命しか守らない。お前たちも、お前たち自身の命だけを守れ。仲間を助けようなんてこれっぽっちも思うな。これは狩りなんかじゃない。熊の体と、人間のズル賢さをもつ敵との殺し合いだ。ゴブリンがここに出てきて、あいつらが俺たちを殺す気で追いかけ始めたら、自分の命だけを持って村に戻るんだ。言っている意味わかるか?」
 ネッドは唾を飲み込むだけだったが、太っちょのヴェッドは、
「わかった。俺は俺だけの命を守る。兄貴はリラさんとターニャちゃんのことだけ考えていてください」
「お前。言うなぁ」ミーレは白い歯を見せた後。「かまどに火を付けろ。宴の始まりだ」
 子分が起した種火から立ち上がった炎が、かまどの中で小枝や薪をあぶり始める。白い煙が川下の方に向かって流れていくのを見て、ミーレはニヤリと笑った。さらに、匂いが立つようにと、わざと酒をまき。歌の才能があるネッドに視線を送る。ネッドは、音を外しながらも、どうにか歌を歌い始め、ミーレとヴェッドは手拍子でそれに応えた。
 門番のゴブリンは、火がたかれ始めてから、しきりに上流へ顔を向け、気にしていたが持ち場を離れることはなかった。ミーレの子分が歌い始めると、不用心にも、一匹でミーレたちの宴が見える位置まで無造作に近づいていった。ミーレたちの姿を見つけると、驚いた様子で右端の洞窟へと駆け込んでいった。
 すぐに、五匹のゴブリンが洞窟から現われ。門番をしていたゴブリンであろうか、一匹に先導されるかのように、ミーレたちに迫りながら、ゴブリンたちは自分たちのテリトリーに入った人間たちに、威嚇の声を上げた。
「やばい。逃げろー」
 あまりにも不自然な演技めいた声だが、ミーレたちは三人は、口にしていた酒を置いて、上流へと逃げ出した。
 ゴブリンたちはなおも追う姿勢をみせた。そのうち一匹が立ち止まり、短弓を構え放つ。本気で放ったものではなかったのだろう。綺麗な放物線を描いて、わずか前にミーレが踏みしめた岩の上に落ちた。
 ここにいる誰もが、ゴブリンたちがミーレたちを殺すまで追跡をやめない可能性を考えていたが、ミーレたちが上流を塞ぐようにしている岩の塊を、猿のごとく登って行ってしまうと、それで満足したのか、それ以上追うことはなかった。
 それら様子を全て見ていた村長は、沢の対岸の岩の影で、呼び笛を手にしたまま、フーとため息をついた。
 だがこれで終わりではない。
「酒を飲んでくれ」と小声で念じた。
 ゴブリンたちが酒に興味を示さなければ何の意味もないのだ。
 その祈りが届いたのか、洞窟へと引き返すゴブリンたちは、ミーレたちの持ち込んだ酒樽に興味を示した。そのうち一匹が岩の上で焼かれている薄く切られたウサギ肉に興味を見せて、迂闊にも、火傷したようだ。
 その横で、弓を持ったゴブリンが、飲み残しの椀を拾い上げ、匂いを嗅ぎ吟味するかのように酒を口に含み、すぐにも椀を平らげた。
 よし。のぞきこんでいた村長は声を上げそうになった。
 弓を持つゴブリンは、何事か、他のゴブリンに指示すると、略奪物をその場で呑んだり食ったりすることなく、二つの樽を中央の洞窟へと運ばせた。
 中央の洞窟から、雷の轟音のような声がして、対岸の岩の裏に隠れているにもかかわらず村長は悲鳴を上げそうになった。あの獣人の声だ。
 五匹のゴブリンたちは、恐ろしい声に追われるように洞窟から飛び出し、中にいる何かが、ゴミや石ころを投げつけるのを見て、村長はミーレの策が、完全にはまったことを確信した。

   *

 赤く灼熱した鋭く尖った二等辺三角形が出来上がると、それを水につける。
 投げ槍を鍛えるとは思わなかった。武器を作る経験がないわけではない。冬季、冬眠している熊を狩る槍を制作したことは何度かある。だが、こんな急ごしらえな代物では、ろくに打ち合うこともできないだろう。
 そうなることをあらかじめわかっていたのか、ギルはこう言った。
「オックス、肉に刺されば良い。指三本分中に抜ければ、どこを刺しても、あのゴブリン共なら動けなくなる」
 それは、あの犬鬼には効かないことを指すのではないか? と思ったが口にはできなかった。
 斧を全力を持って、二の腕や露出した太もも、顔に叩き付けることができれば、あの獣人とて倒せるのではないかとも思う。が、斧を叩き付けられるほど接近ができるのか? 仮に接近できたとしてもかわされてしまえば、それまでだ。勝てるイメージというものが持てない。
 頭の中をさらにするかのように、目をつぶりため息をついてから、次の仕事の準備に取りかかった。この後には、沢にかける仮設の橋の制作が待っている。
 頭の中では見当は付いていた。橋の基礎はもうすでにある。戦士の墓と同じように大地の妖精たちがこの地に残した技だ。そこに、二本の丸太の間に板を渡し固定した板を、三枚ほど架けて伸ばし、橋とする。この橋の上で戦うことも想定していたが、谷の上流部である戦士の墓まで運べなくては意味がない。橋を敵地で架ける以上、時間の余裕もない。ただ頑丈に作れば良いのなら誰でもできる。ここは、腕の見せ所であった。
 あとそれとは別に、彼は考えていた。

   *

 山が日暮れの様相を見せ始めた頃。戦士の墓の対岸に位置する大岩の裏に、ギルは足を踏み入れた。
「どうじゃ。案配は」
 その声にギルの姿を一瞥すると、ミーレは視線を三つの洞穴に戻した。
「上手くいきすぎだ。奴らが人間だったら、良い呑み仲間になれたのかも知れねーな。見張りすら出てこない」
 戦士の墓の前にはゴブリンの姿は見えず。ゴブリンなど最初からいなかったように、沢の音だけがこの場を埋めつくしていた。
 ゴブリンたちは、二つの樽を獣人の元に運び込んだ後。残りの樽をちゃっかり自分たちが頂いていたのだ。
「宴の中という訳か」
「兄貴たちよ」
 ミーレの子分、太っちょのヴェッドが声を上げた。
「なんだ?」
「寝てるところを冬眠している熊をやるみたいに、やることはできないか?」
「バカ言うな。寝ている熊だって十分以上に命がけだろ? しかも、奴は人間の頭と熊の体を持っている。酔ってはいるだろうが、眠りこけるほどアホじゃない。寝込みを襲おうとすれば、逆に寝てるフリにしてやられちまうぞ」
 子分は反論できずに唸った。
「だから、俺たちは何重にも罠を張り巡らすわけだ」
 ギルはそんな二人のやりとりに無言のまま目を細めた。
 ミーレは思い出したかのように、
「ギル爺さんが来たってことは、そろそろやるのか?」
「そうじゃ、打ち合わせ通り、お前ら狩人は、ゴブリンの射手を潰して欲しい。必ずじゃ」
「橋には、爺さんが立つのか」
 声が一段も二段も低くなる。
「罠には餌が必要じゃろ?」
 ギルはおどけて見せた。
「それなら俺が……」
「くどい。くどいぞ。お前らが、弓手を潰さなければ、後詰めの者に害が及ぶ。危ない橋……とんちが効いてるな。ふふふ。橋を渡るのは、もう十分に生きたものの務めじゃて。頼んだぞ」
「ああ」
 ミーレはその返事の後に、言葉が喉の奥からあふれ出そうになるが、ぐっと堪えた。その代わりに、狩人たちが身を隠す岩から降りていくギルの背中を、見えなくなるまで追い続けた。
「兄貴」
 ひょろ長いネッドに声をかけられ、
「ああ」と答えて、気を引き締める。
 沢に、即製の橋を架け始めたら、火矢を打つ。
 その計画通りに、橋を担いだ村男衆が現われるまで、その時を待った。
 この時点で、見張りがいたのなら、すでに、矢は放ったれていた
 不安がないわけはない。だが、見張りが出ていない今以上の機会はない。十分に上手くいくはずだ。上手くいくと思わなければならない。
 そんな思いが堂々巡りする中で、一条の光明のような、美しい声が思い出された。
 あんたならなんでもやれるさ。狩りと航海の女神はあんたが大好きなのさ。
 妻は、そうミーレに言った。
 そうさ、俺はやれるぜ。母ちゃん。
 ミーレは自分に言い聞かせ、その時を待つ。
「兄貴」
 先ほどと同じ言葉だが、切迫した声を上げる。
 もう後戻りはできない。戦士の墓側でも、男二人分の背丈よりも長い仮設橋を担いで走る男たちの姿が見えているはずだ。
「まだだ。まだ待て」
 沢の流れに逆らうように立つ橋の基礎に、粉引きと牛飼いといった力自慢の男たちが、手際よく仮設橋を渡していく。ゴブリンたちが姿を見せる前に橋が架けられた。
 火の付いていない矢をつがえたまま、その様子を見ていたミーレは、荒ぶる気を落ち着けるように、短く息を吐いた。
 仮設橋の上を、投げ槍と楯を手にしたギルが向こう側近くまで踏み込んでいく。
「よし、今だ」
 火種から、油を染みこませた布を巻いた矢に引火させ、矢を放つ。火矢は綺麗な弧を描いて、狙い通り中央の洞窟に吸い込まれていった。
 それを手初めに、火矢が右側の洞窟にも打ち込まれた。橋を運んだ男たちも、沢の岸で待機したいた男たちも、手に持った鍋や、急ごしらえの楯を叩いて騒ぐ。
 洞窟からゴブリンたちが出てきた。
 ミーレはその中から、ギルに狙いを定めようとした短弓を持ったゴブリンに矢を放つ。
 子分たちもそれに習うが、ゴブリンの足下や頭上を越えて、当てることができなかった。逆に、ゴブリンは慣れた動作で、立つ場所を変え、弓の張りを強くすると鏃の先をミーレたちに向けてくる。
「当たれ」
 子分たちが放った二本目の矢は再び頭上を越えていき、逆にゴブリンの射手が引き絞った弦を離す。
 ほぼ同時に、ミーレは、妻の名と共に、つがえた矢を放っていた。
 二本の矢は放物線を描きつつ沢の上で交差し、一本はミーレたちに、一本はゴブリンの射手に迫った。
 そのことが、この瞬間のミーレには見えていた。
「ぐわっ」
 ミーレの右隣で、子分が悲鳴とも怒声ともつかない声を挙げる。
 ミーレの矢は狙いを外さすゴブリンの腹に吸い込まれていった。
 片耳を押さえ、かがみ込む子分の名を叫んだ。
「大丈夫か」
「大丈夫だ。こんなのはかすり傷だ」
 無理に笑い白い歯を見せるネッドだが、耳を射貫き顔を削いでいったのか、押さえた指のあいだからも血が溢れていた。
「ヴェド、ネッドを頼む。御師さんに診せれば間違いなしだ。下がってくれ」
「ミーレ兄さんは?」
 ミーレは沢向こうのゴブリンの射手を一瞥した。汚らしい盗人、小鬼と呼ばれる生物はうつ伏せのまま動かなくなっていた。
「射手は潰した。俺も前に出る」
 ミーレは岩から、飛び降りると架設橋に向かって走り始めた。
 ギルを死なせるわけにはいかなかった。
 今、ミーレがここにあるのはギルのおかげだ。狂犬そのものだった餓鬼の頃。盗む、壊す、人に会えば悪態つく。農作業も手伝わずに暴れ続けていたミーレを拳をもって叩き直したのはギルだった。狩人に預けてくれたのも、リラをリラの両親を説得して自分に引き合わせてくれたのもギルだ。
「死ぬなよクソ爺」
 ミーレは叫んでいた。


 ギルは持ってきた二本の投げ槍を突き立てると、まずは観察した。
 飛び出してきたのは、ゴブリンが二体。遅れて三体。弓を構える一体は、入れ墨や骨を用いた装飾が他の個体と異なっていた。その腰には鹿の毛皮でこしらえたのだろう矢筒まである。
 元の群れの長か。呑まなかったのか? 上手くはいかぬのぉ。
 ゴブリンの射手は、油断なくギルに狙いを定めたが、その周り三本の矢を受けると、弓を使う者の冷静さで、その場から離れ、流れるような動作で弓を強め、村人側の射手に狙いを変えた。
 頼むぞミーレ。
 ギルはそう心で念じると、一本目の槍を、手斧片手に飛び出してきたゴブリンめがけて投げつけた。
 オックス良い仕事だ。
 心の中で賞賛する。
 狙い通り、投げ槍はゴブリンの脛に突き刺さり、足を刈られた勢いそのままに、槍に抱きつくように河原の石に顔を打ち付けた。
 死んではいないが、これで数にいれなくても良い。
 二本目の投げ槍を引き抜いた瞬間。ゴブリンの射手が腹に矢を受けてその場に崩れたのがわかった。
「良い仕事だ」
 ギルは口に出してそう言った。
 遅れて出てきた三匹は、足下がおぼつかず明らかに酒に酔っている風だった。三歩分、後ろ下がながら、右端の先行しているゴブリンに狙いを定めると、軽くフェイントをかけてから槍を投じる。投げ槍は音もなく腹に突き刺さった。
 これで投げ槍は尽きた。再び使うことなどないと思っていた剣を引き抜きながら、また二歩分後ろに下がる。剣が傾いた陽の光を受けて光をあげた。
 酔っ払った二匹のゴブリンは、仲間の死を恐れず向かってきた。いや、逃げ出せば獣人に血祭りに上げられるのだろう。ギルを恐れるよりも明らかに獣人を恐れていた。ゴブリン共は架設橋に辿り着き乗ってきた。
 ギルはここで楯を捨てて両手で剣を構えた。左足を引き、左肩に剣を乗せ、右手は柄に添えるだけ、左手だけで剣を持つ。
 二匹のゴブリンは二歩踏み込めば斬れる位置にいる。逆に踏み込まなければならない位置にまで迫って来ていた。
 奴は、この騒ぎの中でも動かないのか。
 そう苦く思った瞬間だった。冷たい鋼を押しつけられたかのような視線、殺気を感じた。黒い塊が中央の洞窟から疾風のごとく飛び出し、地面を蹴り宙に飛び上がる。
 ギルは背中に冷たいものを感じながら、でも口元は笑みを作っていた。
 黒い塊、犬鬼と呼ばれる獣人は、ギルを軽く飛び越え橋の中央に飛び乗った。恐るべき瞬発力と跳躍力といえた。
 その衝撃でギルの体は面白いように飛んだ。橋は、獣人の重さに耐えることなく、獣人が飛び乗った瞬間にくの字に折れ砕けたのだ。
 衝撃で橋から落ちたゴブリンたちが悲鳴を上げながら沢に流されてゆく。獣人も必死に水面から顔をのぞかせるが、鎧の重さと蒸留酒の酔いが、氷るように冷たい水とその流れに逆らう力を奪っていた。が、これだけでは、どこかの岸に流れ着いてしまう可能性があった。無論、対策は立てられていた。ミーレによって立てられた罠は酷薄ですらあったのだ。
 流れの少し先に、淵になっている場所がある。最初は川底の岩に何かの拍子に付いた傷だったのだろう。その傷に堅い小さな石が引っかかり、沢の流れで回転しながら穴を穿ち、削っていき。そのようなことを幾度か繰り返していくうちに、水面が渦を巻く蒼い光を称える淵になった。そういう場所があったのだ。狙いはそこだ。
 もし、仮に岸に流れ着いたとしても、要所要所に配置された長槍隊が速やかに撲殺する手はずになっている。罠に漏れはない。とはいえ、ギルは、これだけのハンデを課しても、戦うために生まれ研鑽してきた獣人に叶うとはこれっぽっちも考えてはいなかった。
 だから、ここで、狙い通りに沈めなければならない。確実に自分という餌に食いつかせなければならなかった。
 ここまでは狙い通りだ。
 ギルは死ぬ気など毛頭もなかった。凍え感覚がなくなっていく中、剣を手放し、冷静に酸素をだけを吸うことを心がける。懸命に泳ぐ。村人の悲鳴が上がる中、自分が淵に向かって流されていくのがわかる。淵は渦を巻く。巻き込まれればそれまでだ。
「ギル!」
 耳を沢の音と水が塞いだが、その声だけは、しかり聞こえた。
 オックスは、家出をした子供の日、街のゆったりと流れる川で、漁をしている若者たちに声をかけ、その仲間になったことがある。
 彼らは空中に花を咲かすかのようにと網を投げて、魚を捕るのだ。
 流れから顔を出す岩の上から、オックスは投網を投げ入れた。
 ギルの力強い指がその投網にかかる。


   エピローグ

 オックスは、瓶に口を付けて蒸留酒を飲んだ。
 口を拭いながら隣に座るギルに差し出す。
 鍛冶場の軒下に座り込み、そこから見下ろす村は、ほぼ夜闇に沈み込み、わずかばかりの灯りが見えるだけの、いつもの景色だった。だが、今日は、なぜか、そんな当たり前のことに満ち足りたものを感じた。
 ギルも同じ気分なのだろう。無口なままそれを受け取り、蒸留酒とは思えない飲みっぷりを見せる。
 こうして二人で呑むのは、初めてとは思えないほど自然で、まるで生まれ落ちたときからの父子のように、あえて特別な会話など必要としていなかった。
 熱すぎるため息をつきながら、瓶から直接酒を飲み、自分の手元に戻って来る度に軽くなっていく瓶を再び渡す。
 だが、一つだけ確かめておきたいこともあった。オックスは仕事熱心な無口な男と観られがちだが、本当は子供のように好奇心が強い。今日はさらに酒精によって、たがが外れかけていた。
「ギル。剣はどこで習ったんだ」
 ギルは笑った。熱い息を吐き散らすと、
「若い時分じゃ。バカをやったのはお前だけではない。冒険者を志した」
 オックスは眉をひそめる。
 ギルの父親は、略奪者となった冒険者を襲撃した際に、酔ってもなお抵抗する相手に斬り殺されていたはずだ。
「守りたいものを守れるだけの力が欲しかった。じゃが、あの獣人、犬鬼の一族にやられて、夢を捨てて戻ってきた」
 瓶に口を付ける。
 やがて詩を朗ずるかのように、再び語り出した。
「若いときの夢というものは、本当に大事なものを見る目を曇らせる。
 家族が集まり、村になる。そんな一番簡単で、一番大事なことを見えなくしてしまう。
 家族を守ることが村を守り。自分自身をも守ることにもなる。
 人間の歴史で、血と想いを伝え継いでいけるのは、楽しき祭りの吟遊詩人の歌などではない。あたたかな暖炉の前の家族だ」
 ギルが差し出した瓶を受け取り、オックスは口を付ける。半ば空ける勢いで飲み込むが、全てを呑みきれずに、熱い息を吐いた。
「家族か」
「そうじゃ。ミーレが一人前になれたのは誰のおかげじゃ? 儂もお前も一緒じゃ」
「お、いたいた」
 ミーレがひょっこり闇の中から姿を現した。
「ほら噂をすればじゃ」
 その言葉にオックスはニヤリと笑う。
「よぉ、お二人さん。母ちゃんがさ。酒と食い物持ってけってさ」
 二人の座る前に、酒の入った瓶を二つ、燻製された肉を置く。
 オックスは、無言で自分たちが口を付けていた酒の瓶を差し出した。
「いただくぜ」
「たんと呑め」
 そう言われないでも呑むと言った勢いで飲み始めて、残りを完全に飲み干しきった後。
「美味い。生き返る」
 顔を真っ赤にして声を上げる姿に、二人は笑い。ミーレも笑った。

stone cold

Special Thanks
藤沢由宇
影守俊也
久道進

TRPGシステム『retar』ルールPDF配布場所>> http://www.ne.jp/asahi/sure/ra/

stone cold

ゴブリンが現われたとき。村人は冒険者や代官には頼らずそれぞれの技や知恵で戦うことにした。オリジナルTRPG retar リプレイ小説。 イラスト:影守俊也(Forbidden Resort)

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-01

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著作権法内での利用のみを許可します。

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